
Cö shu Nie(写真=鳥居洋介)
「Cö shu Nieの時間である夜更けにどっぷりと浸かって、最高の時間を過ごせたらと思います」
Cö shu Nieによる『A cöshutic Nie Vol.3 in Billboard Live TOKYO and OSAKA』、4月28日の2ndステージ。21時のビルボードライブ東京では、今この瞬間こそCö shu Nieのマジックアワーなのだと思わせられるほど、美しく、純度の高い音楽が鳴っていた。生命力溢れるバンドサウンドの中から中村未来(Vo/Gt)がのびやかな歌声を響かせると、ステージ後方のカーテンが開き、六本木の夜景が広がる。この日ならではの特別な場面に、観客が瞳を輝かせる。
(関連:Cö shu Nieが辿り着いた新たな音楽世界 アルバム『Flos Ex Machina』が擁する艶やかな生命力)
無観客配信ライブとして行われたVol.1(2020年)、観客を入れて東京・大阪で開催したVol.2(2021年)に続き、特別編成でのビルボードライブは3度目の開催。今回は、メンバーの中村、松本駿介(Ba)に、サポートメンバーの和久井沙良(Key/Pf)、工藤誠也(Dr)という4人編成でステージに臨んだ。オープニングを飾ったのは、中村の歌と和久井のピアノの二重奏での「Lamp」。息を合わせながら、緩急に富んだ演奏を聴かせる2人。3分にも満たない短い曲だが、演奏はかなり濃密で、聴く人を早くもCö shu Nieの世界に引き入れた。
中村の呼び込みで松本、工藤も登場すると、2曲目「夢をみせて」以降は4人で演奏。『A cöshutic Nie』というライブタイトルはアコースティックをもじったものと思われるが、バンドのアプローチはアコースティックに留まらず、エレキギターやエレキベースはガンガン歪むし、それに伴い、ボーカルや他の楽器もヒートアップしていくのが痛快だ。観客は横に揺れながら楽しむだけでなく、時には「フゥ!」と歓声を上げ、メンバーのファインプレーを讃える。
同時に、サポートミュージシャン2人を迎えて奏でた、今までのバンドセットとは違うジャズのアプローチが新鮮だ。例えば、「iB」は原曲にもあるシンコペーションをさらに強調しつつ、アシッドジャズ調にアレンジ。Vol.1から演奏している未音源化曲「雨」には即興音楽的な面白さがあり、このメンバーで鳴らす意味が強く感じられた。また、キーボードの演奏を和久井に託し、今回は歌とギターに専念した中村が、全体を通して曲に没入しながら、時には情熱的に、時には繊細な声色で歌唱する姿は伸び伸びとして圧巻だ。特に「undress me」でのボーカルはムード抜群で、これまでのライブでも見受けられた身体のラインをなぞるような動きもいつも以上に艶っぽく感じられた。
演奏中4人でアイコンタクトを交わしたり笑い合ったりすることも多く、音にも、表情や立ち振る舞いにも、“とにかくこの4人で音を合わせることが楽しいんだ”という感情が滲み出ている。松本から「テンション上がってる」と指摘された中村は、「分かる?」と笑いながら「だってこのステージ、これで終わりだよ? 楽しいな、すっごく」と噛みしめていた。
ステージと客席の距離が近い会場ということもあり、MCはアットホームな雰囲気。松本は「めっちゃ近くない? 前の方なんて、スピーカーじゃなくてアンプの音が聴こえてるんじゃない?」と笑い、中村は観客のカクテルを見て「その青いのは何?」と話しかけていた。そして「こうやって顔を突き合わせて音楽ができること、すごく尊いと感じています。すごく幸せを感じています」と中村。2020年に始まった『A cöshutic Nie』は長かったコロナ禍を共に歩んできたライブシリーズとも言える。観客を呼びたくても呼べない時期もあっただけに、募る思いもあるのだろう。「大切な人に会いに行く曲」と紹介した「海へ」や、「大切な人を思い浮かべて聴いてください」という言葉を添えた「miracle」といったバラードを丁寧に届ける姿が印象に残った。
また、今回の『A cöshutic Nie Vol.3』から観客の声出しが解禁に。「せっかく声出しができるようになったから、みんなで歌いたい」と観客に伝える場面も目立ち、「gray」の前には、中村から「みんなで歌いたいと思って作った曲なんです」「柄にもなくそういう曲を作ったことを、ここで発表しました」といった発言も飛び出した。そして今この瞬間にしかない輝きを歌った「青春にして已む」でもシンガロングが起こると、「会場が一つになったわ。この言葉、言ってみたかった(笑)。ずっと一つなんだけどね」(中村)と笑顔を見せる。
そして、眠れない夜に捧ぐ「迷路 ~序章~」「迷路 ~本編~」でライブは終了。全身全霊のラストシーンから感じられたのは、Cö shu Nieの音楽と聴く人の日常を繋ぎたいという想い、さらに言うと、明日からもあなたには生きていてほしいという願いだ。このコロナ禍を音楽的トライアルととも駆け抜け、一段とタフになったCö shu Nieの現在を垣間見たのだった。
(文=蜂須賀ちなみ)
蜂須賀ちなみ