杉山淳一の「鉄道ジオラマ旅情」、第5回:愛知県名古屋市「リニア・鉄道館」[前編]新幹線16両フル編成が駆け抜ける巨大ジオラマで童話キャラ探し?

杉山淳一の「鉄道ジオラマ旅情」、第5回:愛知県名古屋市「リニア・鉄道館」[前編]新幹線16両フル編成が駆け抜ける巨大ジオラマで童話キャラ探し?

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  • 更新日:2021/02/22
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今回の旅:「JR東海 リニア・鉄道館 ~夢と想い出のミュージアム~」

所在地: 名古屋市港区金城ふ頭3-2-2
開館時間:10:00~17:30(最終入館は閉館30分前まで)
休館日:毎週火曜日(祝日の場合は翌日) 春休み、大型連休、夏休みは火曜も開館
入館料:一般・大学生1000円 小中高生 500円 3歳以上未就学児 200円
アクセス:名古屋臨海高速鉄道あおなみ線金城ふ頭駅から徒歩2分

「リニア・鉄道館」は名古屋港の埋め立て地、金城ふ頭にある。名古屋市がモノづくり文化交流拠点として整備した広大な地域で、名古屋駅からのアクセスも良く、博物館建設にふさわしい場所といえる。JR東海は2008年に「リニア・鉄道館」の建設を発表した。

その背景として「JR東海の完全民営化記念」と「リニア中央新幹線」の推進があるように思う。JR東海は、2005年の愛知万博で「超電導リニア館」を出展し、2006年に鉄道建設・運輸施設整備支援機構保有株を買い取り完全民営化。自社単独でリニア中央新幹線を建設すると発表した。2007年には東海道新幹線にN700系電車を、在来線に313系電車を大量に導入した。2011年に開業した「リニア・鉄道館」は「新しいJR東海」のシンボルといえるだろう。

【リニア・鉄道館ジオラマ|リアル!?な風景」】

JR名古屋駅から金城ふ頭駅まで名古屋臨海高速鉄道のあおなみ線で24分だ。あおなみ線は貨物線として名古屋駅と名古屋貨物ターミナルを結ぶ路線だった。この貨物線を金城ふ頭まで延伸し、旅客化した鉄道があおなみ線だ。全線が高架区間になっているため広々とした展望である。

電車は名古屋駅を出るとすぐに近鉄の車庫をかすめ、ささしまライブ駅付近でJR東海の在来線車両基地を通る。名古屋貨物ターミナル付近はJR貨物の機関車がいる。金城ふ頭に入ると自動車運搬船のバースが見える。完成車がズラリと並び、大型運搬船に積み込まれていく。乗りもの好きにとって、リニア・鉄道館のアプローチにふさわしい眺めだ。付近には2017年に「レゴランド・ジャパン」もオープンした。魅力的なエリアだ。

この取材は2020年12月。東海道新幹線の需要回復のため、JR東海は「ずらし旅」キャンペーンを展開中だった。そんな折、JR東海の広報さんにこの連載企画を話したところ、「是非取材してください」とお声がけいただいた。現在の館長がジオラマ製作担当ということもあり、ジオラマのコンセプトや、 制作者の思い、見どころもしっかり聞いた。 そこで今回は前後篇の2回構成とし、今回はジオラマの魅力や仕掛けについて、次回は館長インタビューを中心にジオラマ製作や運営の様子をご紹介したい。

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【ジオラマ全景】

「JR東海 リニア・鉄道館 ~夢と想い出のミュージアム~」

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ジオラマ全景。大阪から東京方面。(許可を得て脚立を使用)

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ジオラマ全景の夜景。東京から大阪方面

【著者近況】

今回の取材は2020年12月21日。COVID-19関連で2度目の緊急事態宣言発出前だった。春の緊急事態宣言が解除されてから、少しずつ取材や旅が増えて、12月は東海道新幹線に4回乗った。この取材のほか、名古屋のJR東海の施設へ日帰り取材、岐阜県可児市の名鉄資料館へ日帰り旅、大阪発着で岡山行き1泊の団体列車取材旅。ほかに鶴見線夜景ツアー日帰りと忙しかった。ところが1月に緊急事態宣言が発令され、足止め状態になっている。

「鉄道ジオラマに歴代新幹線が大集合!」という企画を実施中!

「リニア・鉄道館」の敷地は1万9300平方メートル。2階建てのほとんどは吹抜けの車両展示場になっている。建物床面積は約1万4400平方メートル。このうちジオラマの面積は約220平方メートルだ。そう書くと小さく思えるけれど、レイアウト全体の幅が約33メートル、奥行きは最大8メートルだ。例えるなら路線バス6台分の駐車場とほぼ同じ。

レールの規格はHOゲージ(16.5mm軌間)。車両は新幹線が1/80、在来線が1/87。実物は新幹線の軌間が広く、在来線の軌間が狭い。それを模型では世界規格の16.5mm軌間にしたので、縮尺が微妙に異なる。日本の狭軌を1/80で再現する「13mmゲージ」もあるけれど主流にはならなかった。世界共通規格は強い。

新幹線16両フル編成はHOゲージ車両で約5メートルの長さとなる。真っ白な車体にブルーの帯の列車が右へ左へと駆け抜ける。新幹線の線路はゆったりした高架複線で、通常時は上下2本ずつ4編成が走る。使用車両は主力車両のN700A、N700S、ドクターイエローだ。夜間は保守用車両が走り始める。2020年12月9日から2021年3月8日までは「鉄道ジオラマに歴代新幹線が大集合!」という企画で、前出の主力車両のほか、過去に東海道新幹線で走った0系、100系、300系も走っている。隠し留置線をフルに使って上下3編成の同時運行となる。

列車は個別に制御されており、同じ周回線路上で列車同士が追突することはない。特別企画だけではなく「いつも3編成で走らせて欲しい」「もっとたくさん走らせて欲しい」と思うけれども、編成が増えると運行間隔が狭くなり、駅でもないところで一時停止や徐行運転となれば新幹線らしくない。なにより車両のメンテナンスがたいへんだ。後編で詳しく紹介するけれども、裏方ではダイヤも車両も本物の新幹線さながらの運行管理体制を取っている。

【いくつもの路線が行き交う「JR東海 リニア・鉄道館 」のジオラマ】

全7路線、レールの総延長は1km

鉄道路線は7本ある。東海道新幹線、中央線、東海道線、環状線は複線の周回路線。高山線、関西線は単線の折り返し路線。そして複線の山梨リニア実験線だ。山梨リニア実験線はベルトに車両を載せる方式で、ベルトの両側にパルスモーターを置いて同期させ、短距離ながら高速で動かし、両端でピタッと停める工夫をしている。

東海道新幹線の複線はジオラマ全体を一周するコース。名古屋駅では手前の2面4線のプラットホームを使う。左へ向かって京都付近を通り、大阪市街の北側でトンネルに入ってジオラマの奥に回る。山岳エリアはトンネル、名古屋から奥へ続く高架区間、またトンネルで東京エリアを周回して名古屋駅に戻る。

名古屋駅新幹線プラットホームの隣は中央線だ。名古屋駅から左へ向かい、京都奈良エリアを進んで左手の山に入る。ここからずっとトンネルで、名古屋駅の奥から顔を出す。またトンネルに入り、東京横浜エリアの奥から顔を出し、またトンネルを通って名古屋駅に戻る。ジオラマの東西を貫くけれども露出度は低い。使用車両は「特急ワイドビューしなの」の383系電車と、各駅停車の313系電車だ。

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【7路線を走る車両】

ジオラマ路線図

最新型のN700Sは特注品

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浜松工場付近を行くN700A

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初代「のぞみ」300系

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名古屋駅に停車中の100系2階建て車両

名古屋駅のもっとも奥のプラットホームは東海道線と関西線が共有している。東海道線は名古屋駅から右に向かって中央線と新幹線の下を通って、左手前に張り出した「大阪の駅」を通り、トンネルに入るとずっと山の中を走り続け、ジオラマの右手の東京エリアで顔を出し、東海道新幹線と併走して新橋駅付近の情景を作り出す。横浜エリアで新幹線と分かれ、関西線と並んで名古屋駅に戻る。日中は113系湘南色、夜間には内回り外回りとも電車寝台特急「サンライズ」が走り、名古屋付近で深夜のすれ違いを再現する。

高山線は「大阪の駅」を起点とする単線だ。ジオラマ奥の山岳区間を通って右奥の山梨県エリアまで折り返し運転する。キハ40系JR東海色とキハ85系「ワイドビューひだ」が走る。関西線は名古屋駅を起点とする複線で、東海道線とプラットホームを共有し、いったん東海道線に沿って右へ行き、手前に戻って単線となり、名古屋駅の地下を通り抜け、左側の鳥羽駅に至る。主力車両はキハ75系4両編成の「快速みえ」だ。

環状線は大阪の駅周辺を走る線路で、甲子園球場付近は複線に見えるけれども、内回りは小さく、外回りは左手奥の山へ迂回する。JR西日本エリアの在来線という設定のようだけど、国鉄時代の懐かしい列車を走らせているようだ。117系新快速と在来線時代の特急「こだま」151系などが走る。

車両数は約450両。約70編成。ほとんどが市販品で、国鉄型など新品が市場にないものは、中古品販売店を巡り、オーションで入手するなど苦労があったという。ちなみに東海道新幹線の最新型車両「N700S」は製品化を待たずカツミ模型店に特注した。本稿執筆時点でN700Sの製品化はNゲージメーカーのみ。HOゲージは販売されていない。JR東海の博物館としてプライドを感じさせる。

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【7路線を走る車両】

新橋駅を通過する0系

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ドクターイエロー923形

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東海道本線初の電車特急151系「こだま形」

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JR東海在来線の主力313系

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寝台特急「サンライズ」285系

特撮映画の大家による背景と動く情景に感動

ジオラマは三方に壁があり、背景画が描かれている。富士山の美しさ、地平線に高層ビル群、太陽の塔など地域の特徴がある。背景画の本分を守り自己主張をしないけれど、ジオラマの奥行きをしっかり演出する「作品」だ。この絵は東宝の怪獣映画、ウルトラマンシリーズなど特撮映画の背景画で有名な島倉二千六(しまくらふちむ)氏が下絵を手がけ、雲の魔術師といわれる「アトリエ雲」が担当した。特撮ファンならこの絵を拝むためだけでも訪れる価値がある。

風景の全体像として、中央に名古屋駅を配置し、右手に東京、横浜、静岡、左手に京都、大阪の街がある。東海道新幹線全体をギュッと圧縮した景色だ。都市には建物を密集させて、山岳区間は自然を増やすなどメリハリを付けた。それが全体的にゆったりと、そしてダイナミックな景観を作り出している。東海道新幹線に乗った人なら誰でも解る場所があり、見知らぬ場所があれば行ってみたいと思う。

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【情景の面白さ】

島倉二千六(しまくらふちむ)氏の背景画が全景に奥行きを演出する

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大観衆が集まるロックフェス、2万5000体のフィギュアの多くがここと甲子園球場にいる

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火災現場に緊急車両が集まる

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夜間に走る電力保守用車

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線路脇に保守要員のフィギュアが現れる

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国会議事堂前でデモが行われている

これだけの広さがあると、ユニークな情景もたくさん仕込まれている。建物は約500棟、フィギュアは約2万5000体、自動車は約300台が配置され、うち10台は稼働する。人形を大量に使った情景として、ロックフェスと甲子園球場が圧巻だ。動く自動車はJR東海バスのほか、中華街付近のビル火災がおもしろい。ビルの窓が炎で赤くなると、救急車や消防車がやってきて、消火すると帰って行く。

動くギミックとしては保線作業にも注目だ。演出運転は1日14回、1回が20分で鉄道の24時間を再現している。夜になると東海道線ではサンライズが走り、その後、新幹線の名古屋駅と京都エリアの間で夜間保守作業が始まる。東京方面、大阪方面から道床(砂利)交換車、マルチプルタイタンパー(道床突き固め車両)などの保守作業車が次々にやってくる。架線点検車はライトで架線を照らしながら走る。

それらの車両の走行に目を奪われている間に、現場には保守作業員が現れた。忍者屋敷のカラクリのように、線路脇の板をひっくり返すとフィギュアが出てくる。ジオラマにおいて線路脇をイジるなんてタブーではないかと思うけれど、制作陣の意気込みを感じた。

大きなジオラマはちょっと引き気味に全景を眺めたくなるけれども、近づいてよくみると細かい作り込みも楽しい。東京エリアは国会議事堂前でデモが行われ、新橋駅前の蒸気機関車広場で街頭インタビューが行われている。神奈川エリアは箱根駅伝と中華街、静岡エリアは富士山を遠景とした山麓の風景のもと、富士川のサクラエビ干し、茶摘み。新幹線浜松工場はカットモデルで内部を見せる。

名古屋駅の桜通口は高層ビルが建ち並び、JRセントラルタワーでは夜にプロジェクションマッピングを実施。大阪寄りに目を向けると関ヶ原合戦の映画ロケ、自動車ラリー。奥にある白川郷・五箇山合掌造り集落の屋根にサンタクロースがいる。桜が咲く名古屋城は金のシャチホコが存在感を示し、伊勢神宮では修学旅行生が列を作る。

京都では祇園祭、清水寺の存在感。東大寺大仏殿の内部にはちゃんと大仏がいて、窓から顔を崇められるそうだけど、暗くて肉眼では辛い。写真を撮ろうにも前後の構造物に阻まれる。こうした作り込みについては、ジオラマ手前の小型モニターで紹介されている。山岳駅の駅舎内も作り込まれるなど、外から見えない部分も紹介されていた。補足説明と侮るなかれ。補足説明用画像と侮るなかれ。この映像も単独でおもしろいコンテンツだ。

大阪はもちろん通天閣、道頓堀にはグリコの看板。甲子園球場は試合の最中で歓声が聞こえそうだ。見どころは地上に留まらず、水面下や地下にも注目。地底人、リニア中央新幹線名古屋駅、海の魚のひとつは焼き魚になっているという小ネタもある。

ここで紹介した場面はほんの一部だ。ミュージアムショップでジオラマ専門の図録「リニア・鉄道館 公式鉄道ジオラマガイド」を販売しているので、入場前に先に入手し、予習した方がいいかもしれない。

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【各所の風景】

新橋駅前のサイネージとして液晶画面が埋め込まれていた

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フォトフレームで見えにくい部分を紹介する

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リニア試験車両は一瞬で走り去る

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JR東海浜松工場はカットモデルで車両のメンテナンスの様子を見せる

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関ヶ原の合戦は映画のロケ。右側は鵜飼いの風景

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白川郷・五箇山の合掌造り。サンタクロースが屋根に

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清水の舞台も観光客で賑わう

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東大寺大仏殿、上の窓から大仏の顔が……なかなか見えにくい

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伊勢神宮に修学旅行生の行列

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大阪、道頓堀

親子で楽しめる童話の世界

ジオラマの地平は床から650mmに設定した。会社の事務机より5センチ低い。これは子どもの目線に配慮したからだという。水面下の浦島太郎や竜宮城は大人には気づきにくい。子どもが先に見つけて、大人に得意気に教えてあげるという対話もありそうだ。博物館の鉄道ジオラマは「お子様は電車が走れば喜ぶ」「大人は風景を楽しむ」という傾向だろう。しかし「リニア・鉄道館」は親子で楽しむ仕掛けも多い。それが竜宮城に代表される「童話シリーズ」だ。

桃太郎の桃が流れてくる。金太郎が熊と相撲を取っている。山ではウサギとカメが競争し、街中ではネロとパトラッシュが牛乳を運んでいる。木の陰から赤ずきんちゃんを狙う狼、人魚、さるかに合戦、お菓子の家、一寸法師、白雪姫……。電車を見に来た子どもたちも、いつしか童話さがしに夢中になると思う。

じつは私や博物館スタッフ、JR東海広報さんたちも取材を忘れて童話探しに夢中になり、閉館時間を大幅に過ぎてしまった。デートに来て、もしもパートナーが電車に飽きてしまったとしても、このジオラマで締めくくれば気持ちよく帰路につけるだろう。

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【いくつ見つけられる? 童話キャラクター】

JRのハイキングイベント、その向こうにウサギとカメの競争のゴールがある

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さるかに合戦

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赤ずきんちゃんがオオカミに狙われている

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ヘンゼルとグレーテル「お菓子の家」

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サクラエビを干す富士川、対岸に一寸法師

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伊勢湾の海底に竜宮城、夫婦岩には人魚がいる

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白雪姫

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金太郎

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フランダースの犬

次回はリニア・鉄道館の館長、天野満宏氏のインタビューをお届けする。ジオラマのコンセプトや制作過程、実物同様の運行管理システムと車両メンテナンスについて。これを知っていればジオラマ見学がもっと面白くなる。そんな話を盛りだくさんでお届けするので、お楽しみに。

杉山淳一

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