【マンガ】太平洋戦争末期の空で最強と呼ばれた「紫電改」と菅野直、その鮮烈な生き様

【マンガ】太平洋戦争末期の空で最強と呼ばれた「紫電改」と菅野直、その鮮烈な生き様

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/11/20
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イブニングにて好評連載中の『紫電改343』。そのコミックス第1巻が11月20日に発売となる。発売を記念し、作者である須本壮一さんと、愛媛県にあるレジャーゾーン「南レク」内にて日本に唯一残された紫電改の実機展示を行う「紫電改展示館」の永元一広さんによるスペシャル対談をお届けする。

大戦末期に生み出された名機「紫電改」と、天才パイロットと名高い菅野直、部隊創設を手掛けた司令官の源田実をはじめとした海軍の精鋭が本土防空のために集結した「第343海軍航空隊・剣部隊」。最強と呼ばれた戦闘機部隊の足跡を追う本作が誕生した経緯とは。

→「紫電改343」第0話・1話を読む!

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戦記漫画の名手が描く「最強部隊」の物語

――須本さんが『紫電改343』を描かれたきっかけはなんだったのでしょうか。

須本:『夢幻の軍艦大和』やコミカライズを担当した『永遠の0』といった戦記漫画を描くにあたり、名古屋の大江時計台航空史料室を取材しました。その際、当時の館長だった岡野充俊さんから「本田稔空戦記―エース・パイロットの空戦哲学」(光人社)という本をいただいて。太平洋戦争を生き抜いた本田稔さんという搭乗員の方の空戦記で、この方が大戦の最後に所属していたのが「第343海軍航空隊」(以下:343空)だったんです。とても面白くて、いつかこの部隊の話を描きたいなと思っていたので、今回編集部から連載のオファーをもらったときに『紫電改343』を提案させてもらいました。

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永元:拝見させていただいたときは、史実をもとにしたフィクションではあるけれどすごくリアリティを感じさせる内容で、須本さんはかなり熱い方なのかなと感じました。この時代のことをわからない方はもちろん、よく知っている方も、読みやすくてグッと引き込まれるのでは。紫電改ファンのひとりとして、よくぞこの作品を世に出していただいたと思っています。

須本:大戦の末期だと、日本のパイロットたちに残された手段はやはり「特攻」だ、という空気だったと思うんです。でもその中で343空に所属した人たちは「お国のために、一撃必殺」ではなく戦闘機に乗って戦い続けた。空を飛んでいたいという、パイロットとしての強い信念を持っていた人たちだったのだろうと思ったんです。もちろん特攻を命じられた人の中には、その道を選びたくても選べなかった人が多かったのでしょうが……。

それから343空という部隊に強い興味がわき、源田実さんや菅野直さんを中心にすることで漫画の軸が決まりました。けれども本当は、僕にとってはこのお話に出てくる人全員が主人公で、気持ちとしてはさまざまな主人公たちが集った、いうなれば日本版の「アベンジャーズ」みたいなお話なんです。

現役自衛官も驚く度胸を備えた天才・菅野

――本作の主人公となっている菅野直隊員について、お二人はどのような印象をお持ちですか。

永元:菅野隊長のことは本を通じて知ったことが多いのですが、子供時代はやんちゃ坊主でもあり、成績優秀な文学少年でもあり。それでいて豪快な性格、茶目っ気もある、いい男の典型みたいな印象があります。とくに印象的だったのは、菅野さんが編み出した爆撃機の撃墜法です。

須本:爆撃機の真上から背面飛行で急降下しながら攻撃して、敵の翼の前側を抜けていく戦法ですね。

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『紫電改343』(講談社)より

永元:はい、「前方背面急降下直上方攻撃」です。以前、航空自衛隊のパイロットの方とお話しする機会があって「実際にできるものなんですか?」と尋ねたことがあります。すると、若いパイロットの方は「理論上は可能でしょうけど、僕はしません」と。そのパイロットは、部隊の隊長さんいわく、隊の中でもいちばん血の気の多い飛び方をする隊員だそうで、つまり現役の戦闘機パイロットも舌を巻くほどの、かなり無茶苦茶な戦法なわけです。菅野さんはそれを当たり前にやったそうですし、常に命を張ることができる、ただものではない人ですよ。

須本:菅野さんが最後に出撃されて戻ってこなかったのが8月1日で、それから10日もしないうちに広島と長崎に原爆が落とされている。僕にとって、そのことがドラマを作る中でのキーになっているんですよね。もし菅野さんがいたら、原爆投下を許さなかったんじゃないかというイメージがすごく強くて。『紫電改343』はフィクションではありますが、そこで菅野さんが抱いたかもしれない思いも含めて描けたらいいなと考えています。

誕生日が同じだったことで見方が変わった

――菅野さんと並んで、343空の司令官を務めた源田実さんも、もうひとりの主人公的な位置づけで描かれています。

永元:エリート参謀でありながら戦闘機乗りとしても超一流という、ケタ違いに優秀だったのだろうと思える方ですよね。自分でも試しに紫電改に乗ってみたりするくらい行動力もあった。343空の301隊の整備員だった方は目の前でそれを見ていて、部下から1時間くらい操縦のレクチャーを受けていたかと思ったら、そのまま離陸していかれたと。着陸も見事なもので、さすが「源田サーカス」といわれたアクロバット飛行隊を率いていただけあると実感されたそうですよ。

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『紫電改343』(講談社)より

須本:僕の中での源田さんは、終戦まで生き延びたのちに防衛庁を経て政治の世界に入られて、毀誉褒貶ありつつ正直あまりいいイメージを持たれていない、という印象でした。

でも、調べていく中で誕生日が自分と同じだと知った。些細なきっかけですが、そのときから、もし僕が源田さんの立場だったら……と考えるようになり、彼が選んだ道をなんとなく理解できる部分が増えていったんです。それで、編集部とも相談して源田さんをお話の一つの軸にしましょうということになりました。

永元:343空で下士官だった方からは、司令官の源田さんは雲の上の人という感じだったとお聞きしています。でも、ある搭乗員の方の話では、隊員が基地の周りの畑からナスやキュウリを失敬して農家からクレームが来たことがあったのだけれど、そのとき源田さんは怒るどころか、農家の方に「今後もこういうことはあるかもしれないけれど、これで見逃してやってくれ」と、財布ごとお金を渡したということもあったそうで。

そういったお話を聞いて、いいことも悪いことも背負っていくような、どこか武士道のような心根を持った人だったのかなと思いました。

歴戦の兵に「戦って勝てる」と太鼓判を押された紫電改

――本作のタイトルにも入っている紫電改という戦闘機にはどのような印象をお持ちなのでしょうか。

須本:以前、零戦と紫電改の両方に乗ったことがある元搭乗員の方に聞いて印象に残っているのが、「零戦はいろんな曲芸をするにはもってこいの飛行機だけど、戦う飛行機じゃなかった。でも紫電改は戦って、勝てる“戦闘機”だった」という言葉です。

永元:終戦までに400機ほどしか作られていませんが、零戦よりも丈夫だったし、生還率も高かったということで、搭乗員の方からの信頼性が高い機体だったのでしょう。展示館の紫電改は343空の所属で終戦直前の7月24日に未帰還となった6機のパイロット(鴛淵孝大尉、武藤金義少尉、初島二郎上飛曹、米田伸也上飛曹、今井進一飛曹、溝口憲心一飛曹)のいずれかの方が乗っていた機体です。

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『紫電改343』(講談社)より

須本:海中から引き上げられたそうですが、機内の装備などはけっこう残っていたのですか?

永元:戦後34年間も沈んでいたものですから、外板はかなりボロボロという感じだったようです。でも中はわりときれいで、積まれていた部品は展示物としてお見せできています。20ミリ機銃だけは銃刀法に違反してしまうものにあたったのか、警察が持って行ったそうですが…。展示は引き上げ当時の状態に近いイメージで修復がされていて、プロペラも沈んでいた時から直さずに曲がったままです。

須本:10数年前に国立アメリカ空軍博物館に取材に行った際、実はそこに紫電改も屋外に置かれていたんですが、ちゃんと確認できなかったんですよね。あとからあったことを知り「実機が世界にわずか4機しか残ってない機体が野ざらしか…。じゃあ日本に返してくれよ」と思ったりもして。展示館の紫電改のように、傷ついたものをそのまま見せられるものがありつつ、きれいな状態の実機もやっぱり見てみたいですよね。

日本で唯一の実機であり、実戦の参加機

永元:最初は僕も、館の紫電改は「なんでもっと凛とした姿に直してあげないんだろう」と思っていたのですが、展示に携わって12、3年経つと今の形でよかったのかなとも思うようになりました。というのも、第二次世界大戦時の戦闘機にはやはり「戦争とは……」といった重い話を避けて通れない背景があり、私たち館員に話を聞くのに気後れする方もいらっしゃるみたいで。けれどもプロペラが曲がっていることで、それをきっかけに質問をいただいて、お話ができるんですよね。当時の学芸員さんはいい判断をされたと感じています。

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紫電改博物館に展示された紫電改の実機

須本:紫電改博物館を訪れるときは、紫電改の六機の、たぶん戦闘301飛行隊の武藤金義さんが乗っていたのではといった思いも込めながら見に行きたいです。

永元:僕が展示館の紫電改に感じている価値は、日本で唯一の紫電改の実機であることに加えて、実戦の参加機だということです。豊後水道上空戦で未帰還になられた6機のうちの1機で、搭乗員さんが自分の人生の終焉をともにした機体であるという事実にすごさがあると思っています。年に何度も訪れる方や四国の外から2~3年おきに再訪される方もいらっしゃり、そうした方たちにとって展示館の紫電改は、会いに来て気持ちを引き締めなおすというか、そういう位置づけなのかなと思いますね。

――最後に、お二人が感じている本作の魅力をお願いします。

永元:私のように343空のことを知る人は、須本さんが紫電改や343空が残した史実をどう見せてくれるのかに期待するでしょうし、知らない読者の方も、大戦末期という時代がどんな時代だったのかを知り、そこで生きた方たちに興味を持てるんじゃないかと思います。紫電改に携わる者としては、この作品を読んだ方が紫電改と343空を知り、また大戦末期に青春と命を懸けて勇敢に戦ってくださったすごい隊員たちがいたんだということを知って、ご自身の人生について何かを考えるひとつのきっかけになっていただけると嬉しいですね。私もいち読者としてとにかく楽しみです。

須本:343空って、計画段階を含めてもわずか9ヵ月くらいしか存在していない部隊なんです。でも、同じ期間を連載したくらいではとても足りないくらいたくさん描きたいことがあります。史実とエンターテイメントをうまく合わせて、343空を知っている人はある程度納得しながら、知らない人は純粋に楽しんでもらえるような、「ワクワクするね、悲しいね、こういうの悔しいよね」といった感情に直結するような面白いものにしたいと思っています。

(取材・文/プロダクションベイジュ)

コミックス第1巻が本日11月20日発売!

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