【喜熨斗勝史の欧州戦記|第4回】ヨーロッパの育成方針は「肯定的評価」。アンサーを提示するのではなく――

【喜熨斗勝史の欧州戦記|第4回】ヨーロッパの育成方針は「肯定的評価」。アンサーを提示するのではなく――

  • サッカーダイジェストWeb
  • 更新日:2021/07/21
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22歳のルカ・イリッチ(写真左)と18歳のネマニャ・ヨビッチ(写真右)。セルビアでは若手のプレーに対して肯定的に評価してあげられる環境が整っている。

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喜熨斗コーチ(写真左)と22歳のイリッチ(写真右)。セルビアでは若手に対して選手個々の判断力を磨かせている。

セルビア代表のドラガン・ストイコビッチ監督を右腕として支える日本人コーチがいる。“ピクシー”と名古屋でも共闘し、2010年のリーグ優勝に貢献した喜熨斗勝史だ。

そんな喜熨斗氏がヨーロッパのトップレベルで感じたすべてを明かす連載「喜熨斗勝史の欧州戦記」。第4回は、欧州の育成方針について語ってくれた。

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1大会最多となる142得点が生まれたEURO2020が終わり、今日からは東京五輪のサッカーが始まりますね。今回はEUROを踏まえて、欧州の育成方針について話を進めていこうと思います。

現在、日本に滞在している私は、9月から再開する欧州予選へ向けてEURO2020をすべてテレビ視聴しました(セルビア代表は予選敗退で不出場)。もちろん我々はA組1位突破でストレートにカタール・ワールドカップ出場を狙っていますが、万が一、プレーオフに回ることになれば今大会に出場した欧州国はどれもライバルになる可能性があります。

今までは新しい戦術を参考にして、自チームにどう落とし込むかという視点で見ていましたが、今回はどう攻略するか、どうすれば止められるかという現場目線で見ていました。新しい戦術もあったし、各国の若手の台頭も目立ちました。

イタリア対イングランドのファイナル。PK戦で外した3人が試合後に様々なメディアで取り上げられましたが、マーカス・ラッシュフォード(マンチェスター・ユナイテッド)は23歳、ジェイドン・サンチョ(マンチェスター・ユナイテッド)は21歳、ブカヨ・サカ(アーセナル)は19歳。PKを蹴った勇気も称えられるべきですし、彼らはクラブでもレギュラーで強烈なインパクトを残しました。

また、東京五輪に出場するスペインもU-24世代はペドリ(バルセロナ)ら6人。デンマークも同3人、ポルトガルもレナト・サンチェス(リール)ら同4人が出場。“若手”ではなくベテランと同じくチーム戦術理解をしたうえで自分の特徴を出していました。トップ・トップの育成ができている証左でしょう。 欧州クラブは才能、可能性のある若手は練習で鍛えるのではなく、試合で起用する傾向にあります。分母が良いので、トップチームに吸い上げられる選手の質も高いのは事実ですが、その前段階である指導者の“見極め力”も素晴らしいものがあると感じます。

欧州はサッカー強豪国が多く、ワールドカップに出場するには欧州内で勝ち抜かなければなりません。なので、目線が常に高い位置にある。そのトップリーグで活躍するには――というところから逆算して育成に乗り出しています。私がいるセルビアを例に挙げてみましょう。

ここでは個のプレーに対して肯定的に評価してあげられる環境が整っていると感じます。例えばボールを味方に落として自分は前に出れば良い時に、ターンして前を向いて仕掛けようとします。ミスしたら“落とせよ”となりがちですが、ターンをして前を向いて勝負したことがロジカルなリスクならばOKと評価されます。

当然、指導者はボールを落とすアイデアも与えますがアンサーとして提示するのではなく、選手個々の判断力を磨かせます。トップで間違えた判断をしないように育成で失敗して学んでいき、18歳や19歳でトップリーグでプレーできるだけの基本原理や自分ができることを身に付けていきます。
またポジションに捕らわれた練習だけではなく、CBの選手に1対1の練習もさせています。現代サッカーにおいては常にどこからでも攻撃参加を求められる。そのなかで適切なプレーができるようにさせていくのです。そうなると子どもにフォーカスされがちですが、実は大事なのは指導者のほう。日本国内には優秀な育成指導者の方々がいらっしゃいますが、もっともっと日本サッカーが強くなっていくには今は海外で通用する指導者の育成が大事になるのではないか、と。

日本が欧州よりも下にあると言うわけではありません。育成の最終形態は自国リーグの強化です。例えばイングランドの代表選手はほぼ全員がプレミアリーグでプレー。対して日本もセルビアも代表選手は他の欧州リーグでプレーしています。莫大な資金も必要になりますが、自国リーグが世界レベルになれば若手も自国リーグでプレーすればいい。そのためにも育成指導者が海外の最先端育成を自分の目で見て、肌で感じて、自分で理解し、日本人の育成年代に落とし込んでいかないといけないのかと思っています。 育成の目標はトップカテゴリーで勝てる選手を育てることであって、目先の勝敗を優先させることではありません。22日からは東京五輪の男子サッカーが始まります。U-24日本代表はメダル候補であると思いますが、スペイン以外の欧州国は世代最強メンバーではありません。フル代表で戦って勝てるのか、どうか。内容はどうだったのか。メディアも含めて商業ベースでの評価ではなく、世界のトップを見据えたアスリートファーストの目線で評価をして欲しいですね。

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PROFILE
喜熨斗勝史
きのし・かつひと/1964年10月6日生まれ、東京都出身。日本体育大卒業後に教員を経て、東京大学大学院に入学した勤勉化。プロキャリアはないが関東社会人リーグでプレーした経験がある。東京都高体連の地区選抜のコーチや監督を歴任したのち、1995年にベルマーレ平塚でプロの指導者キャリアをスタート。その後は様々なクラブでコーチやフィジカルコーチを歴任し、2004年からは三浦知良とパーソナルトレーナー契約を結んだ。08年に名古屋のフィジカルコーチに就任。ストイコビッチ監督の右腕として10年にはクラブ初のリーグ優勝に貢献した。その後は“ピクシー”が広州富力(中国)の指揮官に就任した15年夏には、ヘッドコーチとして入閣するなど、計11年半ほどストイコビッチ監督を支え続けている。
指導歴
95年6月~96年:平塚ユースフィジカルコーチ
97年~99年:平塚フィジカルコーチ
99年~02年:C大阪フィジカルコーチ
02年:浦和フィジカルコーチ
03年:大宮フィジカルコーチ
04年:尚美学園大ヘッドコーチ/東京YMCA社会体育保育専門学校監督/三浦知良パーソナルコーチ
05年:横浜FCコーチ
06年~08年:横浜FCフィジカルコーチ(チーフフィジカルディレクター)
08年~14年:名古屋フィジカルコーチ
14年~15年8月:名古屋コーチ
15年8月~:広州富力トップチームコーチ兼ユースアカデミーテクニカルディレクター
19年11月~12月:広州富力トップチーム監督代行
21年3月~: セルビア代表コンディショニングコーチ

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