「5部リーグ」とは思えない元Jリーガーらの首位攻防戦【日本サッカーの成長を示す「下部リーグ」の充実ぶり】(1)

「5部リーグ」とは思えない元Jリーガーらの首位攻防戦【日本サッカーの成長を示す「下部リーグ」の充実ぶり】(1)

  • サッカー批評Web
  • 更新日:2023/09/20
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日本サッカーの成長が現れるのは、トップリーグや代表チームだけではない(写真はイメージです) 撮影:中地拓也

日本サッカーの成長ぶりは、世界も驚くほどだ。先日は男子代表がドイツとトルコに快勝し、女子代表はワールドカップ2度目の制覇へ再スタートを切っている。だが、日本サッカーの本当の充実ぶりを示す下部リーグを、サッカージャーナリスト・後藤健生がリポートする。

■懐かしい顔ぶれ

前半の21分に左サイドからドリブルで切れ込んで先制ゴールを決めたのは岡庭裕貴。そして、63分に戸島章からのパスを受けて2点目を決めたのが表原玄太だった。

いずれも、かつてJリーグでプレーしていた選手たちだった(岡庭はザスパ草津、戸島はジェフ千葉、表原は湘南ベルマーレなどで、それぞれ活躍)。

そして、ボランチとして攻撃を組み立てながら、時折、ドリブルで持ち上がってチャンスを作っていたのは工藤浩平……。ジェフユナイテッド市原・千葉で活躍し、イビチャ・オシム監督時代には日本代表に招集された経験も持つ。

その工藤はもう39歳になっているが、このレベルの戦いではやはりスーパーな能力を発揮できる。

僕が9月18日の祝日に味の素フィールド西が丘まで観戦に出かけたのは、関東サッカーリーグ1部後期第8節。東京23FC対栃木シティFCの一戦だった。

両クラブとも、将来はJリーグ入りを目指しているが、とくに資金力のある栃木では、上記のようにJリーグ経験のある選手が数多くプレーしているのだ。

■激しい点の取り合い

試合は63分に表原が決めたゴールで栃木が2点をリードし、このまま栃木の勝利に終わるのかと思われた。前半を見れば、試合は完全に栃木が支配していたからだ。

関東リーグ1部はすでにVONDS市原FCの優勝が決まっているが、栃木もこの東京23FC戦で勝利すれば2位が確定する。地力で勝る栃木の勝利かと思われた。

ところが、後半に入って、ホームの東京23が縦への推進力でゴール前までボールを持ちこんで反撃に移ろうとしていた。その後、両チームが点を取り合って、そして終了間際の89分には左サイドからパスをつないで神田志樹が入れたクロスに和田幸之佑が合わせて、東京23が土壇場で3対3の同点に追いついた。

しかし、栃木シティも諦めることなく攻撃をしかけた。90+3分にはカウンターから工藤が左サイドのスペースに出したボールを受けた藤原拓海がドリブルで持ち込んで決め、さらに90+5分には東京23の守備が乱れてオウンゴールで栃木の5点目が入り、試合は3対5で栃木が勝利した。

試合終盤に激しい点の取り合いとなったので、集まった594人の観客は大いに楽しめたはずだ。

■内容もある試合

「点の取り合い」という意味だけでなく、試合としても内容のある試合だった。

Jリーグを経験した選手たちは、それぞれが「さすが」というプレーを見せた(こうした下部リーグの試合を見ていると、元Jリーガーたちのレベルの高さを痛感させられる)。

だが、それだけではない。Jリーグ経験のない無名の選手たちも、誰もがテクニックを持ち、またきちんと戦術的に考えてプレーできるからだ。

もちろん、J1リーグのトップと比べれば、個人能力もチーム力も大きく違う。

パスの精度も違うし、なんといってもプレー強度の違いは大きい。J1のトッププレーヤーとアマチュアとしてプレーしている関東リーグの選手では、毎日のトレーニングの量も質も大きく違うのだから、差があるのは当然だ。

だから、関東リーグ1部のチームがJ1クラスと対戦したら、下位リーグの選手たちはほとんどプレーさせてもれえないだろう。しかし、同じレベルのチームとの試合であれば、彼らのテクニックも戦術眼も十分に発揮できるのだ。

■レベルの変化

J1リーグが日本のトップリーグであり、以下、J2リーグ、J3リーグと続き、その下に全国リーグである日本フットボールリーグ(JFL)があり、そこではアマチュアの企業チームと将来Jリーグ入りを目指すチームがしのぎを削り合っている(今年のJFLは、HondaFCが首位を走っているものの、2位以下は空前の大混戦となっている)。

そして、関東1部はそのJFLの下のリーグ。つまり、上から数えて5部相当のリーグということになる。

数年前までJ3リーグとJFLの実力差はほとんどなかったし、関東大学リーグや関西学生リーグのレベルも高く、「日本の本当の3部リーグはどのリーグなのか?」と疑問に思うこともあったが、今シーズンはJ3リーグにもJFLへの降格制度が導入されたせいか、J3リーグのレベルが上がったし、JFLも激しい切磋琢磨の中で間違いなくレベルアップしている(昨シーズンまでJFLで戦っていた奈良クラブとFC大阪は、昇格初年度のJ3リーグで大健闘。J2昇格の可能性も残している)。

逆に関東、関西の大学リーグのレベルが低下している。三笘薫や旗手玲央、上田綺世がいた頃の大学リーグとは大きな違いだ。

関東リーグは、序列通り、5部リーグと思っていい。

だが、そこで展開されていたのは、テクニックのある選手たちが、互いに戦術的狙いを持って戦った、見ごたえのある試合だったのだ。

僕は、海外でも下部リーグの試合をずいぶん見てきたが、下部リーグでは単なるボールの蹴り合い、強引な個人的な突破力に頼るようなサッカーが多かった。スペインなどでも、華麗なパス・サッカーを展開するのは1部リーグのクラブだけだ。

それで、僕は「日本の下部リーグのレベルは、かなり高いのではないか」とずっと思っているのだが、今や5部リーグでもこれだけの試合が行われるようになったことにビックリした。

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後藤健生

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