『ビューティフルライフ』のキムタクに「それは流石にないんじゃ...」現役美容師が語る、ドラマに出てくる「美容室」への違和感

『ビューティフルライフ』のキムタクに「それは流石にないんじゃ...」現役美容師が語る、ドラマに出てくる「美容室」への違和感

  • 文春オンライン
  • 更新日:2023/03/19

先日、Netflixで『きのう何食べた?』を鑑賞しました。このほのぼのとしたホームドラマを観ながら、現役美容師として気になったことがありました。

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それは、都内の美容室に勤めるケンジ(内野聖陽)の「美容室のバックヤード」。店長と一緒にお昼ご飯を食べているシーンで、チラッと出てくる“同棲するシロさん(西島秀俊)とのやりとりをボヤくケンジと、聞いている店長”。

ドラマのワンシーンとして当たり前に映されるこの構図に、違和感を覚えました。同業の美容師としては、すごく不自然に見えるのです。リアルな美容室の現場には、このシチュエーションはありえません。

例えばどの業界でも、ドラマの題材になると「本当はそうじゃないんだよな」といった状況は、あると思います。

僕自身、映画やドラマが好きなので、これが物語の進行上、必要なシチュエーションであることは知っています。そこに過剰なリアリティは要らないことも理解しているのですが、やっぱり気になってしまう。

ですので、今回は、一般的なイメージとは違う「実際はこうだよ」という解説をしてみようかと思います。

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『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』で主演した木村拓哉 ©文藝春秋

(1)美容室のバックヤードが広すぎる

まず気になるのは、バックヤードが広すぎることです。そのシーンのバックヤードは、ガラス張りのような角部屋に、お洒落なソファがテーブルを挟んでいます。後ろには雑多に物が積まれていたり、ウィッグ(頭のマネキンのこと)が並んでいるところから「美容室の控え室」の雰囲気を演出しています。ですが、詰まるところ、都市部の美容室は、こんなバックヤードはありません。

都市部の一般的な美容室は、「美容室の空間(客間)」を多く取るために、敷地を出来るだけ「表」にします。理由は、テナントが狭い上に家賃が高額だからです。様々な接客業に共通するところですが、お金を生み出せる「表」のスペースを広くして、もう1人お客様が滞在できる椅子と鏡面を用意した方が、売上を多く上げることができます。「裏」にあたる“バックヤード”を広く取るほど、支払う家賃に対しての坪単価は下がってしまうのです。

(2)美容室のバックヤードにしては、お洒落すぎる

華やかでお洒落な雰囲気漂う美容室ですが、バックヤードをお洒落にしているお店は見たことがありません。

なぜなら、費用がかかるから。お洒落な壁、床、テーブルや椅子などを用意するには、当たり前に費用がかかります。お客様に見えないバックヤードをお洒落にする必要は無いため、安価で最低限に抑えます。

それに対して、ケンジの座るソファやテーブルはお洒落すぎるのです。デザインの凝ったソファがバックヤードに置かれることは、まずありません。あるのは事務的で簡素な椅子程度です。

そして通常、美容室のバックヤードは倉庫として兼用されます。ウィッグが並ぶ姿はイメージがつくと思いますが、美容師が扱う薬剤や器具はとても多く、効率よく整頓しようとすると、壁に沿って棚を設置することになります。壁一面を棚にすることも珍しくないので、必然的に「ギュウギュウ詰めの倉庫」の印象になります。

また、そもそもスペースが狭いので、テーブルすら無いこともままあります。美容師仲間から「洗濯機をテーブル代わりにしてお昼を食べていた」と聞いたこともあるほど、バックヤードは簡素で狭いのです。

(3)美容師は、同僚と一緒にお昼は食べない

美容師は基本的に、同僚と一緒にお昼休みを取ることがありません。理由は、営業中だから。美容室では、病院の「午前の部」「午後の部」のように、お昼休みが割り振られていないので、スタッフの休憩は「代わり番こ」です。そのため美容室は少人数であればあるほど、一緒にお昼を食べることはしないのです。

そして全国の多くの美容室では、「お昼休みは1時間」という概念がありません。一般的な会社員美容師は、1日1回の休憩が20~30分と決まっていることが多く、そのため美容師は職業病のように“早食い”になる人が多いです。

『ビューティフルライフ』のツッコミどころは?

美容師を題材にしたドラマといえば、『Beautiful Life 〜ふたりでいた日々〜』(以下、『ビューティフルライフ』)。放送当時、僕は小学校高学年でしたが、今になってドラマを見返しても、数々の名シーンを鮮明に記憶していました。

ですが、この『ビューティフルライフ』にも、業界人が引っかかるシーンがいくつか見受けられました。大好きなドラマなので茶々を入れるようで申し訳ないのですが、お付き合いください。

まず、“柊二(木村拓哉)がお昼休み中に杏子(常盤貴子)の勤める図書館に、バイクでお邪魔する”というシチュエーション。これは前述の通り、お昼休みが20分~30分と短い美容師には、到底無理です。

美容業界に限らず、他の業界でも“お昼休み中にバイクで”はかなり難儀な気がします。ですが、杏子が勤めるのは図書館で、仕事帰りに行っても閉館していて間に合わないから、仕方がないのです。

また、“深夜の美容室で、柊二がハサミを研ぎながら同僚と会話をする”シーン。

美容師は、ハサミを自分で研ぐことはありません。ハサミは二枚の刃が重なった「点」で切れるため、「線」で切る料理包丁を研ぐよりも技術が必要になります。そのため、ハサミの販売会社や研師さんに依頼することが普通で、自分で研ぐ美容師を私は見たことがありません。

そして特に気になったのは、“柊二が撮影モデルをスタイリングしている途中に、コーム(櫛)を口に咥える”シーン。

「手を空けるために物を口に咥える」行為は、柊二の代名詞と呼べる仕草です。グローブやサングラスなどを咥える姿はワイルドでカッコいいのですが、美容師としては、お客様やモデルさんの髪に触れる物を咥えることはまずありません。

ドラマが面白ければ、問題無し

今回のお話は、揚げ足取りがしたい訳ではないので、修正してほしいとも思っていません。「美容業界は、傍目にはそうやって見えているんだな」といった印象です。

あまり偏見を持たせる描写があると困ってしまいますが、そのドラマが面白ければ、それでいいのです。

(操作イトウ)

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