トヨタはなぜイギリスから「撤退する」と言ったのか? EV・HVを巡る深い理由とは

トヨタはなぜイギリスから「撤退する」と言ったのか? EV・HVを巡る深い理由とは

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  • 更新日:2022/08/07
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ロンドンにあるトヨタ自動車販売店(画像:(C)Google)

変化する自動車メーカーの立ち位置

トヨタ自動車がイギリス政府に対して、2030年にハイブリッド車(HV)の販売を禁止した場合、イギリスでの生産から撤退する可能性があると警告したことが話題になっている。

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企業として、政府に物申すのは通常のことだ。しかし、今回の出来事はイギリスだけでなく、ヨーロッパ、そして世界で進む電気自動車(EV)普及の流れのなかでの自動車メーカーの立ち位置を考えさせられるものでもある。

本稿では、なぜイギリスに対してトヨタがこのような計画をしたのかを紹介した上で、グローバル企業と環境の問題を解説する。

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今回のトヨタ自動車関連記事(画像:ザ・テレグラフ)

トヨタがイギリスに撤退すると言った訳

発端は7月31日のイギリス紙サンデー・テレグラフによる報道だった。

同紙によると、トヨタ自動車がイギリス政府に対して、2030年にHVの販売を禁止した場合、イギリスでの生産から撤退する可能性があると警告したとしている。

トヨタの警告の背景にあるのは、イギリス政府が脱炭素計画に基づき、2022年中に法案化を図っているためだ。イギリス政府は2020年11月17日、ガソリン車とディーゼル車の新車販売を2030年までに禁止し、EVの普及を促進すると発表した。

イギリスがこのような方針を発表したのは、2021年に第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)をイギリスのグラスゴーで開催することになっており、それに合わせて環境問題への取り組みを発表したいという思惑があった。

その一方で、ヨーロッパだけでなく、アメリカやカナダなどで、電気自動車の促進やガソリン車の禁止に向けた動きが起こっており、その流れを受けたものともされている。

イギリス政府は、この方針に従って現在法案化を進めている。法案ではガソリン車とディーゼル車の新車販売を30年に禁止し、EVの走行基準を満たした一部モデルのプラグインハイブリッド車(PHV)のみ、35年まで販売を認めるとしている。

トヨタの警告はこの方針に異議申し立てを行った形になる。その背景となっているのがイギリスにおけるトヨタの立ち位置だ。

イギリス自動車工業会やトヨタの統計によると、トヨタはイギリスの工場ではHVの

・カローラ
・プリウス

を生産している。

法案化によって販売が認められるPHVは生産していない。法案の成り行きによっては、イギリスの工場で生産している車種は全て販売できないということになる。それを防ごうというのが今回の警告であろう。

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ロンドンの街なかを走る車(画像:pixabay)

ヨーロッパにおけるEV化の潮流

2020年にイギリスは欧州連合(EU)から離脱し、イギリスは独自の政策を行うようになったが、自動車の環境政策についてはヨーロッパ同様にガソリン車禁止、EV促進の方向に動いている。

ヨーロッパの環境規制は世界で最も厳しいものとなっている。2022年7月14日にEUの執行機関である欧州委員会が新たな規制を発表した。それによると、2035年以降に発表することができる新車はEVや燃料電池自動車(FCV)のみにするというもので、HVやPHVの販売すらも禁止されることになる。イギリスの規制よりもさらに厳しいものを行うと表明した訳だ。

EUにおいて、環境政策は最重要政策のひとつと位置付けられており、世界の中でも厳しい規制が行われてきた。先ほど紹介したCOPなどでも、環境規制をリードする立場にある。

環境政策が重視されるのはヨーロッパだけでない。2021年に就任したバイデン大統領はグリーン・ニューディールを掲げており、アメリカでも環境政策は重要政策として位置付けられている。環境政策を重視する動きは今後も強くなっていくだろう。

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イギリス国旗(画像:写真AC)

グローバル企業の苦悩

今回のトヨタの警告に対して、環境シンクタンクなどは低い評価を与えている。しかし、グローバル企業にとっては、そうは言ってられない複雑な事情がある。

トヨタの統計によると、2021年にイギリスをはじめとするヨーロッパ市場の販売台数は103万7126台、これはアジア・北米・日本の次という順番になる。販売の主力はアジアや北米市場となる。しかし、ヨーロッパ市場も台数的にはそれなりの数なので無視することはできない。

しかし、ガソリン車を巡る規制強化の流れは今後続くだろう。ヨーロッパやイギリスだけでなく、アメリカのカリフォルニア州でも2035年までにガソリン車を禁止する方針とされている。日本でもガソリン車を禁止こそしていないが、燃費規制は年々強化されている。そのため、ガソリン車の規制強化は今後も続いていくだろう。

その一方で問題となるのが、規制のスピードが早いのではないかという問題だ。イギリス自動車工業会が2020年9月に発表した調査によると、ドライバーの44%が2035年までにEVを購入する準備ができていないと答えている。急速なEV化を求める地域機構や政府の方針に肝心の顧客側がついていけるのかという課題が残されている。

EV化を促進しようとしているイギリスでさえ、この状況なのだから、これからEV化を進めようとしているアジア諸国の対策はさらに遅れる可能性がある。

トヨタのようなグローバル企業は多くの地域に進出しているがゆえに各地域の状況に合わせていかなくてはならない。今回のトヨタの警告はそうしたグローバル企業の苦悩を示しているのかもしれない。

加藤博章(国際政治学者)

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