
番組MCに抜擢されたハライチと神田愛花。最初から息ぴったりだったという
平日お昼の帯バラエティ番組『ぽかぽか』(フジテレビ)のキャスティングは、王道のテレビバラエティとは一線を画する。MCに抜擢されたハライチは岩井が36歳、澤部が37歳と若く、フリーアナウンサーの神田愛花も進行役ではなく“プレイヤー”としての起用だ。
【写真20枚】進行役ではなく「プレイヤー」側でのオファーを受けた神田愛花。ハライチ、ゴリエ、桂二葉、山本賢太アナら、番組収録中の様子も
他にも貴乃花の次女でタレントの白河れい、気鋭の若手女性落語家の桂二葉を曜日レギュラーに抜擢するという既存の昼の帯番組にはない新鮮な座組だ。『ぽかぽか』総合演出の鈴木善貴氏にキャスティングの理由を訊いた。
聞き手は、『1989年のテレビっ子』『芸能界誕生』などの著書があるてれびのスキマ氏。テレビ番組の制作者にインタビューを行なうシリーズの第5回。【前後編の後編。前編から読む】
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「タモリさんも極楽とんぼの加藤さんも帯の司会を始めたのは37歳」
『ぽかぽか』のMCにハライチと神田愛花が抜擢されたのには驚いた。澤部佑や神田はともかく、岩井勇気は「『いいとも』は澤部だけレギュラーにしたくせに」と初回に恨み節を吐いたように、芸風も明るくテレビ向きの澤部に対して「陰」の芸風。「お昼向き」とは言い難い。
だが、2日目のゲストのマツコ・デラックスをして「これが新しい牙の剥き方!」と言わしめたように、岩井は過剰にお昼向けに大きなシフトチェンジすることなく、その魅力を発揮している。総合演出の鈴木善貴はハライチの起用理由をこう語る。
「僕は『アウト×デラックス』もやってましたんで、お昼にやるっていっても、別にお昼っぽくやる必要はないと思ったんですよ。お昼に合わせたら他の番組と一緒になるなと思って。やっぱりアイコンというか真ん中に立つ人で変わるなと思ったんです。
ハライチとは『キャンパスナイトフジ』で一緒に生放送をやりました。その時は岩井さんもまだ22~23歳で、そんなにちゃんと喋ったというわけではなかったんですけど、その後、ライブにも度々行ってみて、岩井さんの客イジりに毒っ気があって面白いなあと思っていたんですよ。それで『アウト×デラックス』的な要素がほしいなと思った時に、毒っ気のある岩井さんが浮かんだんです。
もちろん澤部さんとも、一緒に仕事したりライブで見たりしていても、文句なしのスゴい実力ですし、MC力も半端ないですから。そしてハライチは、何よりコンビのバランスがいい。それプラス、若い30代の人がいいなと思っていたんです。タモリさんも極楽とんぼの加藤(浩次)さんも帯の司会を始めたときって、彼らと同じ36~37歳のときらしいんですよね。だからちょうどいいかなって。それで岩井さんを中心にすると新しく見えるかなと思って、番組のポスターでも真ん中に据えたんです」
「宇宙人みたいな発想」の神田愛花
MCを務めるハライチのパートナーには神田愛花が起用されている。彼女は元NHKアナウンサーだが、進行役ではなく、神田本人が明かしているように最初から「プレイヤー」側でのオファーだったという。
「神田さんってやっぱりクレイジーなんですよ。クレイジーって表現はあまりよくないから、『突拍子もない』って言い換えたりするんですけど、やっぱりクレイジー。僕はそういう人が好きなんです。
MCの3人とも勘が良くて、1を言ったら、5をわかってくれるから、打ち合わせも早い。それと、僕は私服にこだわりがある人も好き(笑)。ハライチは2人ともそう。『アウト×デラックス』をやっていたんで、その経験でわかるんですけど、こだわりのある人ってちょっと変じゃないですか(笑)。偏見が面白い。
神田さんも変な偏見があって宇宙人みたいな発想をするから、台本に書けないようなことを言ってくれるんですよね。それが『IPPON女子グランプリ』(『まっちゃんねる』)で世の中に広まった。
しかもNHK出身だから知的。『クレイジー』『偏見』『知的』と脳内で検索したら神田さんがヒットしたということですね。進行役はアナウンサーがやってくれるんで、僕の好きな神田さんの可能性を最大限活かすにはプレイヤーだなと思ってオファーしました」
岩井と神田が偏見をぶつける「ぽいぽいトーク」
そんな岩井の毒っ気と、神田のクレイジーな発想、そして澤部のMC力が化学反応を起こしているのが、ゲストトークコーナーである「ぽいぽいトーク」だ。「~っぽい」というゲストに対するイメージを本人にぶつけるのだが、岩井と神田の2人はさながら『IPPONグランプリ』かのようにその場で、偏見に満ちたイメージをフリップに書いていく。聞かれたことのない角度からの質問にゲストも新しいトークの引き出しを開けていくのだ。
「5曜日あるんで、1個くらいは通しの企画がないと統一感はないと思って、ベタですけどゲストトークしかないなと。でも打ち合わせの時間を作れない可能性もあるし、『その話題NGです』とか、他の番組でも話しているようなゲストが話しやすいトークをしてもらうのも嫌だったんで、極論、打ち合わせ無しでフラッと来てやれるフォーマットはないかって考えたんです。
それで思い出したのは、もう誰もおぼえてないと思いますけど『キャンパスナイトフジ』でやったコーナーの『クイズ!オレ何系?』。内容は『麻雀でフリテンする系』といった自分自身を『○○系』と説明した出題者のフリップの内容を当てるクイズ。いわば偏見を言う大会なんですけど、それが面白かった記憶があったんです。それを『~っぽい』に変えてやっただけですね。
実際にゲネプロでやってみたら、最初は岩井さんと神田さんにはフリップをそれぞれ3枚くらいしか渡してなかったんですけど、その時に『IPPONグランプリ』やってるみたいってポロッとおっしゃったのでフリップを10枚くらい増やしたんです(笑)。神田さんをあの位置にして良かったなって思いましたね」
レギュラー陣の選出は「逆張り」の部分も
レギュラー陣も特徴的だ。少数精鋭で、芸人の割合も少ない。OWVやOCTPATHといったこれからのダンスボーカルグループ、白河れいや桂二葉といったテレビバラエティにはまだ馴染みのない存在も抜擢された。
「逆張りという部分もありますね。芸人さんがいっぱいいる番組はもうあるのでやめようと。あと、特有のわちゃわちゃした感じっていうのが時代に合っていない気がするんですよね。やっぱり(出演者が多すぎて何を言っているのか)聞こえないというのが(観る立場にとっては)ストレスなので。全員が満足して帰れるのは、マックス5人くらいまでかなと。それで基本的に1曜日5人、つまりMC以外のレギュラーは2組までにしようと。
OWVやOCTPATHは、彼らを見るために毎回ファンの方々が来てくれて本当にありがたい。
伊集院(光)さんは、腕がありまくるしラジオっぽいノリも欲しいなと思ったし、花澤香菜さんも『アウト×デラックス』に出てほしいくらい変な人ですからね(笑)。ゴリエさんは『ゴリエと申します。』という復活特番をやらせてもらったときに、衰えてないどころか、むしろますます面白くなっていて、キャッチーな見た目もほしいなって。二葉さんもれいちゃんもまだまだ彼女たちの魅力が全部出てないですけど、もうちょっと待って下さい。めちゃくちゃ変な人たちなので(笑)」
出演者がお休みすることが少なくないのも特徴的。もちろんそれは、急遽始まった番組のため、既に決まっていた仕事があるからやむを得ないものが大半。そんな中で、澤部が娘の卒園式のために遅刻したことは、「時代が変わった」とポジティブな話題になった。
「こういう時代ですし、気持ちよく行ってもらったほうがいいと思ったし、(生放送のセットまでの移動を)ロケもさせてくれるっていうんでありがたかったですね。普段、見られないような画になったんで結果、良かったです。
澤部さんが体調不良で休んだときは、火曜日ディレクターの石川(隼)のアイデアで、『フォルムが似ている』ってことで(ハリウッド)ザコシショウさんとクロちゃんに代役をやってもらいました。やっぱり企画をやるときには目線が1個ないとわけがわからないんで。ピンチをチャンスに変えるのが生の醍醐味ですよね」
成功のキーワードは「F2層が爆笑」「初見の人でもわかる」「観る時に感情移入できる」
番組開始後4ヶ月が経ち「ハライチ岩井の世界一かわいいネコちゃん連れてきて」や「暇王」、「ポカジノ」、「赤ちゃんハイハイレース」、「お母さん大好き党」、「甦れ!マイメモリー」、「新家電プロレス」など次々と人気コーナーが生まれている。
「企画を作るときに難しいのは、生で観てくれている人もいれば、TVerで観てくれる人もいますから、どこに向けるのか、ですよね。今はライフスタイルも変わってお昼に家にいる人も変わってきてますから。それでも僕らとしては『F2層(35~49歳の女性)が爆笑』『初見の人でもわかる』『観る時に感情移入できる』という3つのキーワードを目指して作っています。
『お母さん大好き党』とか、ゆーびーむ☆さんのプロポーズ企画(『逆1回目のプロポーズ』)ではADさんや観覧のお客さんが泣いたりもしていましたから。あと松本薫さんや登坂絵莉さんの賞金総取り企画も感情移入できた企画だったと思いますね。配信もあるからより若者向けにつくるべきだという意見もあるんですけど、そこはブレずにやっていきたいと思います」
当初の予定通り、放送時間は4月から1時間短縮され2時間になった。編集やVTRチェックも少なくなり「口内炎が減った」と、まだ残っている口内炎をかばいながら鈴木は笑う。最近では反省会も5分程度だという。「なにかをミスしてもその人が一番わかってるし、その場で言うので、注意は1回まで」と。
「始まったばかりなのでまだまだ認知されていない部分もいっぱいあると思いますので、試行錯誤しているんですけど、3月までは数字はまったく気にせずにやってきました。本当にスタッフも少数でやっているんで、3時間でひいひい言ってたんですけど、もうみんな勝手もわかってきて雛形もできてきたし、2時間にもなったので、1個1個のクオリティをあげていきたいと思います」
(了。前編から読む/文中一部敬称略)
【プロフィール】鈴木善貴(すずき・よしたか)/『ぽかぽか』総合演出。2003年にフジテレビジョン入社後、『トリビアの泉』、『お台場明石城』、『キャンパスナイトフジ』、『アウト×デラックス』などを担当。
◆取材・文 てれびのスキマ/1978年生まれ。ライター。戸部田誠の名義での著書に『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『タモリ学』(イーストプレス)、『芸能界誕生』(新潮新書)、『史上最大の木曜日 クイズっ子たちの青春記1980-1989』(双葉社)など。
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