
若手クリエイターの瑞々しい才能に惚れ惚れします。昨年、注目を集めたドラマ『silent』を演出した風間太樹さんと、国内外で高い評価を集める映画『マイスモールランド』を手掛けた川和田恵真さんが「第15回アジアテレビドラマカンファレンスin能登」のセッションに登壇。1991年生まれの2人の若き才能の頭の中を覗かせてもらいました。
2022年の話題作『silent』の撮影現場を語る
風間太樹監督は注目の若手クリエイターのお一人です。これまで映画『チア男子!!』(2019年)、連ドラ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』(2020年、テレビ東京)、そして連ドラ『silent』(2022年、フジテレビ)などの話題作を立て続けに手掛けています。
先月、2月7日から9日まで石川県七尾市で行われた国際業界イベント「第15回アジアテレビドラマカンファレンスin能登」の「若手クリエイター」セッションに登壇した風間監督は、謙虚な姿勢で「作品を作っている過程の中でただただ目の前の作品に向き合う。それ以上のことはないと思っています」と、落ち着いた静かな声で語る言葉が印象的でした。
川口春奈さんと目黒蓮さんが共演し、かつての恋人同士が“音のない世界”で出会い直すという美しいラブストーリーが描かれたドラマ『silent』についても語り、ドラマの世界観を表現するにあたって、風間監督は大事にしたものがあると言います。

「佐倉想という人物を描く上で、手話という言語をどうしたら丁寧に伝えることができるのか、どのような画作りができるのかといったことを考えていきました。映画と比べるとドラマの撮影現場は割とタイトなスケジュールで進められていきますが、できる限りフォーリーサウンド(効果音)収録も行いました。衣擦れなど日常生活で聞こえてくる雑音も効果的に使って、没入感を生み出したいと思ったからです」
こうした丁寧な作品づくりは、視聴者から選ばれる作品へと繋がっていきます。風間監督自身も、視聴者が求めるものを意識していることもわかりました。そのきっかけとなったのが、もう1つの代表作にあるドラマ『30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい』でした。
1991年生まれの監督たちの秘める想い
同作は「チェリまほ」と呼ばれる同名コミックを実写化したもので、人気BL作品です。赤楚衛二さん演じる冴えないサラリーマン安達清と、町田啓太さん演じるイケメン黒沢優一の2人が「心の声」を通じて関係を深めていく過程をコミカルかつ温かく描き、反響を呼びました。風間監督にとってこの作品から得られたものは大きかったようです。それはドラマ『silent』の演出に影響を与えるほど。

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「作品が発するメッセージを視聴者の皆さんが丁寧に受け取ってくださっていることを自覚できた作品が『チェリまほ』でした。それ以降、ドラマに対する考え方がある意味変わったんです。『チェリまほ』の場合はオンエアが始まる頃には既に撮影を終えていましたが、『silent』はオンエア中も撮影が続くことがわかっていたので、SNSを介して視聴者と呼応しながら作っていくことにもチャレンジしようと。プロデューサーと脚本家と一緒に視聴者の感想にも目を通しながら、作っていきました」
風間監督の新たな挑戦は、紬(川口春奈)が湊斗(鈴鹿央士)から別れを告げられた第5話に集約されていきます。
「第5話は紬と湊斗がお別れする回です。ただ、それだけ。見てくださる方それぞれの想いが作品に溶け合うようなことをチャレンジしたかったからです。番組を評価する基準として、どうしても視聴率を気にする傾向はありますが、視聴者の皆さんからの感想がこうした作りを後押ししてくれました」
ドラマ『silent』は風間監督の演出力が発揮された作品と言われることが納得できるエピソードでした。
「若手クリエイター」セッションでは風間監督と共に、映画『マイスモールランド』で監督デビューを果たした川和田恵真さんも登壇し、作品づくりの背景を語ってくれました。
川和田監督は風間さんと同じく1991年生まれ。2014年から是枝裕和監督率いる映像制作者集団『分福』に所属し、是枝監督作品の監督助手を務めていくなか、企画、脚本から手掛けた『マイスモールランド』で商業長編映画監督デビューを果たします。

『マイスモールランド』©︎2022「マイスモールランド」製作委員会
在日クルド人の女子高生サーリャの視点からクルド人難民の現実を見つめた同作は、クルド人第72回ベルリン国際映画祭でアムネスティ国際映画賞・スペシャルメンション(特別表彰)を受賞するなど国内外で高い評価を得ています。NHKでテレビドラマ版も作られ、2022年にBS1で放送もされました。
少女が1人で抱え込んだ悩みと、希望を持たせる初々しい恋心の描き方にリアリティがあり、社会問題を自分事として考えさせる力がある秀作です。

「自分自身、父親がイギリス人、母親が日本人ということもあり、小さい頃から自分の国ってどこだろうと疑問を持って育ってきました。国を持たない世界最大の民族であるクルド人難民の話を知って、だから余計に“国とは何だろう”って思いました。企画から完成まで5年ほどかかりましたが、後悔のない作品を作ることができたと思っています」などと語る川和田監督の言葉も真摯な姿勢を感じるものでした。
筆者の私がこのセッションのファシリテーターを務めさせてもらったこともあり、お二人と直接話をしながら何より溢れる才能を実感できました。今後の作品も期待するしかありません。

構成/山崎 恵

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長谷川 朋子