2世代トーク、クルマのデザイン言いたい放題

2世代トーク、クルマのデザイン言いたい放題

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2023/03/19

このコラムでは、いつも新車の試乗記を書かせてもらっているけど、今回は、クルマのデザインについての対談にしようと思う。

僕は35年ほど新車の試乗記や解説を多くの国内外の専門誌に寄稿してきているけど、ずっと僕の「偏った」意見を若いデザイナーにぶつけたいと思ってきた。そして、ついにそのチャンスが巡って来た。

先週、プロダクトデザインを学びクルマのデザインについて発信するYouTuberの「wAtARu(ワタル)」さんと意見交換ができた。やはり、立場と年齢、そして好みなどが思いっ切り異なる2人なので、読者の琴線に触れるポイントが多いと考えて対談を企画した。

27歳のwAtARuは、芝浦工大大学院でプロダクトデザインを学び、卒業後はクルマのライト関係の企業にデザイナーとして就職。でも「個」の力を試しづらく、独立。自分で発信を始めたという。独自の視点と論理的な解説で、わかりやすくクルマのデザインを解説している。まだまだ登録者数は多くはないが注目されている人物の一人だ。

気になるクルマ、デザインを代表するクルマ、デザイナーとジャーナリストのそれぞれの意見、最近のデザインの傾向、許せないデザインなど、とても刺激的な対談だったので、その内容をお伝えしよう。

気になる外観デザインから

まずは、僕の気になるデザインから。デザインと走りの観点から言えば、「アルピーヌA110」をとても高く評価している。

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アルピーヌA110

1963年登場の初代デザインから影響を受けた非常に美しい新車デザイン、そしてターボエンジンの気持ちのいい加速性とハンドリングは絶妙なバランス。そして、もう1台は、やはり電気自動車が話題になっているので、今までにない手頃なEVとして市場を大きく変えようとしている「日産サクラ」。補助金付きで200万円を切るという価格は魅力的だし、180km という航続距離は決して悪くない。

「で、wAtARuさんはどう思いますか?」と問いかけると、 マニアックな車種が返ってきた。

「日本ではあまり話題にならないと思うけど、ベトナムの『VINFAST VF7』のデザインがとても良いと思う。

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VINFAST VF7  日本にはまだ正式な上陸は果たしていない。

イタリアの名門デザインスタジオ「ピニンファリーナ(*)」と協業していて、そのデザインがいいし、シャシー技術はBMWから買っているので、なかなか走りも良さそう。設計も合理的だと思う。最近、このVINFASTが面白いと感じますね。あとは、インドの〈タタ社〉のコンセプトカーがよくできていると思います。また、フランス車で、『DS4』と『508』のデザインがいいですね。DS4の値段はそれほど高くないし、外観も宝石を思わせる鋭角なラインでそのデザインを高く評価しますね」。

*ピニンファリーナ:90年以上の歴史を持つイタリアのデザイン・製造企業。フェラーリをはじめとして多くの名車のデザインを生み出した。またクルマだけでなく広く工業製品やコンシューマ製品のデザインも手がける。
wAtARuがいう通り。DS4は綺麗だ。そして、確かにVINFASTは格好いい。やはり、イタリアのデザインとドイツのシャシーを採用しているので、この組み合わせはいい車ができるはず。

実は、韓国にも同じような現象が起きている。キアが15年以上前にドイツ人の有名なデザイナー、ピーター・シュレイヤを採用して、急にデザインが世界的に高く評価されるようになった。さらに8年ほど前にBMWのM部門から優秀なエンジニアのアルバート・ビアマンがヒョンデ・グループの研究開発のトップになったら、急に韓国車の走行性能がグーンと上がった。

海外から優秀なデザイナーや技術者を雇うことによって、評価される車づくりができる。だから、全世界から優秀な人材をかき集めない限り、世界をリードするような車づくりはできないんじゃないかな。テスラも同じようなことをしたしね。日本も積極的に門戸を開いてもいいかもね。特に電動化車種では。

wAtARuも言う。「ヒョンデとかは今、ドイツっぽいデザインになっていますよね。今、日本で買える『ヒョンデ・アイオニック5』はフロントのフェンダーに向かって、プレスラインが斜めに入っているところが新鮮。

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アイオニック5についてwAtARuは、外観がコンパクトに見える理由を基準線を示しながら自身のチャンネルで詳しく紹介している。彼のチャンネルの魅力の一つだ。

アウディだったら、ああいうことは絶対できない。韓国のメーカーは好きなことをやっているなと思って、これからも楽しみにしています。先日、アイオニック5を借りて乗ってみましたけど、とても走りは良かった。でも、見た目より少し大きく、特に幅があるので、日本ではパーキングしにくいかも?」

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wAtARu:1996年生まれ。芝浦工業大学大学院 理工学研究科 機械工学専攻 感性デザイン研究室でプロダクトデザインを学ぶ。クルマのデザイン解説に特化したYoutubeチャンネル「wAtARu-車好きデザイナー カーデザイン解説Ch.」を発信。

他に気になる車はあるかと聞いたら、面白い応えが返ってきた。ホンダとソニーが共同開発し話題になった『AFEELA』というEVだ。

「2026年に登場するだろうと言われている車種で、かなり期待していますね。個人的に家電メーカーではSONY、自動車メーカーではホンダが好きというのもありますが(笑)。ただ注文があるとすれば、この「AFEELA」はとても洗練されているけど、デザインがEVとしては少し普通すぎるかな。2社がしっかりコラボしたら、もっと格好いいデザインが出ると思う。今後公開されるであろう市販モデルのデザインはもっとスゴいものが出てくると思うので楽しみ」とwAtARuは期待する。

その通りかもしれない。僕としても、もう少し美しいデザインセンスを加えて欲しい。

「80年代のコンセプトカーみたいなデザインという印象はありますね。面は綺麗だけど、エッジが効いていて洗練されたSONYらしいところと、水平基調で無駄な要素が少ないホンダらしいところが入ってくると面白いと思う」とwAtARu。

往年の名車のデザイン

少し話を変えよう。僕が生きた時代の名車に触れたい。その時代を代表する深い意味わいの名車があるので、少し述べてみよう。1960年代を代表する車は、ジャガーEタイプ、フェラーリ・ディーノ、ランボルギーニ・ミウラ、アストン・マーティンDB5、トヨタ2000GT、フォード・マスタング、ダットサン240Zなどだと思う。それに1970年代なら、宇宙船みたいなランボルギーニ・カウンタック、デ・トマソ・パンテーラ、BMW2002、ランチア・ストラトス、シトロエンSM、マツダRX-7などが好きだった。どれもプロポーションが美しくて個性があり、夢を与える車両ばかりだった。

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ランボルギーニ・ミウラ

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トヨタ2000GT

「美しい車ばかりですね。でも、あの時代の車は少しズルいと思う(笑)。まず、バンパーは金属で作って良い時代だったので、法規もゆるかったので、当然、格好いいものが作れますよね。今の時代は違うから…」と鋭いコメントをするwAtARu。

wAtARuはYOUTUBEで車のデザインの評価をしているとき、画像に線を引いて、「これはこうなんだよね、この角度がポイントなんだよね」などと言う。とてもわかりやすく伝えているけど、クルマの印象を決定づける何か大きいポイントはどのパーツになるのか。あるいは、その車らしさが決まるのはどこなのか。

「僕のサイトはデザインに詳しくないという人に向けてコメントしています。例えば、クルマの見た時の印象は、もちろんマニアから見るとフェンダーとかも大事だけど、誰もがパッと見て格好いいと思うのは、正面の顔全体。特にライトの上のラインとグリルの尖っているところ。そこで、車の表情が決まると思うんです。例えば、シビックだと、先代よりもデザインがマイルドになっている。目とグリルはうまくマッチングしている」とwAtARu。

でも、最近、怒った顔が多くなったと思うけど、流行かな? グリルはどんどん巨大化されてきているし、多くのメーカーは個性を強めようとしている。BMWのi4の巨大なグリルとかは特にアグレッシブ。

「動物は本能的に、鼻や口の穴が大きいほど威嚇しているように見えます。車もそう。ライトが目でグリルが口か鼻。最近、グリルの巨大化は行き過ぎだと思うし、BMWのiXはあんなにグリルが大きい必要はないけれど、それが個性にもつながる。その点では特にフランス車は綺麗だと思う。左右に少しずつボディ色に変わっていくあたりもいい表現」とwAtARu。

例えば、レクサスのスピンドル・グリルも思い切り個性を出している。あまり美しいとは思わないけど、wAtARuはどう思う?

「最近のレクサスはボディ全体でスピンドルを作ってしまうおうみたいなデザインになっていますね。レクサス初のEV「RZ」もそう。あれは面白い。レクサスは日本のメーカーの中で、チャレンジする姿勢を感じます。今までスピンドルグリルが黒かったのを、ボデイ色に反転させて、そういう形をボディサイドに続けている。グリルがなくなっていっても、そういうデザインができるので楽しみにしている」とwAtARu。

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wAtARuはチャンネルでスピンドルグリルの美しさにも言及している。

ところで、アメリカの最近のEVはどう思う? 僕は新鮮で良いと思う。例えば、テスラの大ライバルになるだろうと言われている、最近流行り出した〈リヴィアン〉のEVは格好いいと思うだろうか? 加速は速いし、航続距離も出る。今までにないようなデザイン。または『ルーシード』もある。

「そうですね、リヴィアンの縦型のヘッドライトはシンプルで面白い。ルーシードが特に好きですね。ホンダとソニーの車に似ている近未来的。めちゃくちゃ革新的なデザインではないけど、面の流れも綺麗だし全体的に高級なデザインになっている。値段は高いけどね。ルーシードいきなり出てきてインパクトが大きかった」とwAtARu。

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リヴィアン。縦型のライトが印象的。

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爆発的な速さを持つLUCID

リヴィアンの0―100の加速は3秒。価格は7万ドルとリーズナブル。コスパはとてもいい。また、テスラより、加速が速いし、充電の速度も速いし、内装の高級感はテスラに勝るし、航続距離も長いというルーシード。2社は話題になっている。

ここでwAtARuに聞きたいけど、許せないデザインはあるのか?

「これは難しいけど、やはり、表面的に線を増やして、メッキの飾りをつけることで豪華さを演出する車は好きじゃないですね。もう1つが、タクシーとかバスのデザインは公共物みたいな感じがして、よく見かける箱形の日本のタクシーをもっと格好いいデザインにしてほしかったな」とwAtARu。

まさしく!! 一応、ロンドン・タクシーをもとにしてデザインされたという噂だけど、全然違うね。「ライトも20年前のライトみたいなデザインで、珍しいフェンダーミラーになっています。あれには少し気合を入れてデザインしてほしかった」とwAtARu。

ここで話題を変えて内装について聞きたい。

電動化が進んで、内装がガラッと変わった。例えば、EQSの内装。外観はイマイチと評したけど、内装は液晶を大胆に使って、新しい傾向になっている。でも、もう少し物理ボタンを残すべきではないか、という苦情も聞く。

wAtARuも、「メーターが液晶になったことで、これまでメータ類の上にあったフードがなくなっているところが大きな印象の違い。スクリーンが3枚も入るような長いパネルが流行っていますが、デザインは自由になっているのは視認性の面でもメリットだと思います。大きなフードが邪魔な物体ではあったので、それが消えたことでスッキリ感が出た。ガラケーがスマホになったみたいなイメージ。でも、おっしゃる通り、物理ボタンは少しあった方がいいと思いますね」と。

その通り。EQSも室内の幅いっぱいの液晶になっている、3面もついている! でも、物理ボタンもほとんどない。EQSには物理ボタンは2つしかない。スタートボタンとハザード。物理ボタンをもう少し残した方が人間は落ち着くし、より安全だと思う。

「確かに、ボタンが減っていくけど、BMWなどでも液晶を触った時に、振動の返し方でエアコンなどの調整ができる。だから、ボタンがなくても満足できる時が来ると思う。液晶を触って、いろんな振動が返ってきて、どこを押しているかがすぐ直感でわかれば、液晶でもいいなという時代がくるでしょう」とwAtARu。

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BMW iXのセンターコンソール。文字の部分を触ると振動が伝わる。

なるほど。例えば、普通のガソリン車からEVに乗り換えると、ゼロからスイッチの使い方を勉強しなければならない。レイアウトも違うし、意味も違うし、使い方も違うし。オーナーにとって勉強する時間が必要だね。

最後に永遠に残すべきデザインを聞こう。

「これは好みの問題にはなるけど、『マクラーレンF1』は残してほしい。僕はマクラーレンというブランドが一番好き。2歳の時からこの車名を叫んでいたと両親が言っていました。そのF1は3人乗りで、運転席はど真ん中。デザインも綺麗にできているし、ドアの後ろにラゲージがある。利便性も高い。〈ゴードン・マレー〉のデザインで、ほかに似たスーパーカーはないと思う」と、wAtARu。

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多くのファンを持つマクラーレンF1

僕はワゴンなら、最近のボルボが綺麗にできていると思うし、セダンならアルファロメオ・ジュリアのプロポーションがいいと思う。また、スポーツカーだと、フェラーリ・ディーノのような超美しいデザインを残してほしい。やはり、好みを言えば、2人とも流線形でグラマラスで少し個性があるというのが、デザインとして素晴らしいという結果になったね。

カーメーカーに求めるのは、「航続距離と空力抵抗を優先するあまり、クルマの外観の美しいデザインを犠牲にしないでほしい」ということだ。

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