新型コロナで加速!...「絶滅か、適応か」小売業界の崖っぷち

新型コロナで加速!...「絶滅か、適応か」小売業界の崖っぷち

  • 幻冬舎ゴールドオンライン
  • 更新日:2021/09/15
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コロナ禍で変貌したのは、小売業界だけにとどまらない。大きく変貌した「産業」、そして「消費者」について見ていこう。※本連載は、ダグ・スティーブンス氏の著書『小売の未来 新しい時代を生き残る10の「リテールタイプと消費者の問いかけ」』(プレジデント社)より一部を抜粋・再編集したものです。

コロナ禍が切り開く新たなビジネスモデル

■アートギャラリー

私の自宅のダイニングルームには、ブレンドン・マクノートンという才能ある作家の素敵な現代絵画が飾ってある。多くの作家同様に、マクノートンも展覧会での作品発表に大きく依存していた。

現在、マクノートンは自らの作品を制作するかたわら、アート・ゲートVRという会社を立ち上げ、経営に携わっている。この会社は、アートファンや美術コレクター向けに、さまざまな展覧会やアートイベント、作家とのQ&Aセッションなどの機会をオンラインで提供しており、ユーザーは自宅でウイルス感染を心配することなく楽しめる。美術品バイヤーは、世界のどこからでもオキュラスというVRヘッドセットを使い、没入感のあるインタラクティブな環境で作品の鑑賞・購入が可能だ。

作家やギャラリーのオーナーと話したり、特定のテーマに沿って組み立てたアートツアーに参加したりする機会もあり、違和感のない直感的なかたちでギャラリー空間を歩き回ることができる。アートギャラリーの味わい方を一変させるだけでなく、美術業界の経済的側面も大きく変わるはずだ。

バーチャルだから、作家は1つの作品を複数のギャラリーに同時に展示できる。しかも旅費や展覧会準備の費用は不要だ。アートバイヤーにとっても、展覧会に足を運ぶ費用が浮くことになる。要するに、作家はこれまで以上に多くの人々に作品を見てもらえるうえ、展覧会の開催コストも抑えられる一方、バイヤーにとっては、交通費を抑えつつ、たくさんの展覧会に顔を出せることになる。

やはりここでも、パンデミックによって、デジタルイベントと実際のイベントを組み合わせた新しい独創的なスタイルの市場が開拓されたのだ。もちろんオンラインのイベントが、現実世界ならではの音や匂い、身体性に取って代わるまでには、しばらく時間がかかるかもしれないが、現実味のある選択肢であることは確かで、収益モデルとしても成立しそうな可能性を秘めている。消費者の体験を重視するプロデューサーにとっては、一気に多くの対象者に訴求できるようになる。

■経験価値とのトレードオフ

こうしたデジタルの代替策が、少なくとも短期間で従来の対面方式に完全に取って代わることはあり得ない。だが、かつては考えられなかった体験の選択肢や新たなビジネスモデルに道を開くことになる。

そもそも、この手のデジタルゆえのメリットとデメリットのさじ加減は今に始まった話ではない。私たちは消費者として常にこうした折り合いをつけている。音楽のストリーミング配信が初めて世に登場した際、CDやレコードに比べて音質が劣る点を指摘する声が一部にあった。

ストリーミング配信は観客に選択肢を与えた

何ごとにつけてもまず否定する人々はどの世界にもいるが、その言い分は技術的には間違っていなかった。だが、同時に重要なポイントをいくつか見逃していたことも事実だ。

第1に、音楽のストリーミング配信は単なる技術の移行ではなく、まったく新しいビジネスモデルの出現だったのである。今や、音楽ファンは、高い金額を払ってアルバムをまるごと手に入れるのではなく、月額定額料金を払えば好みの曲だけを無制限にストリーミング配信で楽しめるようになった。

第2に、膨大な数の曲が揃っていて、利便性にも優れている。これは音質面の欠点を補ってあまりあるメリットだ。

第3に、評論家らは、音楽のストリーミング配信技術が急ピッチで飛躍的に向上する可能性を甘く見ていた。実際、ストリーミング配信は、レコードやCDと同じ忠実度を再現するどころか、実質的に両者を絶滅に追いやってしまったのだ。多くの関係者にとって十分な水準の技術と、少なくとも消費者にとってはるかに魅力的なビジネスモデルの掛け合わせだったのである。

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音楽のストリーミング配信は単なる技術の移行ではなく、まったく新しいビジネスモデルの出現だという。(※画像はイメージです/PIXTA)

同様に、ライブストリーミングのイベントはミュージシャンや俳優、アーティスト、さらには私のような専門家に至るまでが活用するようになり、利用しやすく手軽でコスト削減も可能となれば、多くの人々にとって魅力的な選択肢と映るのもうなずける。

体験型イベントの本質がこのように変化すると、分配に伴う経済性も変わる可能性がある。2019年、私はスケジュールの調整がつかないために、少なくとも十数件のイベントをあきらめざるを得なかった。調整がつかなかったケースのほとんどは、会場間の移動を考えると次のイベントに間に合いそうもないことが理由だった。

だが、パンデミック中は、1日で時間帯がまったく異なる地域を対象に、複数のイベントをライブストリーミングで配信できるようになった。

重要なのは、ライブストリーミングであれ、他の技術であれ、生のイベントの興奮を完全に置き換えられるかどうかではない。「観客に選択肢を与える」という意味で明らかに影響力があるのだ。

そこで自問自答してみよう。あなたは本当にスタジアムや販売店、アリーナ、ナイトクラブに足を運ぶ必要があるのか。もしかしたら、ライブストリーミングで済ますことができるのではないか。実生活で「何か」を体験する際、手間、コスト、時間をかけるからこそ、価値に対する期待も高まるのである。では、それだけの時間や手間、費用をかける価値があったのか。

これは、小売業者にとって特に重要な視点だ。心の底から正直に言うなら、ごくわずかなケースを除き、小売業界は、消費者に貴重な時間を割いてまで足を運んでもらうほど価値のあるショッピングの機会など生み出していない。実際、買い物中の消費者の心のなかでは、往々にして葛藤と失望と不満が渦巻いている。工業化時代の小売りなら、それでも乗り切ることができた。消費者に選択肢がなかったからだ。

従来のマーケティングや販売戦術は激変する

しかし、そんな時代は過ぎ去った。新たな期待を抱いた買い物客は、独自の明確な価値を持つ店に、時間と費用をかけるようになる。それがない店は、埋もれたまま消えゆく運命にある。

■絶滅するか、新たな時代に適応するか

飛行機での出張からオンラインへの移行、現代的な生活の解体、場所に縛られていた仕事や教育からの解放、体験のあり方の見直しなど一連の動きを受け、私たちは工業化時代を脱出し、ポストデジタル時代への境界を越えようとしている。新型コロナウイルスは、単に未来へ向かう時間を早送りしただけではない。

はるか遠くの場所へ瞬間移動ができる時空のトンネルや時間の歪みをワームホールと呼ぶのだが、新型コロナウイルスは、100年に一度あるかないかのワームホールのようなもので、私たちの未来をがらりと変えてしまう力を秘めている。

ブランドや小売店がここまで小売りの道を切り開いてきたことは確かだ。だが、私たちが一気にスピードを上げて新しい時代への境界を突破する際に、多くのブランドや小売店は古びた遺産として取り残されることになる。そして進化の過程で犠牲となった絶滅種として、歴史の脚注欄に小さく記録されるのだ。

一方、生き残るブランドは、従来のマーケティング手法や販売戦術を抜本的に見直し、これまでとは違う新たな消費行動パターンに適応するはずだ。パンデミック収束後の世界にようやくたどり着いた私たちを待ち構えているのは、単にコロナ禍で加速されただけの小売業界ではない。それどころか、恒久的に変貌を遂げた産業や消費者がそこにいるだろう。

ダグ・スティーブンス
小売コンサルタント

ダグ・スティーブンス

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