歌舞伎界のホープ、中村歌之助 “花形役者”としての目覚め、そして 新作『新選組』への挑戦

歌舞伎界のホープ、中村歌之助 “花形役者”としての目覚め、そして 新作『新選組』への挑戦

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  • 更新日:2022/08/06
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「八月納涼歌舞伎」で上演される、手塚治虫の漫画を原作とした新作歌舞伎『新選組』の主役に抜擢された中村歌之助さん。

3歳のときに初代中村宜生を名乗って初舞台に立ち、2016年10月、11月には歌舞伎座で2か月にわたり、父の八代目中村芝翫さん、長兄の四代目中村橋之助さん、次兄の三代目中村福之助さんとともに、中村歌之助の名跡を四代目として襲名した。

現在20歳の歌舞伎界のホープが、このチャンスをどのようにして掴んだのだろうか? まずはコロナ禍で公演形態が変化し、活躍の場が減っている近年の歩みについて伺った。

歌舞伎界の大先輩、坂東玉三郎さんの教え

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「僕は2020年3月に高校を卒業して、これから本格的に歌舞伎の世界に乗り出していくという時期にコロナ禍になってしまいました。出演する予定だった巡業公演やスーパー歌舞伎Ⅱ『ヤマトタケル』が中止になってしまい、歌舞伎の公演自体が再開するかどうかもわからない不安な日々。僕たち三兄弟はこれからどうしたらいいのか、どの道に進むべきなのか、進路を見失ってしまって、とても苦しんでいました。

そんな僕たちにとって坂東玉三郎のおじ様の存在はすごく大きかったんです。歌舞伎が再開するまでの間、発声に始まり、動きなどの歌舞伎の基礎となることを手取り足取り教えていただく機会がありました。おじ様は“今はまだわからないかもしれないけれど、経験を積んでいくうちに今やっていることが無駄じゃなかったと思える日がくるよ”とおっしゃってくださいました。

それまでの僕は、舞台に出ると怖くて緊張することもありましたが、舞台に立つための準備を教えていただいたので、落ち着いてできるようになってきたんです。おじ様の教えのおかげで、最近になって先輩方から“前よりも良くなったよ”というお言葉をいただく機会が増えたので、この2、3年の月日を無駄に過ごさなくてよかったと思っています」

“花形役者”としての目覚め

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2021年3月には京都南座で「三月花形歌舞伎」と題した公演に出演し、客席から拍手喝采を浴びた。公演名にある“花形”とは人気のある役者のこと。“花形役者”の一人として舞台に立ったことで、新たな境地へと導かれていく。

「僕たち兄弟にとって“花形”といえば、勘九郎の兄や七之助の兄など、少し年齢が上の先輩方が担っていらっしゃるという認識だったので、僕らがその役割を果たすのは、まだまだ先のことだと思っていました。ですから、このタイミングで花形公演に参加させていただけたのは、とても嬉しいことでした。僕がまだ幼かった頃に(十八世中村)勘三郎のおじから“早く戦力になってくれよ”と言われたことがあったのですが、その言葉が現実味を帯びてきたので、本腰を入れて演らなければならないと思いました。

まずはお客さまが僕たちを花形として見てくださることが第一ですから、初日の幕が開く前はすごく心配でした。舞台が始まると連日ほぼ満員のお客さまが劇場に来てくださって、お客さまのエネルギーをもらいつつ、僕たちもエネルギーをお届けするという熱い公演になりました。

ほんのわずかな期間の出来事でしたが、ご一緒した皆さんが”来年もやろうね!”ということを口にしていて、同世代で演るからこそ見える絆、団結力で一つの舞台を作ろうという思いがあった公演でした。今はひと月に学べる役の数が以前よりは少ないので、一つのものにエネルギーを注ぐことが大事な時期だと思っています」

従兄弟、中村勘九郎さんから託された思い

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花形役者としての経験を積んだ歌之助さんを待っていた次なるステップは、歌舞伎座の公演での“主役”だった。今回歌之助さんが出演するのは「八月納涼歌舞伎」第一部の序幕の新作歌舞伎『新選組』。手塚治虫の漫画「新選組」を歌之助に勧めたのは、歌之助さんの従兄弟にあたる中村勘九郎さんだった。

「2019年12月5日に勘三郎のおじの法事があったときに勘九郎の兄と食事をともにする機会があって、そのときに“こういう漫画があるんだけど、知ってる?”と聞かれたのが、手塚治虫先生の描かれた『新選組』との出会いでした。勘九郎の兄は“僕はこれをずっと歌舞伎で演りたかったんだけど、そう思っているうちに歳を重ねたから、今は僕がこの主人公を演じる年齢ではなくなってしまったんだよ。だからこれは、今の宜生(歌之助さんの本名)に相応しいと思うんだよ”って、言ってくれたんです。

話の流れからすると、兄の橋之助と福之助が演じると思っていたので僕の名前が挙がったのは意外でしたが、すごく嬉しかったですし、いつかできたらいいなと思っていました。当時はまだまだ先のことだと思っていたら、今年の納涼歌舞伎で実現することになりました。

勘三郎のおじと三津五郎のおじ様、そして父(中村芝翫)がそれまで休演月だった8月に上演することで“12か月歌舞伎を演ろう!”といって始まったのが納涼歌舞伎です。その序幕を務めさせていただくのはとても光栄ですね。

実際に原作の漫画を読んでみると、僕が演じる深草丘十郎は少し内気な性格だけど、仇討ちがしたいなど、内に秘めた強い思いがある人物。一方で兄の福之助が演じる鎌切大作は楽観的で、フレンドリーな明るい人物でした。僕自身は口数が少ないほうですが、歌舞伎がすごく大好きで続けていきたいという思いがあります。兄の福之助もすごく楽しげな人でありつつ、真面目な面もあります。勘九郎の兄が僕らを見てくれていて、それで提案してくれたのだと実感しました」

幼少時に目の当たりにした「新作歌舞伎の誕生」

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自分に合った役と出会った歌之助さんに与えられたのは「新作歌舞伎」という課題。ゼロから作品を創り上げていく作業に臨む心境についても伺った。

「これまでに新作に携わる経験は何度かありましたが、初めての新作歌舞伎は野田秀樹さんが演出した『野田版鼠小僧』でした。2009年の“歌舞伎座さよなら公演”のときなので、再演ではありましたが、当時の僕はまだ8歳。何もわかりませんでした。

稽古の初日、いろんな場面の稽古が進んでいくなかで、僕が勘三郎のおじが演じる鼠小僧を蹴るという場面がありました。僕からすると、芝居とはいえ、“憧れているおじを、蹴るなんてできないよ”という思いで軽く蹴っていたら、勘三郎のおじから“本気で蹴ってくれよ!”と叱られました。その時に初めて、子どもながらにお芝居というものがどういうものなのかを知ることができたのです。新作を創る意味や歌舞伎役者が新しいものを演るということを、勘三郎のおじの心を通して教えていただきました。

それからもコクーン歌舞伎などのお稽古や本番を裏で見せていただき、先輩方の芝居に取り組む姿勢を間近で感じてきたので、新作歌舞伎という新しいものをお届けすることの大切さも小さい頃から学ばせていただいています。今回の新作歌舞伎では、『新選組』を演る意味をお客さまにちゃんとお届けできたらと思います」

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八月納涼歌舞伎「新選組」

“漫画の神様”手塚治虫の作品が初めて歌舞伎に。幕末の京都を舞台に、深草丘十郎(歌之助)と謎を秘めた少年剣士・鎌切大作(福之助)の友情、新選組隊士たちや坂本龍馬との出会いを通じて成長する丘十郎の姿が生き生きと描き出される。8月5日(金)~30日(火)までの公演。
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/773

文=山下シオン
撮影=深野未季

山下シオン

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