全国大会2冠の自閉症ランナー「陸上があるから頑張れる」 仕事と練習に奔走、周囲も後押し

全国大会2冠の自閉症ランナー「陸上があるから頑張れる」 仕事と練習に奔走、周囲も後押し

  • 神戸新聞NEXT
  • 更新日:2023/05/26

「不安になったら背中をトントンとたたいてもらうといいです」-。自閉症の近藤友介さん(21)=神戸市垂水区。昨年10月に栃木県内で開催された全国障害者スポーツ大会「いちご一会(いちえ)とちぎ大会」の陸上に同市代表として出場し、男子の800メートルと1500メートルで優勝した。さっそうとトラックを走る。いつも一生懸命で、愛されキャラ。どんな物語を紡いできたのだろう。(鈴木久仁子)

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トラックを走り込む近藤友介さん=神戸市須磨区緑台、神戸総合運動公園

「耳が悪いのかな?」。友介さんの母史子さんが幼い息子に抱いた最初の違和感。声をかけても反応がない。自閉症だと分かってからは、育児に悩み、涙が出ることも。「どこでも興味があれば、ぱーっと走っていってしまうし、すぐ迷子になる。好き嫌いもひどくて、コミュニケーションを取るのも難しかった」

友介さんも学校で苦労をしていた。人に合わせたり、友だちの気持ちをくんだりするのが苦手なタイプ。合唱コンクールでは「おまえが歌うと賞を取れないからだまっといて」などと意地悪を言われ、悲しかった。そんな日々を救ったのは陸上。個人競技で「ぱーっと走るのが得意だった」ので周囲が勧めた。「速くはなかったですよ」と友介さんは笑う。同市立塩屋中で陸上部員の日々が始まった。

転機は3年時の夏合宿。強い選手たちが目標を持ち、ひたむきに努力する姿に刺激を受け、欲が出た。市ふれあいロードレースで優勝するなど結果を出すように。スタートの前に緊張すると、史子さんらが、背中をトントンとたたき、不安を和らげた。

部員は優しく、仲間としての絆が芽生えていく。卒業の思い出にユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ=大阪市)に皆で行ったのは最高の思い出だ。

友介さんには強力な応援団がいる。神戸市立青陽須磨支援学校当時の担任、前田千晶教諭と田中美由紀教諭だ。入学当時は、ともすると頑固になった友介さんの個性を受け止め、認め、励まし、応援した。伸び伸びとした友介さんについて「考え方がどんどん柔らかく融通が利くようになり、予想通りに事が運ばなくても『仕方ない』と言えるようになった。陸上選手としても成長し、ますます楽しみ」と目を細める。2人は友介さんが卒業し、社会人になってからも試合があると応援にいく。

一緒にいると友だち同士のような3人。ラインも交換し、「陸上があるから頑張れる」という友介さんに応援メッセージを送る。そんな2人に囲まれ、友介さんは「(スタートの)ピストルの音がこわくて中3のころは耳をふさいでいた。もう慣れた。これからも陸上は続けていく」と晴れやかに前を向く。

友介さんは現在、川重ハートフルサービスに勤務。その傍ら、神戸市スポーツ推進委員でパラ陸上にも関わる久田洋一コーチの指導も受け、昨年の全国障害者スポーツ大会で2冠を達成した。「こちらの話をよく聞き、頑張っている。健常者と同じ大会にも出場し、信頼している」と久田さん。「ただ、仕事を持ちながら選手を続けるのは大変なこと。パラスポーツにはまだまだ理解や支援が足りない。もっと普及していけば」と話す。

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