クリントン元大統領の「衝撃告白」...実は「プーチンの野望」を10年以上前から知っていた!

クリントン元大統領の「衝撃告白」...実は「プーチンの野望」を10年以上前から知っていた!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/05/26
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元大統領の衝撃の告白

米国のビル・クリントン元大統領が5月4日、ニューヨークでの講演で「ロシアによるウクライナ侵攻の可能性」を2011年にロシアのウラジーミル・プーチン大統領から直接、聞いていたことを明らかにした。米国は、なぜ戦争が起きる前にしっかり対応しなかったのか。いや、できなかったのか。

戦争開始から1年以上も経ったいまになって、こんな話が飛び出すとは、まったく驚きだ。クリントン氏はもちろん、歴代米政権がプーチン氏の野望をあまりにも過小評価していた証拠である。「リベラリズム(理想主義)の失敗」と言ってもいい。

クリントン氏はいったい、プーチン氏から何を聞いていたのか。

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ビル・クリントン元大統領[Photo by gettyimages]

5月5日付の英「ガーディアン」によれば、クリントン氏は2011年にスイス・ダボスで開かれた世界経済フォーラムでプーチン氏と会談した。プーチン氏はそこで、ウクライナとロシア、米国、英国が1994年に結んだ「ブダペスト覚書」の話を持ち出した。

ブダペスト覚書とは、ウクライナが核を放棄する代わりに、米英ロの3カ国がウクライナの主権と領土の安全を保障した協定である。ただし、違反した場合にどうするか、については「3カ国が協議する」としか、定めていなかった。

クリントン氏は、こう語った。

〈プーチンはクリミア侵攻の3年前、「自分はブダペスト覚書に合意していない」と言った。それは、私とボリス・エリツィンが結んだ合意だった。彼はこう言ったのだ。「彼があなたと英国のジョン・メージャー首相(当時)と合意したのは、承知している。だが、彼はこの覚書をロシア国会に通していない。我々にも、極端な民族主義者たちがいる。私は賛成も支持もしていない。私は、覚書に縛られることはない」〉

今回のロシアによる侵攻が、この覚書に違反したのは明白だ。続けてクリントン氏は、こう語った。

〈私はこの日以来、それ(侵攻)は時間の問題と分かっていた〉

以上は、米「フォーチュン」など他のメディアも報じた。英「フィナンシャル・タイムズ」は、ずばり「クリントン氏は『(侵攻は)時間の問題』とみていた」という見出しを掲げている。

プーチン氏は2014年にクリミアに侵攻した後、「ロシアはブダペスト覚書に縛られない」と公言した。だが、クリントン氏は、それより3年前の時点で、ロシアによるウクライナ侵攻の可能性を認識していたことになる。

いつクリミア侵攻を決めたのか?

では、プーチン氏がクリミア侵攻を決意したのは、いつだったのか。

先のガーディアンは、この点について、米シンクタンク、大西洋評議会のフェローで元米国務次官補(欧州・ユーラシア問題担当)、ダニエル・フリード氏の興味深い証言を紹介している。

それによれば、プーチン氏は2008年4月に開かれた北大西洋条約機構(NATO)首脳会議で「クリミア半島は1954年に旧ソ連からウクライナに移譲された。だが、法的な手続きは一切、なかった」と語った、という。

会議に出席していたフリード氏はプーチン発言を聞いて、思わず、隣りに座っていたポーランドの安全保障顧問と「いまの言葉を聞いたか」と顔を見合わせた。「その瞬間、私は『プーチンはウクライナに手をかけるつもりだ』と分かった。すぐコンドリーザ・ライス国務長官とスティーブン・ハドリー大統領補佐官(国家安全保障問題担当、いずれも当時)に連絡した」という。

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コンドリーザ・ライス元国務長官[Photo by gettyimages]

ロシアは実際、首脳会議から4カ月後の2008年8月にグルジアに侵攻した。グルジアはこの会議で、ウクライナとともに、将来のNATO加盟が約束されていた。プーチンは手始めにグルジアを攻めたのである。いま振り返れば、その時点で「ウクライナ侵攻も時間の問題だった」と言っていい。

グルジアとウクライナは「将来のNATO加盟」を約束されたが、肝心の「いつ加盟が実現するか」は未定だった。「いつかは加盟させるが、それがいつかは分からない」という話である。私は「この中途半端な決定こそが、プーチン氏に侵攻を決断させる大きな要因になった」とみて、戦争開始直後から月刊誌などで指摘してきた。

プーチン氏とすれば「いずれウクライナがNATOに加盟するなら、その前に奪ってしまえ」と考えただろう。加盟されてしまったら、侵攻したとき、米国を含めてNATOの全加盟国を相手に戦うはめになる。そうなる前に侵攻したほうが得策であるからだ。ウクライナはあたかも木になった果実のように、宙ぶらりんの状態で吊り下げられてしまったのである。

クリントン氏は今回の講演に先立つ1カ月前の4月5日にも、アイルランド紙「RTE」のインタビューで、ウクライナに核放棄を約束させた当時の自分を後悔していた。彼は、こう語った。

〈私は彼らに核を手放させた。それには、個人的に責任がある。もし、彼らがいまも核を持っていれば、誰もロシアがこんな曲芸をしでかす、とは思わないだろう。私は「プーチンが合意を支持していない」と知っていた。エリツィンはウクライナに核を放棄させたかったから「領土に介入しない」という合意を結んだのだ〉

〈だが、ウクライナの人々は核の放棄を恐れていた。なぜなら、それこそがロシアから身を守る唯一の方法と知っていたからだ。プーチンに都合が良くなったとき、彼は合意を破り、まずクリミアを奪った。恐ろしいことだ。ウクライナは非常に重要な国だ〉

ウクライナ側の立場

一連のクリントン発言を、どう受け止めるべきか。

一言で言えば、私は、まったくの「ご都合主義」だと思う。少なくとも2011年の時点で、米国と世界に警鐘を鳴らすべきだった。だが、そんな警告は発していない。

それどころか、元大統領は今回の侵攻が始まった後の2022年4月、米誌「アトランティック」に「私はロシアを別の道に誘導しようとした」と題する論文を寄稿し、自分が主導したNATO拡大をひたすら擁護していた。次のようだ。

〈私は、ロシアが共産主義に戻ることは心配していなかったが、民主主義を捨て、かつてのピョートル大帝やエカチェリーナ大帝のような帝国願望に戻るのを心配していた。私がNATO拡大を提案したとき、ジョージ・ケナンやニューヨーク・タイムズのトーマス・フリードマン、ロシアの専門家、マイケル・マンデルバウム氏らは「ひどい結果になる」と反論していた〉

〈私も新たな対立の可能性は理解していた。だが、それは、NATOのせいではなく、ロシアが民主主義を保てるかどうか、にかかっていた。スウェーデンのカール・ビルト元首相が2021年12月にツイートしたように「NATOが東に拡大したのではない。旧ソ連の衛星国と共和国が西に行きたかったのだ〉

〈プーチン氏が2度もウクライナに侵攻したのは、ウクライナがNATOに加盟しそうだったからではなく、ウクライナの民主化が彼の独裁権力を脅かしたからだ。そして、彼はウクライナの地下に眠る貴重な資源を支配したかったのだ〉

この論文で自己弁護に終始していたのに、いまになって「実は、プーチンが侵攻する可能性は、本人から聞いていたので知っていた」「ウクライナの核放棄は残念だ」などと言う。ウクライナの人々が、これを聞いたら「ふざけるな!」と怒るに違いない。

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広島サミットに合わせて来日したウクライナのゼレンスキー大統領[Photo by gettyimages]

それでも、米国の支援なしには戦えないので、大統領を含めてウクライナの人々はいま、表立って米国を責められない。実に、哀れな立場に置かれている。

ただ、ウクライナが米英ロの圧力に抗して、核を保有し続けられたか、と言えば、そうとも言えない。昨年9月2日公開コラムで紹介したように、米国の核問題専門家、マリアナ・ブジェリン氏は「当時のウクライナにはカネがなかった。国際社会で孤立するわけにもいかなかった」という苦しい事情を指摘している。

リベラリズムという「おとぎ話」

クリントン元大統領の弁明と後悔、さらに今回の衝撃的な暴露は、彼の「迷走ぶり」を見事なまでに物語っている。なぜ、これほど間違えたか、と言えば、アトランティックへの寄稿で暗に認めたように、ロシアの恐怖心と決意を甘く見すぎていたからだ。

彼は、NATOの拡大で中東欧諸国の期待に応える一方、ロシアにも民主化を勧め、加盟をちらつかせた。それが、逆に「プーチンの怒りと野望」に火を点けた。そんな相手の心情は、クリントン氏をはじめとする米国のリベラリストたちには、思いも及ばなかったのである。

クリントン氏はアトランティック論文で、自分の政権で国務長官を努めた故・マドレーヌ・オルブライト国務長官の役割を激賞している。オルブライト氏こそが「米国の国益と価値観が繁栄する世界の領域を拡大することが、我々の課題」と訴えたリベラリズムのチャンピオンだった。

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マドレーヌ・オルブライト元国務長官[Photo by gettyimages]

故・ケナン氏をはじめとする現実主義者たちからの批判は承知していても「自分で自分の期待と理想に背きたくなかった」。これがリベラリズムの核心である。リベラリズムは民主党だけでなく、その後の共和党政権にも共通している。それが「プーチンの警告」を、米国が真面目に受け止めなかった大きな理由である。

動機がいくら美しくても、その通りに現実は動かない。それは、広島サミットで「核兵器なき世界」を訴えた岸田文雄政権にも共通する。「星に願いを」は童話の世界の話なのだ。

5月23日に配信した「長谷川幸洋と高橋洋一のNEWSチャンネル」は、月刊誌「正論」編集長の田北真樹子さんをゲストにお招きし、高橋洋一さん、梅宮万紗子さんと4人で「広島サミット」について議論しました。

24日には、同じく「LGBT法案と衆院解散」について議論しました。

25日には、私の1人語りで「クリントン元大統領の衝撃暴露発言」について解説しました。

24日に配信したニコ生番組「長谷川幸洋tonight」は、筑波大学名誉教授の中村逸郎さんをゲストにお招きし「ウクライナ戦争の現状」について議論しました。いずれも、ぜひご覧ください。

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