「つらいのは、本人だけじゃない」発達障害やグレーゾーンに巻き込まれる人の「怒りと苦悩」

「つらいのは、本人だけじゃない」発達障害やグレーゾーンに巻き込まれる人の「怒りと苦悩」

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/05/01
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あなたは「グレーゾーン」という言葉をご存知だろうか。ここで言うグレーゾーンとは、明らかな発達障害とは違い、医学的な診断が下されるほどではないが、それらの傾向が見られる人を「グレーゾーン」と呼ぶ。

グレーゾーン自身については、書籍やコミックエッセイなどの題材とされることが増えてきた。しかし、グレーゾーンに振り回される周囲の人たちの苦しみについては、なかなか語られることがない。「周囲が理解しなければ」という無言の重圧があるため、なかなか切り込むことができないのだろう。

「グレーゾーンの周囲の人」にスポットを当てた異例の漫画『夫はグレーゾーン』の著者、秋野さと氏に話を伺った。

取材・文/稲田和絵

*マネー現代では、まんが王国 先行配信ランキング3位(2021年4月27日現在)にも輝いた、秋野さと氏の『夫はグレーゾーン』1話から3話まで期間限定で公開中。インタビュー本文と合わせてご覧ください。

『夫はグレーゾーン』試し読み公開中(7/31まで)

第1話「違和感」

第2話「気持ちがわからない」

第3話「グレーゾーン」

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社会にうまく溶け込めない父、じつは…

――子どもの頃から絵やストーリーを描いていたのですか?

絵を描いたり空想したりすることは、子どもの頃から好きでした。

実は、家庭環境があまり穏やかではなくて……。父はお酒をやめられなくて、母の怒号がいつも聞こえているような家でした。

父は、社会にうまく溶け込めない人だったんです。もう何をやっても駄目で、すぐお酒に逃げてしまう。それで、家族は振り回される毎日でした。

父が暴力を振るうことはありませんでしたが、その代わり、いつも母が荒れ狂っている状態で。

父はそのうち全く働かなくなってしまい、母が病院で高齢者の世話をする仕事をして家計を支えていました。まだ「介護職」という言葉がなかった時代です。本当に「下の世話をする人」という感じで……。

結局、父は私が10歳のときに自分で生きることをやめてしまいました。

亡くなってから、いろいろ手続きをしているときに、知らないうちに勤め先が7回も変わっていたことが分かって。それに対して母が猛烈に怒っていたのをよく覚えています。

今思えば、うちの父は発達障害そのものだっだな……と。その当時はそんな言葉すら知りませんでしたが。

とにかくそんな感じの家庭環境で、友達もいなくて、一人で過ごすことが多かったです。そんなとき演劇をテーマにした少女漫画『ガラスの仮面』に出会いました。それ以来、取りつかれたように漫画と演劇の両方にのめり込みました。

演劇部に所属して、高校生になってからは漫画の投稿もするようになりました。よく投稿したのは「花とゆめ」ですね。

「普通でいなさい」母の圧力で一度は夢を断念

――なるほど。そうして漫画家への道を歩まれたのですね?

いえ……、それが違うんです。家庭の事情もあり、漫画も演劇も両方とも諦めざるを得なくなって。

母は自分が苦労したたため、私には普通に就職、普通に結婚、普通に子育てという道を強く望みました。それを強いられている状態でしたね。私はいつも怒っている母に恐怖しかなかったので、言われるまま普通に就職して、結婚して、子育てをしました。「夢は所詮、夢なんだな……」という感じで。

子育てがある程度落ち着いたとき、「そろそろパートにでも出ようかな」と夫に言ったところ、「じゃあ、漫画描いてみればいいじゃん。ずっと描きたかったんでしょ」と。

そのとき、ちょうどレディスコミックの全盛期だったんですよ。雑誌もバンバン出ていて、読者の世代も私と同じくらい。そこで、作品を一つ描いて、恐る恐る投稿してみました。

流行っているときだったので、とにかく描き手が欲しかったのかも知れません。すぐお仕事をいただけて。それから7年間、レディスコミックで毎月コンスタントに漫画を描かせていただくことができました。

その後、訳あって少しブランクがありまして。数年後デジタルになってから、comicoで『娘は声優になるそうです』を3年半連載し、今はまんが王国で描いています。『夫はグレーゾーン』は、連載2年目に入りました。

自分自身もグレーゾーンなのでは…?という思い

――『夫はグレーゾーン』には、グレーゾーンに関する具体的なエピソードが多く出てきます。これらのエピソードは、どのようにして集めたのですか?

発達障害に関する本で読んだこと、見たこと聞いたこと、そして自分が経験したことなどもたくさん盛り込んでいます。

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先ほど父の話をしましたが、実は私にも人付き合いの苦手な面があって。子ども達が学校に通っていた頃は、PTAやママ友付き合いがあったので、家族ぐるみでキャンプに行くとか、それなりに人付き合いもしました。でも、すごく違和感があったんですね。人の輪の中にいることにいつも疲れていました。子ども達は喜びますけどね。私は必死で周りに合わせているような。

ものすごく気を使うし、言われた言葉とか、自分が言った言葉、一つ一つについて、頭の中でグルグル考えすぎてしまうんです。せっかくの楽しい場を台無しにするような発言をしちゃったり。

そういう、うまく適応できない部分は、育った環境のせいだとずっと思っていました。でも『夫はグレーゾーン』を描き進めていくうちに、ふと気づいたんです。「そういえばうちの父も生きるのがヘタだったな……」と。そんな父の血が私に流れているわけです。「私にも十分その資質があるんじゃないのか」って。

そこで、これまでの黒歴史的なものが、スッと腑に落ちました。私は発達障害の診断を受けたわけではありませんが、おそらくグレーゾーンかそれにかなり近いところにいるんじゃないかなと思っています。

発達障害やグレーゾーンの人に巻き込まれる人の苦しみ

――発達障害やグレーゾーンを扱う作品は増えていますが、本人ではなくパートナーが主人公というのは珍しいですね。

もちろん本人も苦しんでいると思いますが、その周囲の人も苦しいんですよね。

自分はグレーゾーンかもしれないと言いましたが、実はうちの夫もそんな傾向があります。それで、家族が困るときが実感としてあって。でも、周りの人が困っていることは世間ではまだまだ知られていない。なので、私はそちら側から描いてみようと思いました。

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発達障害やグレーゾーンの真っ只中にいる人が、本当に苦しんでいるのはよくわかります。でも、実はその周りにも苦しんでいる人がいる。例えば、職場での担当者や直属の上司といった、離れたくても離れるわけにはいかない立場の人。結局、自分が全部抱え込まなきゃならなかったり。そういう人も実は当事者と同じくらい苦しんでいて。ひどいと鬱になってしまう人もいます。こういうことを、知ってほしいんです。

最近は発達障害について、ネットニュースなどでも取り上げられることが増えましたよね。私がどうしてもそういう記事を読んじゃうので、次々とまた似たような記事が表示されてしまって。それで、ついまた読むわけですが、コメントを見るといろんな立場の人の意見がズラッと並んでいる。「近くにこういう人がいるけど、すごく困っている」とか「つらいのは本人だけじゃない」といった周りの人たちの言葉です。

当事者が声を上げ始め、発達障害の認知度も今ではずいぶん高まりました。それなら私は、なかなかスポットが当たることのない、でも確実に存在しているそちら側の立場から描いてみようと思ったんです。

「いつ終わることになってもいい」と思いながら描く

――グレーゾーンという繊細なテーマを扱うことの難しさというのはありますか? こんなことを描いたら叩かれるのではないか……とか。

私、前作の『娘は声優になるそうです』でものすごく叩かれたんですよ。コメント欄が荒れに荒れて。誹謗中傷も多く、まだ作家は泣き寝入りするしかない時代で。精神もかなり削られました。そのうち開き直って、作品を最後まで描き切りました。その経験からだいぶ強くなりまして。今さら怖いものなどないというか(笑)。

さまざまな方面に配慮しながら描いていたら、ただの日常漫画になってしまいます。この漫画には心無いセリフなども出てきますが、実際にそういうことを言う人はいますから、私はこれからも容赦なく描いていきます。

あまりにズバズバ描くので、時には編集ストップがかかることもありますが、正直「反感を食らっていつ終わることになってもいい」と思いながら、いつも描いています。

――どうしてそこまで強い気持ちで描くことができるのですか?

みんな何かしら抱えているということを、とにかく描きたいんです。

グレーゾーンの当事者だけじゃなくて、周りにも大変な苦労をしている人がいっぱいいる。みんな悩んでいる。「グレーでも、グレーじゃなくても、みんな何かしら抱えてるんだぞ」っていうのを描きたい。

だから、フレネミーとかDVとかも、バンバン入れちゃいました。
(※フレネミー:友達のふりをして近づいてくる敵)

嫌な人はいる、だから私はそれを描く

――フレネミーのような方からの被害に、実際遭われたのですか?

フレネミーとは違いますが、人の悪口で繋がる人はいましたね。人の悪口を言うことで仲間を作る人。

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ママ友の世界って、狭くて密集していて、ぐちゃぐちゃなんですよね……。ママ友の中に、子どもを介してなかったら絶対に親しくなることはないだろうなって人がいたんです。その人がまさに悪口を言うことで仲間を作る人でした。

ある日、ちょっとうちの子が気に入らないことをしたんですよ、その方のお子さんに対して。するとたちまちその人は私の悪口を言うようになりました。今まで親友のようにそばにいたのが嘘みたいに私からサーッと離れて、私の悪口を言うことで他の人を取り込んでいった。そういう人はいましたね。

本当に世の中いろんな人がいるので。だから『夫はグレーゾーン』の中には、グレーゾーンだけでなく、様々な人を出すようにしています。

――先生は、これまで本当に大変な思いをされてきたのですね。

なんというか、結構いろんな人と出会ってきましたね。

私、昔のことをよく覚えているんですよ。ある時ふっと思い出して、昔のことなのに、今、嫌な気持ちになってしまう。なので、パソコンみたいに嫌な記憶を一つのフォルダに入れてサクッと削除できればいいのにね、なんて、夫によく話すんですが。記憶を操作できる時代がくればいいなと本気で思っています(笑)。

夫は嫌なことをポーンと忘れちゃう人なんですよ。私とは本当に正反対で。私は昔の嫌な出来事を全然忘れられないので、心底羨ましいです。

「完全に悪い人」なんていない

――こんな言い方は失礼かもしれませんが、先生は嫌な人との遭遇率が高くありませんか?

たしかに大変な経験はいっぱいしてきたかも知れません。でも、出会った人のすべてが私が接した部分だけじゃないと思っているので。優しさといじわるなところを必ずみんな抱き合わせで持っている。それが表に出るか出ないかだけのことではないでしょうか。

私の作品に出てくる悪役って、完全な悪人になり切れないキャラが多くて。悪人を登場させては、「結局いい人じゃん」みたいな展開になってしまう。

今回も、ヒロインの美和にDVをするキャラクターがいるんですが、最初は嫌な奴として登場させたものの、描いてるうちにどんどん愛着が出てきちゃう。彼は彼なりに、美和のことをすごく好きなんだろうなーって。だからこの後、いろいろ変わっていく予感はしています。

最後は、人として寄り添っていけるか

――ヒロインの美和があまりに不遇で見ていられなくなるときがあります。

そうですね。主人公の美和はすごい振り回されっぱなし。あっちで悩んで、こっちに悩んで。でも、本質的なところでは夫の優斗が本当に好きなので。これからの人生、ずっと寄り添って生きていくなら優斗以外にいないと思っていると思うんです。

優斗がグレーゾーンとか、そういうことは関係なく、人として「自分が一緒に生きていくのは優斗だな……」と美和は思っている。

――美和の優斗に対する思いは、もしかして、先生がご主人に感じているものと同じですか?

そうかもしれませんね(笑)。私と夫は、性格が全く正反対。これまでもいろいろありまして……。今、結婚32年目ですが。

でも、やっぱりこれからも一緒にずっと生きていくのはこの人以外にないんだろう、この人じゃなきゃ私は駄目なんだろうな、と思っています。向こうもおそらく、私じゃなきゃと思ってるんじゃないかな。

その辺りは、ちょっと自分と美和を重ねている部分があるかもしれません。

この作品は「人間ドラマ」

――『夫はグレーゾーン』のストーリーは、今後、どうなっていくのでしょうか?

実は、最近になって、キャラクターたちが自分で動くようになったんです。

キャラクターの中身までだんだん見えるようになってきて。新たな登場人物についても、頭で考えて生み出したのではなく、ぱっと設定が出てきました。それを慌ててメモする……みたいな感じで。今19話まで進んでいますが、ここにきて、やっとキャラクターそれぞれが動くようになったのを実感しています。

発達障害やグレーゾーンを扱う漫画というのは、解説だったり解決策を示したりするような「勉強になる」ものが多いですが、『夫はグレーゾーン』はそういった専門的なものではなく、あくまでも読んで楽しむためのストーリー漫画として描いています。「人間ドラマ」ですね。

それぞれのキャラクターがそれぞれの人生を生きています。それぞれの思いを抱えています。最後にはもう、みんなに光が差し込むようになればいいな……と思っています。

『夫はグレーゾーン』試し読み公開中(7/31まで)

第1話「違和感」

第2話「気持ちがわからない」

第3話「グレーゾーン」

お話を伺った人:秋野さと さん
子育てがひと段落した後、35歳の時に月刊誌「ご近所スキャンダル」(竹書房)で遅めの漫画家デビュー。
アシスタント経験無し、漫画も完全自己流のまま、主に主婦向けの漫画を7年描く。
リーマンショック時に、受験生の子ども2人を抱えながら、夫婦同時に失業というピンチに見舞われるが、介護職や運送ドライバー、コンビニパートなどの仕事を掛け持ちして、何とか危機を乗り越える。
その後、comicoにて『娘は声優になるそうです』で漫画家復帰。現在は、まんが王国にて『夫はグレーゾーン』を連載中。埼玉県在住。

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