日本が悩むストライカー育成。ウルグアイから学ぶべきことは何か?

日本が悩むストライカー育成。ウルグアイから学ぶべきことは何か?

  • Sportiva
  • 更新日:2020/11/20

バルセロナからアトレティコ・マドリードに移籍したルイス・スアレスが、早速得点ランク上位を争っている。プレー先がなかなか決まらなかったエディンソン・カバーニも、マンチェスター・ユナイテッドで点を取り始めた。日本では、セレッソ大阪で活躍したW杯得点王、ディエゴ・フォルランの活躍が記憶に新しい。

彼らは皆、南米の小国ウルグアイのストライカーだ。人口約340万人の国からなぜ、世界的なストライカーが排出されるのか。その理由から日本サッカーが得られるヒントはないだろうか。ウルグアイサッカーに造詣が深く、選手や指導者へのインタビューを通して世界レベルで活躍する南米サッカーのストライカー事情を研究している、解説者の松原良香氏に話を聞いた。

◆【写真】異次元の美しさ! 海外サッカートップ選手の華麗なるパートナー17人

◆ ◆ ◆

No image

世界トップクラスで長く活躍する、ウルグアイ人ストライカーのカバーニ(写真左)とスアレス(同右)

<才能を確実に吸い上げる環境整備>

松原良香氏によれば、まず、ウルグアイサッカーを語るうえで欠かせない人物がいるという。

"マエストロ"の愛称で親しまれ、2006年からウルグアイ代表監督を務めるオスカル・タバレス氏だ。2度目の代表監督に就任してから14年(1度目は88年~90年)。とくに力を入れてきたのが育成で、代表チームの環境整備に尽力した。

「カラスコ国際空港のすぐそばに日本の"Jヴィレッジ"のようなナショナルトレーニングセンターをつくりました。フル代表も国内での試合がある時はそこに集まります。そこで毎週月、火、水曜に、それぞれU-15、17、20の各カテゴリーの代表選手が集まって練習を行なっています。

これができるのは、ウルグアイはリーグの16クラブのうち13クラブが首都のモンテビデオにあるからなんです。本来そこは小国のウィークポイントになりそうなところを、ストロングポイントに変えているんですね」

環境整備のほかにタバレス監督は、協会と共に育成強化プロジェクトを確立した。そのプロジェクトの最初の世代が、スアレスやカバーニたちなのだ。こんな逸話がある。

「07年にU-20ワールドカップがあって、同じタイミングでコパ・アメリカも開催されました。その時、19歳のスアレスをフル代表に連れていくこともできたんですが、タバレス監督は育成のサイクルを狂わせたくないと、スアレスをコパ・アメリカには帯同させず、ワールドユースに出場させました」

スアレスほどの才能であれば、どの国でもすぐにフル代表に帯同させようと考えるだろう。しかし、タバレス監督は育成プロジェクトを優先した。その育成プロジェクトが大きな結果として表われたのが10年の南アフリカW杯(ウルグアイはベスト4)。これをきっかけに育成はさらに進んだ。

「ウルグアイはU-20までに40のコンペティションで試合をします。それまでは協会にそんなお金はなく難しかったのが、南アフリカW杯やコパ・アメリカで結果を出したことで、さまざまな大会に招待されるようになりました。それでいろんな国と試合ができるようになったと言います。それは育成環境としては大きな点です」

その恩恵を受ける形で育て上げられたのが、現在ユベントスでプレーするロドリゴ・ベンタンクールやレアル・マドリードのフェデリコ・バルベルデ、アトレティコ・マドリードのルーカス・トレイラなどだ。現在のウルグアイ代表の中心を担うようになった世代である。

「ウルグアイで活躍できれば、ヨーロッパでのチャンスがある。ただ、ヨーロッパに移籍して終わりではなく、選手たちは絶対に勝ちたい、成功したい、という気持ちがとても強い。その想いの強さが顕著なのがストライカーですね。フォルランやスアレス、カバーニのようになりたい、と目標を持っています。これもウルグアイの長期プロジェクトによる結果でしょう」

ストライカーに限らず、ウルグアイは国を挙げて才能を確実に吸い上げ、育て上げる環境を整えてきた。ではその才能自体はどう生まれてくるのか。そのルーツがある。

「南米ではアルゼンチンなどでも有名ですが、ウルグアイの子どもたちも6歳頃からバビーフットボールを毎週末のようにやっています」

バビーフットボールとは、フットサルよりもさらに狭いコートでやる6人制のサッカーである。

「コンタクトプレーが多く、相手はスライディングしてボールを奪いにくるし、ボールがタッチラインを割ったらスローインなので空中戦もある。彼らはそのなかで相手を背負ってターンをしたり、シュートをしたりして、ゴールを狙います。ここでストライカーに必要な身のこなしや駆け引き、得点感覚を磨いているわけですね」

バビーフットボールは12歳まで行なわれ、そこからいい選手が各クラブのスカウトに引き抜かれていく。そしてその幼い頃から激しい競争がある。

「たとえ10歳くらいの子どもでも、点が取れなかったら交代。競争のなかでストライカーとしての技術を磨いていくんです。日本の場合はなんでも平等にプレーさせたがりますが、ウルグアイではあり得ない。こうした激しい競争のなかで、生き抜く術や、点を取る術を身につけています」

<周囲を理解することも大切>

そもそも、日本と南米では『ストライカー』の概念から異なるそうだ。

「日本の場合は前線のFWのポジションの選手=ストライカーと言われますが、南米の場合は『ゴレアドール』と言って、点を取る選手をストライカーと言うんです。チームでいちばん点を取った選手、得点王を獲得した選手、そうやって結果を残した選手がストライカーとして認められます。

ウルグアイでは『ストライカー=自分が主役』ですし、ゴールを決めチームを勝たせるのが仕事です。一方、前線の選手はゴールに絡み、チームの勝利に貢献するのが仕事。ストライカーと前線の選手は違うと、全員が理解しています」

そして、いいストライカーになるには強さやテクニックだけではなく、周りを理解するのも大事だと松原氏は言う。

「監督のサッカーの志向や、味方の特徴。例えば選手によってパスの出し方やタイミングは異なるので、ボールを受けるほうも走り出すタイミングが違いますよね。そういうアシストしてくれる味方のクセを理解するのも大事なんです。また、相手はどう攻撃して守備をするのか、マークしてくるDFの特徴や試合の流れを読み取ることも大切ですね。ストライカーは点を取るために何が必要かよく理解しています」

松原氏が、カバーニにインタビューした時のこと。彼はピッチに立ったらまずは想像すると語ったそうだ。

「彼はボールの流れを想像して、どこにボールが来るのかがわかると言うんですね。一度想像すると、それを頭の中で把握し、自動的に次に何が起こるのかを察知して体が動くのだそうです。一つのポジションから、どうやってゴールを奪うのに適したポジションに辿り着くのか。これを想像するのがストライカーには必要なのだと」

加えて、基本的な部分でコンディショニングも大変重要だという。

「チャンピオンズリーグなどに出場するようなビッグクラブにいると、タイトル獲得は使命ですが、週末にリーグを戦ったら、中2日や3日でウクライナやロシアに飛んで試合をする場合もあり、タイトなスケジュールになる。そのなかでしっかりとパフォーマンスを出すために、コンディショニングが重要だと言います。チームを勝たせるためにいちばん重要なポジションにいるのがストライカーなので、とくに気を使うんです」

<本当の世界基準をつくる大切さ>

ウルグアイの選手を語る時に、彼らにとって大事なメンタリティがある。それはウルグアイ代表の愛称の一つである「ロス・チャルーアス」に関係している。

「彼らはよく『俺たちにはチャルーアの力があるんだ』と言うんです。チャルーアとはウルグアイの先住民。昔、ポルトガル(ブラジル側)やスペイン(アルゼンチン側)の侵攻を受けて、チャルーアはそれに屈せずに戦い続けた歴史的な背景があります。

だから、ウルグアイ人は絶対に降参しない。俺たちにはチャルーアの血が流れ、その力があるんだと。ウルグアイのサッカーがなぜ強いのかを聞くと、みんなそういうことを話すんです。怯えているのは俺たちじゃない、ブラジルやアルゼンチンなんだと」

そうした彼らの強いメンタリティは、プレー面にも大きく影響しているのだ。

「スアレスやカバーニは負けん気が人一倍強くて、前線からしつこく相手を追い回しますよ。DFのディエゴ・ゴディン(カリアリ)やホセ・ヒメネス(アトレティコ・マドリード)も、どこまでも食らいついて1対1は強く、ヘディングでもバチンと跳ね返す力強さがありますよね。そうした歴史的なバックボーンから来る、戦うメンタリティがウルグアイの強さを支えているんです」

◆ルイス・スアレスの即興プレーが証明。一流はすぐわかり合える!>>

環境を整え、才能を確実に吸い上げることで、人口が少なくても多くのタレントを世界に送り出しているウルグアイ。日本がウルグアイのように優れたストライカーを育てるためには、なにをする必要があるのだろうか。

No image

日本サッカーのなかに本当の世界基準をつくるのが大切と、松原氏は言う photo by Sportiva

「日本は、実は日本のサッカーをあまり知らないと思います。海外にもっと目を向ければ、日本のサッカーを客観的に見られるし、なにが足りないかを知ることができる。ウルグアイは常にブラジルやアルゼンチンと比較したり、ビッグクラブで活躍する自国の代表選手もチェックして、タバレス監督を中心に協会、リーグ、サッカー界全体で世界におけるウルグアイの立ち位置を理解しています。自分たちに何が必要なのかを意識してきた繰り返しで、今があるわけです。

そのうえで、日本もウルグアイのように、①ゴールを奪うストライカーの育成とゴールを守るGKの育成強化、②組織論だけでなく個人を伸ばすことに重きを置く、③環境づくり、といった強化プロジェクトが必要だと思います」

近年では日本人選手も多くがヨーロッパへの移籍を果たしているが、それだけでは足りない。

「やはり選手だけがヨーロッパで勝負しているようではいけない。指導者やマネージメント側の人間も海外に出て、常日頃から本気の勝負をすることが重要です。彼らも欧州の5大リーグの場に出ていけるよう、まずは日本のS級指導者ライセンスをヨーロッパでも使えるようにするなど、環境を整えることが先決だと思います。

我々が思っている以上に世界のサッカーの流れは速いです。世界との比較で日本に何が足りないのか、本質的なところを理解したうえで、なにを整える必要があるのかを、聞いた情報だけではなく、直接の自分の肌で感じるのが大事だと思います」

いいストライカーを育てるために特別な魔法はない。必要なのは、本当の世界基準を日本のなかにつくることだ。

「彼らはいいストライカーを育てるために、特別なトレーニングをしているわけではない。例えばスアレスやカバーニは左右両足のシュートに加えて、ヘディングのシュートもうまい。それはヘディングシュートの練習もよくしているからです。ただ、彼らはヘディングの練習が重要だとは言いません。なぜかと言えば彼らにとっては当たり前だから。でも日本人に対して話す時、『ウルグアイの選手はよくヘディングの練習をする』となりますよね。この時点でもう考えている基準が違うわけです」

近道はない。世界との差を常に比較しつつ、日本のサッカーを知り、日本になにが足りないのかを知ることで、いいストライカーを生み出すための土壌を築く一歩が踏み出せる。小国ウルグアイが生き抜くためにそうしてきたように、日本も本当の意味での世界基準を意識する必要がある。

松原良香
まつばら・よしか/1974年8月19日生まれ。静岡県浜松市出身。現役時代は、ウルグアイのペニャロール、Jリーグのジュビロ磐田など、日本、ウルグアイ、クロアチア、スイスなどの12クラブでプレー。96年アトランタ五輪のU-23日本代表でも活躍した。引退後はサッカースクール・クラブの指導、経営の傍ら、サッカー解説者を務める。18年に筑波大学大学院人間総合科学研究所スポーツ健康システム・マネジメント専攻修士学位(体育学)を取得。現在は博士号取得に向け論文を執筆中。著書にストライカーを研究した「ストライカーを科学する」(岩波ジュニア新書)がある。

篠 幸彦●取材・文 text by Shino Yukihiko

この記事をお届けした
グノシーの最新ニュース情報を、

でも最新ニュース情報をお届けしています。

外部リンク

  • このエントリーをはてなブックマークに追加