結婚後ふたりとも「世帯主」バービー×吉川トリコが語る結婚のこと・出産のこと

結婚後ふたりとも「世帯主」バービー×吉川トリコが語る結婚のこと・出産のこと

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2021/07/22
No image

日本では毎年約1万人もの女性が子宮頸がんに罹患し、この病気で年間2900人が命を落としている(2019年のがん統計予測/国立がん研究センター情報サービス)。これは1日に8人もの女性が亡くなっている計算だ。世界では子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)のワクチン接種が広がっているが、接種率1%未満の日本では、他人事とはいえない病気のひとつである。

もし、あなたががんにかかったらどうするか。そして余命1年を宣告されたらどうするか――そんなことを考えさせられる小説が、吉川トリコさんの『余命一年、男をかう』だ。主人公の片倉唯は40歳。趣味は節約とキルト製作で、マンションのローンも支払い終わっている自立した女性だ。ある時子宮頸がんが発覚し、余命宣告を受けるが、治療は受けないと決意する。そんな唯の前に、ある日ピンク色の頭をした超イケメンが現れ、借金を依頼してきた――。

仕事・恋愛・結婚・出産・病気・お金……あらゆる人生について考えさせられる小説を読んだバービーさんと、著者の吉川トリコさんが「小説現代」2021年7月号にて実施した対談を前後編でお届けする。

前編は「女性の身体」についてお二人の赤裸々トークが炸裂!

No image

『余命一年、男をかう』を読んでみて

バービー:20歳くらいまでは小説を読んでいたのですが、最近はあまり物語を読むことがなく。今回、久々に『余命一年、男をかう』を読み、もっと読みたいと思える一冊に出会えた感じでした。読まなきゃいけない本を読むことはあったのですが、自分が好きで読む、早く先が知りたいとか、その世界に入りたいと思えて、あらためて小説ってすごい力を持っているんだなと気づきました。

吉川:ありがとうございます。嬉しいです。

バービー:私は37歳なのですが、思っていることや考えていること、価値観が作品と近いから「そうそう、そうなのよ、そうなのよ!」と他の人に大きな声で言えない気持ちのところで共感しましたし、主人公のふたりに幸せになってほしい! と展開を追っていくのが楽しかったです。素敵な時間をありがとうございます。

No image

撮影/杉山和行

バービー:そして、コロナのことが物語に書かれているので、どれくらいのタイミングで書かれたのかなって思いました。すごいスピードで書かれたんだろうなと。読みながらも驚いたんです。もとから、構想はあったのですか?

吉川:こういう話を書きたいというアイデアは2年前くらいにはあったんです。この作品は、お金の問題もひとつ大きなテーマになっているから、それをこのタイミングで書くとしたら、コロナを絡ませないわけにいかないなって。書き上げたのは去年の12月くらいです。

バービー:大体の原案があって、そこにコロナのことを差し込むのに苦労されたのでしょうか?

吉川:そうですね……一番苦労したのは病院の描写のところでした。そのあたりはすごく調べました。正月の面会はどうなるのかなど。

No image

撮影/杉山和行

バービー:小説で書いたことが、過去になるって怖くないですか? 現時点では近い未来かもしれないですが、発行されるときにはあとになるので。「今、そんなんじゃないけれど」みたいな感じにならないかなって。

吉川:近い未来を書く時って、確かに怖いんですが、つい昨日までゲラ作業をやっていたので、ギリギリまで最終調整ができました。ラストで時間が3年飛ぶのでコロナがどうなってるかについてはあまり細かくは書かなかったんですよね。マスクだけは日常化している、くらいにとどめて。

バービー:よかった、私もひやひやしてて(笑)。
そして、性格は主人公の唯とは違うけど、なんでこんなに共感できるんだろうっていうのも思いました。私は、お金をちゃんと貯められないのですが、社会に対するうっぷんとかちょっと斜に構えた見方とか、酸いも甘いも嚙み分けた感じとかにぐっと共感しちゃって。あんなに几帳面な人なんだけど大雑把な私が共感したなあって。ラブストーリーだけど、きれいごとじゃない感じが、ちょうど私たちくらいが欲している感じで、リアルなのかなと。

吉川:ストーリーはオーソドックスなボーイミーツガールなんですよね。この手の作品は、ふたりがどういう人間でどういう関係を作っていくかでバリエーションが生まれていくもの。従来の作品を意識しつつ、私なりにいまの時代にマッチしたフレッシュなものを書きたいと思いました。

バービー:前半のほうだったでしょうか……女は家政婦、男はお金をもってくる存在、みたいなのを、私も覆してやりたいって思いましたね。ああいうのは実際の女性だと、どうなんだろう……やっぱり養われたい女性の方がまだ多いのかな、現実は。わからないですけど。

結婚すると「世帯主は男性」へのモヤモヤ

吉川:そうだ! 私、世帯主なんです。

バービー:もしや、ラジオですか?(編集部注:TBSラジオ毎週土曜日放送、バービーさんの「週末ノオト」2021年5月8日放送回で結婚したばかりのバービーさんの世帯主問題が話題に上がった)

吉川:そうなんです。それを聞いて、お伝えしたいと思って!(笑)

バービー:まさに世帯主を決める、その渦中で……。いま、彼がちょうど手続きに行っていると思うのですが。ラジオを聞いてくださっている方からの感想などで、世帯主の変更ってすごく簡単だから1年ごとにやってますっていう夫婦がいらっしゃって。私たちも、「僕でいいんだよね?」「いや私に決まったでしょ?」ってなって。吉川さんは、決めたきっかけとかはあるのですか?

No image

撮影/杉山和行

No image

撮影/杉山和行

吉川:実は私は住民票もばらばらで、一人世帯だから世帯主なんです。なのでラジオを聞いて、「世帯主って決めるんだ」って思って。

バービー:世帯主同士ってことですね。私は世帯合併も知らなくてびっくりしました。
自治体によって決まりがバラバラみたいですね。唯さんもそういうところをはっきりと提示してくれるからスカッとしたんでしょうね。

ホストっていう仕事もまさしくそうですよね。男性にして男性性を商品とする数少ない業種だという。あのあとホストクラブにすごく行きたくなったんですよ。

吉川:バービーさんはあまりホストクラブでいい思いをされたことがないと書かれていましたよね(TBSラジオ「イモトアヤコのすっぴんしゃん」2021年4月28日放送回)。

バービー:最初に行った時は、その場で馬より嫌だって言われたこともあります(笑)。ホストクラブってなにか成し遂げたいなど、シンプルな野望を持っている人がいたり、あからさまに面白トークをしてくれて、笑わせようとしてくれたりとか、あまり居心地がよくなかったという。

吉川:私は、執筆中に色々調べたのですが結局まだ行けてないんですよ。大人向けのしっとりしたところはないのかな、と探すのですが、見抜けなくて。

「子どもを産みたいと思えなかった」への反響

バービー:今回の作品は、婦人科系の病気も題材になっているじゃないですか。このあたりも働いている女性であれば、誰しも心あたりがあるというか。すごく健康って人は少ないだろうから、あの唯の焦りみたいなものはぐっと摑まれるところがありますよね。
私が唯みたいに癌を告知されたら、治療しちゃうかな……。

吉川:唯は子どももほしくなければ決まったパートナーもおらず、生きてることに倦んでいるようなところがあります。だから「治療しない」という選択を取るのですが、バービーさんは最近の連載(FRaUweb連載『本音の置き場所』)で、今が充実しているからもっと生きたくなったという風に書かれていましたよね。子どもが産みたくなったとも。だからバービーさんは治療するだろうなって思います。

バービー:お花畑みたいなのですが(笑)、唯と瀬名が近づくところが私と重なって見えてしまって。子どもは欲しくないと思っていたし、前なら楽に死ねるならそっちの方がいいやって感覚だったんですけど、今は、「そうそう、そうだよね!」って。

No image

撮影/杉山和行

読み始めた時からハッピーエンドで終わってほしいって思っていたのですが、ああ、ハッピーエンドでよかったって。自分にも重ねつつ。ただ、なかなかそういうふうに心変わりが起こらない人もいるかもしれませんけどね。

連載での反応がおもしろくて、すごく共感したという方の中にも、「そうか、私も自分の人生をみとめたくないから産みたいと思えなかったんだ」って意見もあれば、「産みたいって思えることは今後くるのかしら」って人もいたり。もうちょっと過激派で「あまっちょろいこと言ってんじゃない」っていう人もいたり。みなさんが置かれている状況もわかるなって。だからハッピーエンドを読んで、追体験したとき、その方たちはどう思うだろうかと気になります。

吉川:私も2年くらい前まで不妊治療していたんですけど、産みたいと強く思ったことがなく、子どもがいたらいたで楽しいだろうしどっちでもいいなというふわふわした気持ちで治療していたようなところがあります。なので、バービーさんが心の変化を仔細に書かれていて、そういうこともあるんだなという風に思いました。

バービーさんも書いていらしたけど、出産って何かを諦めることだっていう考え方が若いころにはずっとあって。ようやく心の準備ができたときには、身体の年齢は進んでしまっているという。

バービー:本当にそうですよね。準備が整う精神的な年齢ってあるじゃないですか。昔はもうちょっと若い時に大人だったかもしれないですが。そちらはどんどん上がっていくけど、女性の身体のリミットは変わらないからしんどいですよね。

吉川:なにかうまいことできればいいんですけど……。

バービー:連載の中にも書いたのですが、33歳のときに、卵子保存をしたんです。その時は子供を欲しいと思っていなかったんですけど、子宮頸がんの手前、中度異形成があるとわかって、意外にも落ち込んだんですね。「あ、産めなくなるのかも?」「私、子供が欲しかったのかな」って。のちのち本当に欲しくなるかもしれないと、かすかに気持ちが動いたのと、好奇心もあってやっちゃったんですけど。なかなかこういう選択することもぎょっとされるというか、独身でそういうことするの何? って。今ならだいぶ違いますよね。

まだまだもりあがるふたりの対談は、後編「バービー×吉川トリコ「真逆の人格のススメー自分を縛っているのは自分だったりもする」に続く。結婚についての話、バービーさんのパートナーの話、フェミニズムの話、性欲の話、「自分らしく生きるとは?」と盛りだくさんなことに……。

No image

吉川トリコ(よしかわ・とりこ)
1977年生まれ、名古屋市在住。2004年「ねむりひめ」で「女による女のためのR-18文学賞」第3回大賞および読者賞を受賞。同年、同作が入った短編集『しゃぼん』にてデビュー。『グッモーエビアン』『戦場のガールズライフ』はドラマ化もされた(『グッモーエビアン』はのちに映画化)。その他の著書に、『少女病』『ミドリのミ』『名古屋16話』『光の庭』『マリー・アントワネットの日記Rosa』『マリー・アントワネットの日記Bleu』『夢で逢えたら』など多数。近著「余命一年、男をかう」が好評発売中。

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加