「バスクリン」社長が考察する、入浴剤が日本人に大ウケした理由

「バスクリン」社長が考察する、入浴剤が日本人に大ウケした理由

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2020/10/18
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入浴剤や育毛剤を製造・販売する株式会社バスクリンを取材した。入浴剤の誕生は明治30年のこと。きっかけは、バスクリンのルーツとなった企業「津村順天堂」の社員が薬の製造時に出た材料の余りを持ち帰り、試しに風呂に入れたこと。普段より体が温まり、あせもも改善したため、銭湯向けに製品化すると大ヒットにつながった。ロングセラーとなった秘訣は何だったのか。親会社・アース製薬出身の三枚堂正悟社長(57歳)に話を聞いた。

日本人の「入浴文化」

日本人は毎朝起きて顔を洗って歯を磨くことと同様に、毎晩、温かいお湯に浸かる生活習慣があります。これは、世界的には特異な文化で、水資源が豊か、かつ各地に温泉もあるからこそ根付いたものでしょう。

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日本人は古来から、温かいお湯に浸かると疲労が回復し、健康が維持増進されることを知っていました。毎日、湯に浸かるからこそ、その時間をより充実したものにしたい。入浴剤が生まれたのは自然な流れだったと思います。

入浴剤がロングセラーになったのは、効果が実感しやすいことと、高度経済成長の波に乗ったことが大きいです。お湯に入れた瞬間、色が変わっていい香りがするなど、五感で楽しめる商品に仕上げたことも成功要因でした。

もうひとつ重要だったのは、入浴の効能を明確にしたことでしょう。当社の先輩たちは、試行錯誤を繰り返し、エビデンスを積み重ねてきました。

例えば、炭酸ガス浴は温浴効果を高めて血行を促進し、肩こりや腰痛が緩和します。生薬を配合したお湯に入ると、入浴後もぬくぬくとした時間が長く続きます。入浴で就寝前に体温を上げれば、ぐっすり眠れて疲労が回復します。

入浴にこれだけの効能があるからこそ、いろいろな文化が欧米化しても、なかなか「シャワーで充分」というふうにはならないのだと思います。

「目標は高く置け」

学生時代は、体育くらいしか得意科目がない子でした(笑)。私を成長させてくれたのもサッカー部です。

印象に残っているのは、今は亡き高校時代の監督の言葉。「全国大会に出ることを目標にすれば、県大会の準決勝あたりで負ける。ベスト4に入って国立競技場で試合をしたいと思えば、手前で負ける。

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優勝を目指さない限り、国立競技場の芝は踏めない。だから目標は高く置け」。これは本当に、そのとおりだと思います。

だから私はアース製薬に入社し営業になった後も、常に高い目標を掲げました。

あるホームセンターさんに社長と一緒に商談に行った時、徹夜で資料を作り、「貴社の棚をすべて当社に任せてください!」と提案し、「やりすぎだ」と叱られたこともあります(笑)。でも、それで棚の8割をいただけたので、努力の甲斐はあったと思っています。

人生、思い通りにいかないことばかりですよね。ならば逆に「無理だ」などと縮こまらず、やるべきことはすべてやり、言いたいことはすべて言いたい、と思うんです。

本気の「好き」は「学び」につながる

大切にしている言葉は「好きこそ物の上手なれ」と「無事これ名馬」です。私が営業として頑張れたのは、人の懐に飛び込むことが好きだったから。そして、本気で好きなことは、いずれ「学び」という財産を自分に返してくれます。

私はアース製薬が上場する時、上場基準を満たすための制度改革を任されました。水戸黄門の印籠のように「上場のために必要だから」と現場に新たな制度を押しつけても、きっと何も変わらない。

そう考え、「まずは現場の状況を教えてもらい、それをもとに制度の変更を進めよう」と決めました。あちこちに根回しし、最終的に誰もが納得いく形で制度を変更できたのは、やはり、営業の仕事と本気で向きあってきたからでしょう。

「無事これ名馬」は、部活から学んだことです。監督に「最後に試合に出られるのはケガをしないヤツだ」と言われ、体のケアを大切にしてきました。そんな私にとって「入浴を通して健康を保つ仕事」は、天職だと思っています。

休日は少年サッカーの指導者をしています。ここからも、学ぶことは多い。

脳は、体に「こう動け」と様々な指令を出しますが、その中で脚は最も遠くにあります。だから習うより慣れろで、反射神経を鍛えることが一番大切。本当に好きでボールを触り続けた人間が上達します。

「入浴剤」がもたらした笑顔

先日、あるお母様からお手紙をいただきました。「コロナ禍でなかなか外出できず、3歳の子どもがかわいそうだったけれど、たまたま入浴剤を使ったらお湯の色が変わって大喜びしてくれました」と。

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同封されていたお子さんの笑顔の写真を見た瞬間「我々は、この瞬間を作りたくて、この仕事をしているんだ!」といたく感激しました。

温泉しかり、風呂に浸かるという行為は、我々、日本人のコミュニケーションに大きく寄与してきました。そして入浴剤も、その文化の一部。

私達は、入浴文化の素晴らしさをこれからも伝え続けていきたいです。(取材・文/夏目幸明)

三枚堂正悟(さんまいどう・しょうご)
'63年、岩手県生まれ。高校時代のサッカー部ではインターハイベスト8に進出。日本大学文学部を卒業後、アース製薬へ入社。'14年に役員待遇管理本部経営企画部部長に就任し、以降要職を歴任、'20年にバスクリンの代表取締役社長に就任し、以来現職。売上高約150億円の組織を率いる

『週刊現代』2020年9月12・19日合併号より

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