元助産師が起業 多言語サービスで「海外出産・育児」をサポート

元助産師が起業 多言語サービスで「海外出産・育児」をサポート

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/05/26

スタートアップ企業への就職や転職が、キャリアの選択肢の一つになってきている。本連載では、スタートアップで活躍する起業家やコアメンバーの方へ、現在の働き方やキャリアについてインタビュー形式でお届けする。

第三回は、2021年6月に「じょさんしGLOBAL Inc.」を立ち上げた杉浦加菜子氏を取り上げる。杉浦氏は、助産師として産婦人科とNICU(新生児治療室)に勤務した後、オランダで妊娠、出産、育児を経験した。

「じょさんしGLOBAL Inc.」では、国内外に居住する妊産婦や育児中の方とその家族のために、助産師と専門家による多言語のオンライン相談やセミナーなどを提供する。企業に導入してもらい、その従業員が活用するという仕組みだ。現在6カ国で13名の助産師が相談を受け付け、利用者は2023年3月に30カ国4000名を突破した。

インタビュアー:李 暢 VP, Fintech/Insurtech部門統括。中国四川生まれ。大手生保会社に勤務後、Plug and Play Japanへ入社、日本のInsurtechエコシステム作りに励む。

自身が直面した海外出産の不安

──まず起業を決意された理由について教えてください。

起業した理由は2つあります。1つ目は、助産師として妊娠・出産・育児について詳しい知識はあったにもかかわらず、海外出産や育児に不安や孤独を感じたためです。日本であれば地域の保健所で助産師・保健師さんから必要な情報を入手できますが、オランダだと地域の施設はオランダ語がベース。英語で対応してもらうという選択肢もありましたが、文化や言葉の壁があり欲しい情報が得られず、不安感が強まりました。

そんななか、助産師仲間のネットワークに多く助けられたんです。友人であり、なおかつプロの視点からアドバイスをもらえること、出産や育児経験者の声が聞けることが役立ちました。この経験から、母国以外で出産する方も、母国語や文化背景を知っている人から支援やアドバイスを得られるように状況を変えたいと思い、事業化を考えるようになりました。

2つ目は、夫の海外赴任でオランダへ移住後、任期満了に伴い帰国辞令が発令され、臨月間近で引越さなければならないという経験です。妊娠・出産は女性の身体に起こる一大イベントです。いつ何が起こるかわからない状況にも関わらず、産む場所やタイミングが配偶者の勤務先の都合に左右されてしまう。そのことにもどかしさや悔しさを感じました。

自分の人生は自分の意志で決めたい。そして誰もが人生の一大イベントを大切にしてもらえる環境にしたいと思い、起業を決意しました。

──助産師から経営者へのキャリアチェンジで、どのような点にやりがいを感じますか。

病院で勤務していた時は、患者さんのケアに集中していたので、世間の動きについて知る機会は限られていました。しかし病院の外に一歩出ると、自分が井の中の蛙であったと実感しました。経営者になって、さまざまな方の視点や価値観から学ばせていただける事に醍醐味を感じています。弊社メンバーからも、世界中にいる日本人の妊産婦さんや、育児されている方を支援できること、スキマ時間にオンラインで副業ができることにやりがいを感じると話してくれています。
助産師としての経験が役立てられる点としては、お客様個々のニーズがわかることです。サービスを設計するうえで、ターゲット顧客のペルソナ設定など、これまで現場を見てきたからこそ感覚的にわかることが多く、強みだと感じます。

──経営者として大切にしている考えは?

「できない理由を探さない」という姿勢と「やらないことを決める」という方針を大切にしています。まだ子どもが小さく、育児と仕事の両立が課題だと感じていたころ、助産師の先輩からやらない理由を積み上げるべきではないというアドバイスをいただき、事業に踏み切るきっかけになりました。

起業を決意してからは、優先順位をつけ「やらないことを決める」ことの重要性を学びました。「やりたいことリスト」はいくらでも作れてしまう。だからこそ、本当にやりたいことかどうかを自問自答しています。

特に子育てをしていると、毎日理想通りに仕事をやり切ることが難しい。予定を無理に詰め込みすぎないことや、業務を強制終了させる時間管理も心がけています。

──創業期に苦労されたことは?

意思決定が難しかったのは、ビジネスモデルを決める時です。最終的に私たちのビジネスは「個人」というエンドユーザーに行き着くモデルですが、B2B、B2Cモデルをそれぞれ検討しました。

最終的には「働き方」や「職場環境でのサポート」を変えることで社会変革を目指すと決め、まずは事業会社との連携を進めていくB2Bモデルに注力することにしました。

もう一つ課題に感じているのは、短期的な効果の見せ方。個別相談を受講する従業員一人一人に見える効果と、その集約形として期待される事業部や組織風土へのインパクトについては、成果が表れるまでの時間も異なります。事業会社に納得してもらうための、短期的な成果の見える化や説明方法については試行錯誤しています。

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提供=じょさんしGlobal

心の「余白」が子育てしやすい社会につながる

──少子化対策や働き方改革など、日本全体で子供を産み育てる取り組みが促されていますが、じょさんしGLOBALは現状をどのように変えていきたいと思っていますか。

妊産婦さんや子育て世帯とその周りにいる方々の心理的な「余白」を作ることを目指しています。お客様には「女性としてどう生きるべきか」と悩んでいる方が多い印象を受けます。親になることの孤独感やプレッシャーを軽減し、心に余裕を作ってあげたい。オンライン相談の利用者から「モヤモヤが晴れて心が軽くなった」「誰にも話せなかったことを話せて安心した」と言っていただけるのは大きな喜びです。

日本では医療費や子育てに関する制度は充実しているものの、専業主婦に対する偏見や周囲の無理解など、子育てへの社会環境は厳しい。女性や子育て世帯が自信を持ってさまざまな生き方・働き方を選択することができる、一人一人が本質的な幸せを重視できる社会になって欲しいと思います。

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