父親の手術成功を祈る福田の「もう一つ」の願いとは?-連載:45-

父親の手術成功を祈る福田の「もう一つ」の願いとは?-連載:45-

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  • 更新日:2022/08/06
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危篤の父親を目の前にして、自分の親不孝さを自覚し、父親と話すことで胸のわだかまりが解けた福田健悟。父親の無事を祈る傍ら、福田には完全に名前を取り戻すキッカケになる、もう一つの転換点が訪れようとしていた。

頑固だった自分に気づかせてくれた親友・大志の存在

新幹線には名古屋駅で乗ることした。その前に、岐阜駅から名古屋駅まで行って、大志と会う約束をしていた。ずっと連絡は取り合っていたが、会うのは久しぶりだった。

「親父さん大丈夫だったんか?」

「まあ手術次第だけど、信じるしかないな」

「そうか。……あ、そうだ。インスタの写真とろうぜ」

大志はニートだった。親からお金を貰って生活をしている。今の僕には受け流せない事実だ。ひと通り話も尽きたあとで、確認をした。

「まだニートやってんの?」

「まあな」

「働いたら?」

「そういう気分じゃないんだよね」

「親がいて当たり前だと思ってねーか?」

「なんだよ。それ」

「もう親父に苦労かけんなよ!」

「お前に関係ねーだろ」

悪い空気が流れた。せっかくの再会ムードがぶち壊し。僕が悪いのだろうか。小山と解散をする前に、野口徹郎に言われた言葉が頭に甦る。

「いいですか? 福田さん。付き合う人は考えないとダメですよ。人は影響し合って生きているんですから。誰と一緒にいるかは大切なんです」

これ以上コイツと一緒にいたら、自分がダメになる。道を踏み外しているやつを、野放しにするのは正しい行為ではない。本当の友達なら、厳しいことも言うべきだ。何より、自分の父親を侮辱されているような気分だった。

「じゃあ、俺とお前の関係もここまでだな」

財布からコーヒー代を出して、テーブルに置いて店を出た。誰かとトラブルを起こすのは数年ぶりだが、後悔はない。大志から謝罪のラインがきた。いつものことだ。喧嘩をしたときに、先に謝ってくるのは、必ず大志のほう。アイツは僕のことを頑固だと言うが、間違っていないのに、謝る必要はない。

いつもなら、大志の謝罪を受けて元の関係に戻るが、今回は無理だ。これで許してしまったら、コイツがダメになる。自分勝手な人間のまま変わらない。10代の頃に連絡をしても、折り返してこなかったことがある。そのときに、メールで心配していることを伝えると、数週間後に折り返しの電話があった。

「ワリーワリー。携帯の画面にお前の名前が出てきた瞬間に、面倒くせーと思ってさ」

こんなことを、平気で言ってくる。そのくせに、コッチが連絡を返さないと文句を言う。勝手にもほどがある。しばらく会っていなくて、数年ぶりに電話をしたときもそうだ。

「久しぶり。今日なんか予定ある?」

「あぁ、今日は嫁が実家に帰るって言うから……」

「嫁!?」

「あぁ、そっか。結婚したんよ。で、嫁がいないあいだは、俺が子どもの面倒……」

「ちょっと待て! 子どももいるのか!?」

「言ってなかったっけ?」

こんなやつだ。結婚したことを、長年の友達に報告しない薄情なやつ。結婚式はしていないらしいが、問題はそこじゃない。こんなやつと、ここまでやってこれたほうが不思議だ。もちろん、一方的に彼が悪いわけではない。これは、大志が居酒屋の店長をしていた頃の話。僕は鑑別所から出てきて、数ヶ月間バイトをしていなかった。

『生活のためにしたくもないことをして、人生の時間を無駄にしてはいけない。そんな人生は、生きているのではなく、死んでいるのだ』

こうやって本に書いてあるのを読んで、自分の都合良いように解釈して、働いていなかった。そんな僕に、大志は一度だけ言った。

「働いたら?」

そう言われても、耳を傾ける気にはなれなかった。ここから半年後にバイトをすることになるのだが、決して大志に言われたことが、キッカケになったわけではない。自分自身が、今のままじゃダメだと思ったからだ。人は誰かに何かを言われて、変われるものではないのかもしれない。今回のことで、僕は大志を変えようとしていた。やっぱり僕は大志の言うように、頑固だったのだ。

『俺もごめん』

新幹線に乗ったあとで、ラインをした。

母から届いた「お父さん大丈夫だったよ」という連絡

東京に着いて、今までと変わらない日常が始まった。変わったのは、来週に控えた父の手術の成功を祈るようになったこと。このときは、再来週に放送されるテレビ出演の内容を、SNSなどで告知していた。

『本がキッカケで、初めてテレビに呼んでもらうことができた! 2番目に笑いがとれたのは、本番前マネージャーさんに、家の中でナメクジを見たことがあると言ったこと。1番目はオンエア上で言ってます。3月23日。21時〜』

やはり今までとは違う反応だった。このとき、芸人を志すようになってから、初めて不安を感じた。自分に関心を寄せてくれる人が多ければ多いほど、プレッシャーを感じる。芸能界には、華やかなイメージしか持っていなかった。活躍している人たちは、今の僕と比べものにならないくらいの注目をされている。初めてのことで、動揺していた僕は、来週分の連載に頭を悩ましていた。

そんなときに、大志から電話がかかってきて、世間話のついでに相談をしてみた。すると、的確なアイデアが、次から次へと飛び出してくる。そのおかげで、切羽詰まった状況は脱することができた。読者の反応も良い。不思議な気分だ。誰も僕の相談相手が、ニートだとは思っていないだろう。だが奇しくも、彼のアイデアが的確だったのは、有り余った時間にネットで情報を仕入れていたからだ。

翌週の朝。夕方には、父の手術の結果が出る。前日も夜から朝までバイトで、普段なら昼は寝ているが、気になって眠れなかった。術後は、母から連絡がくることになっている。もう手術は始まっているだろうか。夕方になっても、連絡は来ない。自分から連絡をしようとも思ったが、バタバタしている可能性もある。

そんなことを考えているうちに、気づいたら携帯を握りしめたまま眠っていた。目覚まし時計の音で目を覚ますと、着信が1件入っていた。母だ。

「もしもし。お父さん大丈夫だったよ」

声を聞いた瞬間にわかった。前回とは全く違う。さらに言うなら、実際は声を聞く前に、なんとなく答えは想像がついていた。前回は、何件も着信が入っていたが、今回は1件しか不在着信が残っていなかったからだ。

「お父さんに代わるね」

「心配かけたな」

「良かった。成功おめでとう」

「おぉ。ありがとう。テレビは来週か?」

「そうそう。21時から放送するから、よかったら見て」

「おめでとう!」

「ありがとう。じゃあ、そろそろバイト行く時間だから。また連絡する」

一気に体の力が抜けた。心配してくれた仲間たちに連絡をして、父の無事を伝えると、全員が喜びを口にしてくれた。マナミにいたっては、泣いて喜んでくれた。

残された最後のミッション――名前を取り戻せるか?

翌週。待ちに待った放送日。バイト前に寝ていて、起きたら自分の出演部分が始まったところだった。僕に与えられた時間は、スピーチの3分と、スピーチ後の3分。願いは1つだけ。スピーチ後に、共演者の井上咲楽さんから質問をしてもらって、笑いで返した部分をカットせずに使ってもらうこと。

自分なりの正当な理由はあったものの、客観的には井上さんの質問を、無視しているようにも見える発言だった。番組の邪魔をしてまで、自分をアピールしたいとは思わないが、笑いをとることが芸人の仕事。1つも笑いをとらずに、収録を終えるのは、職務放棄だ。3回のうち、2回の質問には、普通に答えた。

最後の咲楽さんの質問に、笑いで返した部分は……放送されていた。あとは見ていた人が、どう思うかだ。番組が終わると、数人から連絡がきた。

「おもしろかったよ」

「スターの仲間入りだね」

「最高だったよ」

この言葉たちが満たしてくれるのに比例して、今日の出来を自問自答する行為から遠ざかった。これからどうなるだろう。街で声をかけられるのだろうか。いや有り得ない。1回テレビに出ただけだ。そんなことあるはずがない。調子に乗って、天狗になったら何もかも失う。ここは冷静に努めよう。あらかじめ買っておいたハンバーグドリアを食べて、バイト先に向かった。

「どうだった?」

「いや〜なんか自分をテレビで見るって変な感じですね」

この日の休憩中は、1日中テレビの話題で盛り上がった。みんなが褒めてくれて、調子に乗りそうだったが、自分を律することに努めた。何を言われても謙遜をしている僕に対して、周りは違和感を持った表情をしていた。それもそのはず。あんなに憧れていたテレビの世界に入ったのに、本人が浮かない表情をしている。喜びをあらわにしないほうが不自然だ。

今日くらいは、調子に乗ってもいいのかもしれない。そう思って、素直に激励を受け入れた。そんな僕を見て、みんなもうれしそうだった。バイトが終わって家に帰ると、吉本の社員からメールが来た。

『昨日のテレビを見た業界関係者から、次の仕事の依頼が来ています』

こうして、1つの仕事が次の仕事へ。その仕事がまた次の仕事へとつながっていった。コンビでネタ番組に出ることも増えて、ネタ切れになりそうになることもあったが、大志にアドバイスをもらって乗り切った。その繰り返しで、少しずつバイトと芸人の収入が、逆になっていった。今までは週6でやっていたバイトも、週5になり、週4になり、最終的には余裕があるときだけ働くようになった。

「すいません。ご迷惑おかけします」

「全然いいよ。お前の本業は芸人なんだから」

平気なフリをしてくれているのは、手にとるようにわかる。コンビニは24時間経営で、1人でも欠けると店が回らない。その場合は、店長がシフトを埋めることになる。週6でシフトに入っていた人間の代わりは、簡単に見つからない。

それでも協力してくれる仲間たちは、何人かいた。彼らも同じように、自分に予定があるときは、誰かに助けを求めた。助けてくれた人には、感謝の気持ちとして、飲み物を買って渡す。そうやって、みんなで助け合っているのを見て、羨ましかった。僕だけはシフトを代わってもらっても、何も買うことができていなかった。常に借金があるマイナスの状態で、見栄を張ることができなかったのだ。

でも、テレビの収入が振り込まれるようになってからは、借金もなくなって、みんなと同じように感謝を形で表すことができた。マナミや翔吾と一緒に暮らすために、新しい部屋も借りた。今まで迷惑をかけてきた父や母にも、恩返しの気持ちを届けることができた。あとは、名前を取り戻すだけだ。こういう節目になると、必ず現れる男がいる。野口徹郎だ。この予想は的中した。

「福田さん。おめでとうございます。ついに明日を乗り切れば、永久に名前を取り戻せます」

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福田 健悟

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