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VHS、ロープ、片方だけのブーツ...20年にわたる取材で見つけた樹海に残された“落し物”の実情

VHS、ロープ、片方だけのブーツ...20年にわたる取材で見つけた樹海に残された“落し物”の実情

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/07/20

青木ヶ原樹海の探索で宗教施設を発見…「こうして会えたのは運命だね!!」修行を続ける男女に話を聞いてみたから続く

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山梨県富士河口湖町から鳴沢村にまたがって広がる青木ヶ原樹海。面積はおよそ30平方キロメートルと広大で、その全貌を正確に把握するのは困難だ。そんな当地を20年以上にわたって訪れ続けているルポライターの村田らむ氏が一冊の書籍を上梓した。

書籍のタイトルは『樹海考』(晶文社)。ここではその一部を抜粋し、同氏がこれまでに樹海で発見した多種多様な落し物を写真とともに紹介する。(全2回の2回目/前編を読む)

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青木ヶ原樹海の道路看板 写真=村田らむ

◆◆◆

落とし物

樹海内部には、さまざまなモノが落ちている。

僕が長年樹海を散策中に見つけたモノを中心に紹介してみよう。

僕が初めて樹海に行った時は、今よりも青木ヶ原樹海に対する保護意識が甘かった。まだ富士山にもゴミがたくさん捨てられていた時代で、いわんや樹海をや、である。

樹海の道路沿いの部分には、よく粗大ゴミが不法投棄されていた。たとえば大量のドラム缶や、大量の車のタイヤだ。おそらくトラックで持ち込んで、捨てて逃げていったのだろう。

2013年、富士山が富士山信仰の対象と芸術の源泉としてUNESCOの世界遺産リストに登録された。結果的に清掃活動が盛んになり、悪質な業者による粗大ゴミの投棄は見られなくなった。

また、昔は樹海に一歩足を踏み入れると、ナイロン製のロープが縦横無尽に張りめぐらされていたが、今はずいぶん減った。これは、昔に比べて情報ツールがいちじるしく進化したというのも原因の一つだろう。つまり、ロープで目印をつけるようなアナログ手段をとらなくても樹海探索ができるようになったのだ。

また、一般の散歩客が来る樹海の遊歩道には、昔は金属製の網でできたゴミ箱が置いてあった。倒されて中身が散らばった状態で何年も放置された場所がある。空き缶は平成生まれの人は知らないプルタブ式(開けると蓋が本体から外れる)で、懐かしい気持ちになった。

業者以外にも一般の人が捨てたであろうゴミもたくさんあった。たとえば大量のアダルトビデオ。それも熟女モノばかりだった。プレス作品の主流がDVDに切り替わり、いらなくなったVHSの作品を一気に捨てたのだろう。

財布やカバンがいくつも捨ててあるのを発見することもよくあった。これは今でもたまに見つける。どれも使用感があり、中からは現金が抜かれている。置き引きなどで盗んだ財布、カバンの中身を抜いて樹海に捨てたのか? と推測するが、そんな軽犯罪の証拠品の隠滅のためにわざわざ樹海まで来るか? という疑問は残る。

樹海を歩いていて、一番奇妙だった落とし物は...

樹海に来たキャンパーがいろいろな物を残していくケースも多い。岩を組んで窯を作り、火を焚いて料理をして、そのまま鍋や皿などを全部放置して帰った跡もあった。しかも大型のテントもそのまま残してあった。富士山の周辺には(樹海の中にも)キャンプ場がたくさんあるので、そちらでやって欲しいものだ。

そして、自殺者(自殺志願者)が残していったテントもある。樹海でしばらく過ごしたあとに、覚悟を決めて自殺をする場合もあるし、死ぬのはやめて帰っていく人もいる。

前者の場合は基本的に死体を回収に来た警察が撤去する。ただ、意外と作業が雑な場合も多く、いろいろ置き去りにされていってしまうことも多い。樹に結わえられたロープ、自殺解説本、ロープの結び方の本、地図などが落ちている。

初めて樹海に行った時、写真の顔部分が焼かれた免許証と、カセットテープを見つけた。家に帰ってそのテープを聞いてみると、クラシック曲が録音されていた。最期に、荘厳なクラシックを聞きながら死のうと思ったのだろうか?

時代の変化とともに音楽を聞く機材も変わっている。カセットテープは見なくなり、CDの束が見つかったり、MP3プレイヤーが見つかったりすることもあった。

携帯電話や携帯ゲーム機が落ちていたこともあった。ちなみにゲーム機には、野球ゲームのソフトが差してあった。

服が捨てられていることも多い。背広が見つかると、おそらく自殺者のものだろうなと思う。樹海に散策を目的に訪れる人は、背広は着てこないからだ。下着が散らばっていることも多い。樹海散策者に聞くと、下着が散らばっているそばには自殺死体があることが多いという。しばらく樹海の中で生活したあと死ぬのだろう。下着などは洗って干したりしたのかもしれない。

樹海を歩いていて、一番奇妙だった落とし物はブーツだ。

散策中にふと上を見上げると、かなり高い位置の樹の枝にブーツが片方だけ引っ掛けられていた。枝にヒモで括ってある。しばらく歩くと、もう片方も掛けられていた。

見た目はジョークっぽいので笑ってしまったが、よく考えると気味が悪い。

まず、なぜ樹にブーツを吊るしたのかが謎だ。中まで湿ってしまったので干すためかもしれないが、だったらなぜそのまま放置して持ち帰らなかったのか? 裸足で樹海をうろつくのは、もちろん不可能だ。自殺を決定づける痕跡は近くになかったが、自殺しなかったなら彼(彼女)は何を履いて帰ったのか? 考えれば考えるほど気持ちが悪い落とし物だった。

樹海には撮影で来ている人も多い

似たような落とし物には、バイクのヘルメットがある。内側のスポンジの部分はすっかり水を吸って苔むしていた。

これもなぜヘルメットを持って樹海の中に入ろうと思ったのか? そしてなぜヘルメットを捨てたのか? 捨てて帰ったとしたなら、彼(彼女)はノーヘルでバイクに乗って帰ったのだろうか? ちょっと怪談のような怖さのある落とし物なのだ。

樹海には撮影で来ている人も多い。

自然を写真に撮りにきた人が、カメラの機材を落としていく場合もある。コンパクトカメラやレンズが落ちている。僕自身も、カメラのレンズキャップを落としたことがある。樹海にはきっといくつものレンズキャップが落ちていることだろう。

音楽のプロモーションビデオや、アダルトビデオの撮影も時にはおこなわれていた。撮影で使われたのであろうマットレスが捨てられていたこともあった。このマットレスは10年近くそのまま放置され、年々ボロくなっていくのを、樹海に来るたび見続けた。

樹海に来たら、何も残さず、何も持たず、帰ろう。

乗り捨てられた建設会社の社用車

ここまでは比較的小さい落とし物を紹介したので、今回はもっと大きい落とし物を紹介する。どれくらいの規模の物かといえば、自動車の類だ。

樹海に入る際よく利用する富岳風穴の道の駅の駐車場には、ずっと停められたままの車があった。大阪ナンバーの軽自動車だ。気がついたのは樹海に雪が降ったあとだった。その1台だけ、雪が積もりっぱなしになっていたから変に思ったのだ。

自動車の内部を覗いてみると、工事現場で使うヘルメットなどが入っている。おそらく建設会社の社用車だったのだろう。社用車でここまで来て、樹海に入って自殺した可能性が高い。大阪から樹海までは5、6時間ほど。最後のドライブの間はどんなことを考えるものなのだろうか?

最初は他の車と紛れていたが、長い期間ずっと放置してあったため徐々に汚れていくし、タイヤの空気は抜けてぺしゃんこになっていく。僕の他にも、置き去りにされた自動車だと気づく人が増えて、写真を撮る人も増えていった。先日、樹海に行った時には、とうとう自動車がなくなっていた。どうやら誰かが通報して、どこかに移送されたらしい。

樹海で自動車を見かけたら、要注意

同じようなパターンでは、樹海内の宗教施設「乾徳道場」へと続く道を登る手前の道路に、スーパーカブが放置してあった。このバイクもずいぶん放置されて、雪に埋もれていた。実は、僕が所有するバイクと同型だったので、少しドキッとした。僕自身も、自分のスーパーカブで樹海に来たことがあったからだ。

ただ、こちらのカブは、ハンドル周りなどをかなり改造してあった。また、後部に大きな衣装ケースを2段にして積んでいた。バイクで旅する人がよく使う仕様だ。旅人が樹海に来て自殺することはないとは言えないが、ひょっとしたら樹海に散策に来て、何かトラブルがあって出てこられなくなったんじゃないか? と思ったらゾッとした。

このように、死ぬために樹海に自動車で来るケースは少なくないという。僕が最初に見つけたご遺体も、実は近くの道路に自動車を停めて歩いて入ってきたのだと思う、とは警察からあとで聞いたことだ。

とある映画監督に話をうかがった。樹海を舞台にした映画を撮る予定で、ロケハンに来たそうだ。駐車場に自動車を停めると、奥にすでに1台駐車されていた。古いヴァンだった。下を見ると、マフラーに管が取りつけられているのが見えた。

「これは、ひょっとして?」

と、運転席を覗いてみると、やはり排気ガスを引き込み、中で人が死んでいた。

人道的には、すぐに警察に連絡しなければいけないが、撮影スケジュールがかなり押していて、全員で事情聴取を受けていたら時間がなくなってしまう状況だったそうだ。仕方なく一番若手の助監督に通報させ、彼に「1人で見つけた」とウソをついてもらい事情聴取に応じたという。

樹海で自動車を見かけたら、要注意である。

【悩みを抱えた時の相談窓口】

「日本いのちの電話」
▽ナビダイヤル「0570-783-556」午前10時~午後10時
▽フリーダイヤル「0120-783-556」
毎日:午後4時~午後9時、毎月10日:午前8時~翌日午前8時
東京自殺防止センター(電話相談可能)https://www.befrienders-jpn.org

(村田 らむ)

村田 らむ

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