今のままでは宝の持ち腐れ...「電力会社が原発27基分の発電能力を死蔵している」という不都合な真実

今のままでは宝の持ち腐れ...「電力会社が原発27基分の発電能力を死蔵している」という不都合な真実

  • PRESIDENT Online
  • 更新日:2022/11/25

なぜ日本では再生可能エネルギーの活用が進まないのか。東京大学の丸川知雄教授は「再生可能エネルギーの活用には、出力の不安定性と高い蓄電コストというネックがあるが、日本にはこの2つの課題を解決する揚水発電所が原発27基分もある。揚水発電のインセンティブを設計しなおすべきだ」という――。

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写真=iStock.com/Just_Super

中国にも後れを取っている日本の再エネ

日本政府は、わが国の二酸化炭素の排出量を2030年には2013年の半分近くに削減し、2050年には実質ゼロにすることを国際的に約束した。だが、その約束の実現に向けての足どりはきわめて心もとない。経済を落ち込ませないという前提の下で排出削減を実現するには、二酸化炭素を排出しない太陽光、風力といった再生可能エネルギーや原子力発電への切り替えを進めるしかない。

しかし、原発に関しては福島第一原発の事故によってその安全性に大きな不安が生じたため、今後の新設は難しく、既存の原発の再稼働や置き換えを進めるのがせいぜいであろう。となると頼みは再生可能エネルギーということになるが、日本は再エネへの転換において諸外国に後れを取っている。

2021年時点で日本の発電源に占める風力や太陽光など再エネの割合は12.8%で、イギリス(37.7%)やドイツ(37.2%)などヨーロッパの先進国に大きく水をあけられているだけでなく、トランプ政権時代には温暖化対策に消極的だったアメリカ(14.2%)や、温暖化対策に日本ほど踏み込んだ約束をしていない中国(13.5%)よりも低いのである。

発電量が不安定かつ蓄電コストも高い

再エネは自然の風や日照を頼りとするため、人間の都合で発電量を増やしたり減らしたりできない点が難点である。私の家の屋根でも太陽光発電をしているが、春、夏、秋は太陽光発電で家に必要な電気はすべて賄ったうえでもなお電気の余剰がある。ところが冬になると、わが家では暖房に電気を用いているうえ、熱が逃げやすい構造をしているので、屋根からの電気では到底間に合わず、大量の電気を購入せざるをえない。

こうした再エネ固有の難点は蓄電ができれば克服できる。蓄電というとまず蓄電池を思い浮かべる人が多いだろうが、蓄電池は高価なのが難点である。実はわが家でも大枚はたいて蓄電池を据え付けたのだが、天気のいい日ならば昼間ためた電気を夜使うことでほぼ一日中電気を買わずに済むものの、天気のいい日の余剰分を雨降りの日までためておくことはできないし、まして秋までの余剰分を冬使うこともできない。

巨大で融通の利く、優れた蓄電池

実は再エネの難点を克服できるすばらしい蓄電設備が日本には膨大に存在する。それは揚水発電所である。

その原理は水力発電と同じで、ダムによって作られた貯水池に水をためておき、電気が必要なときに放水してタービンを回して発電する。普通の水力発電所と違うのは、ダムの下流にもう一つの貯水池があり、電気を使ってその下流の貯水池の水を上流の貯水池に汲み上げることができるようになっていることである。

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画像=揚水発電のイメージ( 電気事業連合会の公式サイト より)

つまり、電気が余っているときに余剰電力を使って水を上流の貯水池に汲み上げておけば、電気が足りないときに貯水池の水を流して発電できる。水はある程度は蒸発するとはいえ、かなり長期間ためておくこともできるので、揚水発電所は巨大でかつ融通の利く優れた蓄電池だということができる。

原発27基分の揚水発電所があるのに…

この優れた蓄電施設を日本は現在2754万kW分も持っている。原発は1基100万kWなので原発27基分に相当する。日本の一般の水力発電所は全部で2216万kW分存在するので、一般の水力発電所より揚水発電所の能力の方が大きいのである。

揚水発電所は北海道から九州まで全部で42カ所あり、全国の9電力のうち北陸電力を除く8つの電力会社、および電源開発と神奈川県が保有している。

これだけの能力があれば、風力や太陽光の発電所が発電しすぎて電気が余っているときには揚水発電所で水を汲み上げてためておき、風力や太陽光の電気が少ないときには放水して発電することによって、再エネ固有の難点を克服することができるはずである。

ところがこの優れた施設がさっぱり活用されていないのである。図表1は揚水発電所と一般の水力発電所の稼働率を示している。なお、ここでいう「稼働率」とは、それぞれの発電所の最大出力で1年365日24時間稼働し続けた場合に生み出される電力量と、実際に生み出された電力量とを比べたものである。

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出所=資源エネルギー庁電力調査統計から筆者計算

一般の水力発電所もダムに貯水できる水の量によって発電できる電力量は制約されるため、稼働率100%ということはありえず、ここに示した40%前後という数字がほぼフル稼働の状態に近いとみられる。

揚水発電所の場合も、水を汲み上げている時間帯は当然発電しないから、稼働率はどんなに高くても5割を超えることはないだろう。それにしても、揚水発電所の稼働率は2016年には3.2%、2020年には4.6%と極めて低く、宝の持ち腐れ状態にある。

もともとは原発を補完する存在だった

いったいなぜ揚水発電所の稼働率がこんなに低いのかというと、もともとそれが原発とセットで作られてきたという経緯があるためである。

原発は出力の調整ができず、常時フル稼働し、定期点検の期間は発電量ゼロになってしまうから、再生エネとは違った意味で融通が利かない。原発は夜間も稼働し続けるため夜間の電力が余るということが原発の難点としてあり、そうした原発によって生じる電力の余剰をならすために揚水発電所が作られた。

図表1にみるように、2013年度と2014年度の揚水発電所の稼働率はほぼゼロであるが、この2年間は原発もすべて止まっていた。2015年度に原発が再稼働を始めると揚水発電所の稼働率も高まっており、揚水発電所が原発を補完するものと位置付けられていることが明らかである。

ただ、2020年度は原発の稼働率がかなり下がったにもかかわらず、揚水発電所の稼働率はむしろ上がっており、再エネの利用による電力供給のデコボコをならすためにも使われ始めていることがうかがえる。それでも揚水発電所はまだまだ余力を残している。

電力危機に備えるのにうってつけ

にもかかわらず、メディアでは再エネの出力の不安定性ばかりが強調され、九州電力管内などでは太陽光発電が過剰だとして、太陽光発電所の出力抑制がたびたび行われている。日本がCO2排出量削減の目標を達成するためにはまだまだ再エネによる電力生産を増やしていかなければならないというのに、今から再エネの出力を抑制しているようでは、排出量実質ゼロなんてとうてい達成できないだろう。

こういうときこそ揚水発電所によって余剰電力を使って水をためておき、電力が足りなくなるときに備えたらいいのではないだろうか。

おそらく電力会社のなかでは、太陽光発電の余剰分を買い上げて揚水発電所で貯水し、あとで発電して電力料金を稼ぐよりも、電力需要が多いときには火力発電所を回して発電した方がおトクだとそろばんをはじいているのだろう。電力会社が火力発電所と揚水発電所を両方とも所有しているため、わざわざ揚水発電所を使うインセンティブが乏しいのである。

日本の膨大な揚水発電所の能力がほんの一部しか活用されていない現状を打開するためには、最近中国で始まった試みが参考になる。

スポット市場で稼ぐ中国の揚水発電所

中国では発電所と送配電会社との間で電力を売り買いするスポット市場が各地で整備されつつあるが、そこに揚水発電所もプレーヤーとして加わるようになった。

電気がだぶついているとき、火力発電所や水力発電所は出力を下げるが、風力や太陽光の発電所は出力の調整が効かないので、スポット市場で電気を安く売り出す。それを揚水発電所が買い取って貯水しておき、電気が足りなくなったときに発電してスポット市場で売るのである。こうして揚水発電所は電力需給の変動によって生じるスポット市場での電力価格の変動を利用して利ザヤを稼ぐことができる。

揚水発電所がこういう事業を展開するためには、そもそも揚水発電所が独立した営利企業であることが前提であるが、中国ではすでに送配電会社から揚水発電事業者が独立した子会社として分離されているし、揚水発電所が儲かると見込んで参入してくる企業も多い。

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写真=iStock.com/Just_Super

きわめて安上りな温暖化対策になる

日本にも電力のスポット市場はあるが、揚水発電所は電力会社が抱え込んだままである。中国における揚水発電ビジネスが軌道に乗るようであれば、日本でも揚水発電所を電力会社から分離して独立させ、スポット市場での電力価格の変動を利用して利ザヤを稼ぐ独立の事業体に育てたらよい。

そうすれば太陽光や風力で作った電気が余りそうなときには出力を抑制させるのではなく、スポット市場で売りに出すようにすれば、揚水発電所が貯水して有効活用するであろう。

排出量実質ゼロを達成するにはもちろん今後も風力発電や太陽光発電に投資を続けなければならないが、現在すでに存在する揚水発電所を活性化することによって、再エネ発電所の出力抑制も避けられるのだとすれば、これはきわめて安上がりな温暖化対策だといえる。

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丸川 知雄(まるかわ・ともお)
東京大学社会科学研究所教授
1964年生まれ。1987年東京大学経済学部経済学科卒業。2001年までアジア経済研究所で研究員。この間、1991~93年には中国社会学院工業経済研究所客員研究員として中国に駐在。2001年東京大学社会科学研究所助教授、2007年から教授。専門は中国経済・産業経済。著書に『現代中国経済』『チャイニーズ・ドリーム:大衆資本主義が世界を変える』『現代中国の産業』など多数。
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丸川 知雄

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