
日本サッカーの成長が現れるのは、トップリーグや代表チームだけではない(写真はイメージです) 撮影:中地拓也
日本サッカーの成長ぶりは、世界も驚くほどだ。先日は男子代表がドイツとトルコに快勝し、女子代表はワールドカップ2度目の制覇へ再スタートを切っている。だが、日本サッカーの本当の充実ぶりを示す下部リーグを、サッカージャーナリスト・後藤健生がリポートする。
■盛り上がるスタジアム
さて、関東リーグを観戦に行った前日(9月17日)には、僕はもう一つの下部リーグの試合を見にいった。
日本女子サッカーリーグ(なでしこリーグ)の第19節、オルカ鴨川対ニッパツ横浜FCシーガルズの試合である。
かつては日本の女子サッカー界のトップリーグだった「なでしこリーグ」だが、2021年にWEリーグが発足してからは、強豪チームが抜け、今ではWEリーグの下位リーグとなっている(両リーグの間に昇降格はない)。
つまり、現在の「なでしこリーグ」は、日本の女子サッカーの2部リーグに当たる。
WEリーグと違って、なでしこリーは今も「春秋制」だから現在はリーグ終盤を迎えており、前節まで首位に立っていたのが千葉県の南房総、鴨川市をホームタウンとするオルカ鴨川でそれを勝点1ポイント差で追っていたのがニッパツ横浜FCシーガルズだった。
つまり、この日の鴨川とニッパツ横浜の試合は首位と2位の直接対決だったのだ。
そこで、鴨川は「クラブ設立10周年」を記念して、ニッパツ横浜戦の当日、数々のイベントを実施した。この結果、観客数は1280人に達した。
「たかが1280人」かもしれない。だが、会場となった鴨川市陸上競技場はメインスタンドの固定座席数が1240席というスタジアムだから、1280人の観客は満員に近い感覚だった。だいいち、鴨川市の人口は3万人強なのだから、1280人というのは全人口の4%以上ということになる。
■盛り上がる試合展開
こうして、なでしこリーグの首位決戦は、首位を走る地元のチームを大勢の市民が後押しするという、素晴らしい雰囲気の試合となった。
しかも、試合開始直後に鴨川がいきなり3点を連取して、地元の観客を大いに盛り上げた。
90分を通して振り返ると、地力で勝るニッパツ横浜がコントロールする時間が長かったようだが、鴨川は先制攻撃に成功したのだ。
開始3分に並木千夏が蹴ったCKを相手GKがファンブルしたところにキャプテンの山幡あやが飛び込んでヘディング・シュート。これはクロスバーに嫌われたが、すぐにストライカーの鈴木陽が押し込んであっさりと先制したのだ。
その後も22分に中盤で齊藤彩花が相手ボールを奪い、そこから素早く展開して再び鈴木が決めて2点目。そして、43分にもFKのこぼれ球を近藤彩優子が決めて、鴨川は決定的とも思える3点のリードを奪った。
キックオフ直後から全力を出してプレーし、相手を追い込んで先制。そして、さらに2ゴールを追加した試合運びは見事だった。鴨川を率いている野田朱美監督(元女子日本代表)は勝負師的なところがあるから、意図的に早い時間帯から積極的に攻めたのかもしれない。いずれにしても、とても戦略性のある戦い方だったといえる。
ところが、ニッパツ横浜も前半の最後の時間帯に1点を返すことに成功。河野朱里のCKが跳ね返ったこぼれ球を、CFの片山由菜が決めて1点を返したのだ。
そして、この1点が後半につながり、試合は3対3の引き分けに終わった。
後藤健生