
ドラマや映画に出ずっぱりだった2022年を、アーティストとして華やかに締めくくった(photo 田中聖太郎)
俳優として大活躍の一年となった2022年。松下洸平は年末のライブステージで、その歌声で観客を魅了した。23年は、シンガーとしてもさらなる飛躍が期待できそうだ。AERA 2023年1月30日号より紹介する。
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よこすか芸術劇場(神奈川県)で昨年11月30日にツアーがスタートしてから約1カ月。年内最終日となった同年12月27日、昭和女子大学人見記念講堂(東京都)は約2千人の観客で埋まっていた。会場が暗転すると、ステージ上の巨大なLEDビジョンに振り子のモチーフから始まるオープニング映像が映し出され、ツアーの開催地が日本地図の上で結ばれていった。
拍手とともに無数のペンライトが振られる中、バンドメンバーに続いて登場した松下洸平は、「リズム」「Color of love」の2曲を躍動しながら一気に歌い上げて、
「ただいま! 東京に帰ってきたぞー! ついにこの日が来てしまったよ。今日もこんなにたくさんの人が来てくれました!ありがとう!」
そう言って、何度も深々とお辞儀をした。その実直さに会場が大きな拍手で応える中、次に選んだのは昨年11月23日発売のファーストアルバムに収録されている「エンドレス」だった。
■誰かに届くといいな
約5年前、小さなスタジオで、ひとりでカメラを回しながら、ピアノを弾き語りし、自ら編集してYou Tubeにアップした曲だという。キーボードの平野晋介がポロポロとフレーズを弾き始める中、感慨深そうにこう言った。
「誰かに届くといいなと思っていたけれど、当時は、なかなか届かなかった。曲を作って、リリースして、ライブで歌う。アーティストとして当たり前でも、僕にとっては特別なことです。今日もこんなにもたくさんの人の前で歌うことができてうれしいです」
2019年の連続テレビ小説「スカーレット」(NHK)で人気に火がついてから3年余り。実力と人気を兼ね備えた俳優として、ドラマ、映画、CM、バラエティーまで、その姿を見ない日はない存在だ。だが、松下のデビューは08年、音楽アーティストとして。原点には音楽があり、シンガー・ソングライターとしての歩みも止めたことがなかったことが伝わってくる。
この日、紡いだのは全16曲。音楽学校で出会って以来の付き合いというギターのカンノケンタロウとのMCでは、
「ずっと路上ライブを二人でやってたんですけど、誰一人として足を止めることはなかった。ただの練習になってましたね(笑)。今は、受け止めてくれる人がいることにマジで感謝です!」(松下)
そう言ってから、「あなた」「One」の2曲をアコースティックアレンジで伸びやかに歌った。しっとりとした松下の声が心に染み入るのを感じながら、彼の歩んできた道と努力に想いを馳せた人も多かったかもしれない。
会場がゆったりとしたあたたかな空気で満たされる中、一転し、ダンスナンバーへ。「Way You Are」では心地よい爆音とともに金銀のテープが舞い、「KISS」「FLY&FLOW」で会場の盛り上がりは最高潮に。「みんなが見てる空」では、ピアノの弾き語りも披露し、シンガー・ソングライターとしての魅力を余すことなく発揮した。
■タイトルは決意表明
今回のライブのタイトル「POINT TO POINT」は「点と点をつなぐ」という意味だ。俳優とミュージシャン。どちらも松下に欠かせないものであり、さらなる高みを目指す──。タイトルは、そのまま決意表明でもあった。最後のMCで松下は、
「俳優のくせに、と言われることも……なくはないです。でもね、いいんですよ。僕は歌を歌うことが好きですし、全然構わないです。胸を張って俳優だと言えるようになるまでに10年かかりました。シンガーだと胸を張って言えるようになるまで、何年かかっても歌い続けることが大切だと思っています」
と語った。
予定されていたツアースケジュールの中には、延期となった公演もあり、悔しい思いをした日もあったことだろう。最終日まで走り抜け、ステージにマイクを置いて地声で叫んだ。
「ありがとうございました!」
またひとつ歩みを進めた松下。23年は、俳優業とともに音楽シーンをも席巻しそうな予感がした。(編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年1月30日号
古田真梨子