
マカロニえんぴつ×ユニコーン(写真=酒井ダイスケ)
1日目はワンマン、2日目ゲストありの2デイズで、横浜・札幌・名古屋・福岡・大阪のZeppを回った、マカロニえんぴつのツアー『マカロックツアーvol.15 ~あやかりたい! 煌めきビューチフルセッション編~』。横浜はVaundy、札幌はくるり、名古屋はサンボマスター、福岡はウルフルズ、大阪はMy Hair is Badを迎えたこのツアーが、5月18日・19日の東京公演=Zepp DiverCity(TOKYO)で、ファイナルを迎えた。
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このツアーのトリを飾ったゲストは、タイトルの「あやかりたい」の元ネタでもあるユニコーン(「あやかりたい’65」。1993年の解散前ラストアルバム『SPRINGMAN』に収録)。マカロニえんぴつ・はっとりに、もっとも大きな影響を与えた存在であり、そもそもこのバンドの3rdアルバム『服部』(1989年)から自らを「はっとり」と名付けたことは、よく知られている。
2022年5月8日、大阪の野外フェス『OTODAMA’22』の大トリを務めたユニコーンのステージに、はっとりが飛び入りして「服部」を歌ったのが、最初の両者の共演。その後も、6月19日ぴあアリーナMMの『LOVE MUSIC FESTIVAL 2022』等でも同じステージに立ったが、バンドごと2マンでぶつかるのは、今回が初である。
なお、アルバムのレコーディングやそのツアーなどの、前もって決めた時期にメンバーとスタッフが集まる形で活動しているユニコーンが、そういうタイミングではないのに、こうして一回きりのライブに出演することは、極めてめずらしい。
では、以下、両者が共演した日である2日目=5月19日のレポをお届けする。
当然ながら、先攻はユニコーン。5人が登場し、12弦のSGとリッケンバッカーを、それぞれ構えた奥田民生(以下OT)とABEDONが、息を合わせて演奏を始めると、フロアがワッと湧く。解散前ラストシングル「すばらしい日々」でのスタートだ。
ギターアンプの横に設置されたハト時計の音で始まる「OH! MY RADIO」で、OTとABEDONのツインボーカルを聴かせたあと、OTがメンバー紹介。手島いさむ(テッシー)を「手島優」、EBI(堀内一史)を「堀内孝雄」、川西幸一を「西川きよし師匠」と紹介したが、最後のABEDONは「ええと、なんだっけ、ポール・ウェラーです」。ヘアスタイルを変えた彼の前髪が、The Jam時代のポール・ウェラーのように短かったので、そう言った、と思われる。
「今日わりと、お客さんたくさんですね。わりと」という言葉からOTが〈わりと~〉と歌い始め、間奏でABEDONが鍵盤ハーモニカを吹いた「エコー」、そのABEDONがリードボーカルとピアノで曲をひっぱる「青十紅」と、しっとり方向の2曲を経て、EBIがセンターマイクの前に立つ。
「昨日、10代の若者と話をする機会がありました。『おじさんはね、明日マカえんとライブするんだよ』って言ったら、『すごい!』って言われました。マカえん最高!」。そして、自身がボーカルの「西の外れの物語」、OTが歌う「スペースカーボーイズ」と、アルバム『ツイス島&シャウ島』(2021年)の曲が続く。
マラソン用の厚底スニーカーを買ったばかりだそうで、OT曰く「今、走りたくてしょうがない」ABEDONが、跳ねるようにステージ中央に移動し、「Boys&Girls」でリードボーカルをとる。続く「チラーRhythm」はギターを下ろしたOTが、おなじみの振付ありで歌った。
「すばらしい日々」はまだわかるが、「Boys&Girls」や「チラーRhythm」も、オーディエンスは好反応。マカロニえんぴつファン、予習をしてきたのか、知らない曲でもその場で楽しむ術を知っているのか。たぶん両方。次の「ヒゲとボイン」「WAO!」でも、フロアはそんな、素敵に高い温度が続く。
そして、あのスネア四分打ちのイントロが始まる中、OTが「マカロニえんぴつのはっとりくんが登場してから、この曲はもうあの人にあげました。なので、僕たちがやる時はカバー。今日はカバーに本物を迎えてお送りしたいと思います」と、アフロのカツラを装着したはっとりを呼び込む。
「もうその頭じゃねえわ!」というOTのツッコミを浴びながら、はっとり、「服部」曲頭のシャウトをキメ、それ以降も曲が完全に身体に入っている、見事な歌いっぷり。片やOT、1年前にこの曲で共演した時は、はっとりに8割をまかせて後半まで歌わなかったが、今日は2コーラス目のAメロから歌に参加、ツインボーカルで、この曲を聴かせた。歌い終えたはっとり、「本物でした! 偽物ですけど」と言って走り去る。さらに、再始動以降、本編ラストやアンコールの定番と化している「HELLO」をプレイし、ユニコーンの時間が終わった。
後攻マカロニえんぴつは、おなじみのSE(The Beatlesの「Hey Bulldog」)が、サイレン&ギターのハウリング音に変わり、ギブソン・エクスプローラーを提げたはっとりが右腕を高く挙げて叫び、「PRAY.」でライブがスタート。この曲でまずあっためる、という必要もないくらい、最初から沸点の高いオーディエンスに、曲終わりで「はいよろしく!」と挨拶したはっとり、次の「レモンパイ」では、1コーラス終わりで「いいねえ!」とフロアを称賛する。
「眺めがいいね」を歌い終えての最初のMCでは、「ライブのキャリアは、あなたの方が上ですからね。バンドブームの時にもっとはしゃいでた自分がいるでしょう? 教えてやってくださいよ、今の若い子に!」と、ユニコーンのファンたちをあおる。
そして「みなさんお国のため、家族のため、はたまた自分のため、日々働いている、そんな働くすべての人にねぎらいの歌を!」と「働く女」へ。言うまでもなく、ユニコーンの「働く男」をもじって生まれた曲だが、長谷川大喜のピアノが軸になった、ファンキーでアダルトな曲調で、つまり「働く男」とはまったく違う。〈出勤!〉と〈直帰!〉では、はっとりとオーディエンスの掛け合いが響いた。
次の「MUSIC」でも、後半のブレイク(ボーカルとドラムだけになる)で、はっとりが〈朝メシ!〉と歌うと、オーディエンスが〈抜くのはダメ!〉と続く。
シックで美しいメロディにシリアスで重いリリックが乗る「TIME.」をじっくりと聴かせ、最初にこのバンドの起爆剤になった「恋人ごっこ」でオーディエンスを酔わせてから、はっとり、メンバーを紹介。
そして「僕がこうやってステージに立っているのは、彼らのおかげなのでございます」とユニコーンへのリスペクトを表し、「(一緒にライブをやれて)僕は今日死んでもいい、死んでもいい、と思ったんだけど、まだ死ねない、ということで」と、この日のセトリ中でもっとも新しい「リンジュー・ラヴ」へ(そう言えば、もっと新しい、まさに今テレビドラマ『波よ聞いてくれ』でオンエア中の「愛の波」は、この日はやらなかった)。続く「幸せやそれに似たもの」では、はっとりがギターソロを担う。
そして。ユニコーンの最初期の代表曲であり、『服部』リリース以降、再始動後二度目にあたる2011年のツアーまで封印されていた、「Maybe Blue」のイントロが鳴り響く。若き日のOTのようにハンドマイクになったはっとり、イントロ→サビ→エンディングの、この曲のショートバージョンを熱唱し、ユニコーンファンを狂喜させた。
そのままの勢いでの「洗濯機と君とラヂオ」で、今度はマカロニえんぴつファンが爆発。その熱狂っぷりにはっとり、「待ってたかい?」と問う。超高速&超ラウドな「ワンドリンク別」では、はっとりの代わりに〈ワンドリンク別!〉と叫ぶオーディエンスに負けじと、バンドの音も激しく荒々しくなる。
カオスでサイケなイントロと、いきなりスイートになるAメロ以降のギャップが何度聴いても素敵な「星が泳ぐ」では、フロア上空のミラーボールが回った。
「バカみたいだと思ったことから順番に、嘘みたいだと感じたことから順番に、信じてみてください。それがいちばん、あなたの憧れをかなえる道だからです」という言葉で始まり、「あなたが信じた、マカロニえんぴつという音楽でした。また会おうね」で終わったMCからの曲は「ヤングアダルト」。普段からラスト等の重要な局面で披露されることが多い、マカロニえんぴつ屈指のこのメッセージソングで、本編が締められた。
アンコールでは、まず、各配信サイトにおける、マカロニえんぴつの不動のトップソング「なんでもないよ、」で、オーディエンスを感動の奈落に突き落とす。後半の「ラララ」のパートでは、バンドサウンドに拮抗するほどの大きなシンガロングが響いた。
そして「僕の願いで、無理言いまして、僕らの演奏で、ユニコーンの曲をやりたい。ユニコーンのみなさんと一緒に!」とはっとりが呼び込み、ユニコーンの5人が登場。OT、「なんか、ハンドマイクをひとり一個渡されたけど、どういうことなん?」。ABEDONは「危ないよ、これ。だいぶ危ないよ」と警戒、川西は「踊りもあるの?」。曲は、はっとりのリクエストだという「開店休業」。OT→ABEDON→川西→テッシー→川西→EBI→全員(はっとり含む)と、マイクリレー方式で歌い継ぎ、後奏のあとの最後のブロックは、OTが締める。マカロニえんぴつにとっても、ユニコーンにとっても、それぞれのファンにとっても、果てしなく濃密で刺激的だった3時間が終了した。
エンドSEの「Sea of Love」(The Honeydrippersのバージョン)が流れる中、ステージを去る前に、フロアをバックに全員で記念撮影。はっとり曰く、このツアーで記念撮影をしたのは今日だけ、とのことだった。
(文=兵庫慎司)
兵庫慎司