令和2年は新型コロナウイルスの影響で犯罪認知件数が大幅に減った一方、検挙数は増えた。捜査に割く時間が長くなり、一つ一つの事件にじっくり取り組めるためだ。例えば職業的に窃盗事件を起こしている容疑者がいれば、時間をかけて調べると、余罪の証拠もたくさん集めることができる。
特殊詐欺では犯人も時勢に敏感で、コロナをいろいろな口実に使い始めた。「(国民1人に10万円を配る)特別定額給付金の申請を代行する」と言って個人情報を聞き出したり、「3密を防ぐため銀行には来てもらわず、行員が自宅に伺う。感染リスクを下げるため、お金は黙って受け取る」と言って現金をだまし取ろうとしたり、新たな手口が出てきている。高齢者の方には特に、注意してもらいたい。
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春先にはDV(家庭内暴力)の件数が増えるのではといわれていたが、府内では特段相談は増えていない。ただ、警察沙汰になるレベル以下の事案が水面下で増えているのかもしれない。また、全国的にも言われていることだが、交通事故件数は減っているものの、死亡者が減っていないのが特徴だ。交通量の減少によりスピードが出しやすくなっていることが背景にあるとみられる。
苦労した点としては、容疑者の留置が挙げられる。1人1室にできればいいが、受け入れ能力の問題もあり、難しい。ただ、消毒は徹底して実施しているので衛生的だ。
警察業務は人との接触が避けがたく、テレワークなどオンライン化に向かない部分はあるが、オンラインでできることもある。運転免許証の更新や住所変更は現在、警察署に来てもらって行うが、政府ではオンライン化する案が検討されている。こうした業務の効率化が後押しされたのはコロナ禍ならではといえるだろう。
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私自身は7月に府警に着任し、昭和の終わり頃に京都大に通っていたとき以来の京都生活となる。あと半年早く京都へ戻っていたら街の様子は激変していただろうが、インバウンドもおらず思っていたほどの変化はないと感じている。
警察庁では、平成15年の鹿児島県議選をめぐる選挙違反冤(えん)罪(ざい)事件(志布志事件)などの捜査の検証を担当してきた。その経験から、客観的に冷めた目で見る人がいないと、組織は間違った方向に走ってしまうと感じた。
11年の桶川ストーカー殺人事件では、警察が被害者に告訴取り下げを要請し、捜査を怠っていた。1人の人生がかかっているのに、未処理告訴を増やしたくないと、事件を数字としてみてしまっていたからだ。
個々の事件には重みがあり、困っている人が実際にいることを決して忘れてはいけない。その思いを胸に、府警でも小さな事案一つ一つに正面から向き合っていきたい。
■糧とする言葉は「初心」
警察庁に入庁して間もない頃、当時の警視総監が訓示した「初心忘れるべからず」という言葉が、30年たった今も自分の中で生きている。最初に配属された警視庁・六本木交番では、「警察はこういう風に動いているのか」と思った覚えがある。仕事を始めて最初に感じた驚きや違和感は徐々に鈍ってくるが、今後もその感覚を忘れず、仕事に生かしていきたい。
(聞き手 南里咲)

インタビューに答える上野正史・京都府警本部長=京都市上京区の府警本部