阪神番記者のホンネ コロナ禍のキャンプ取材で「得たもの」と「失ったもの」

阪神番記者のホンネ コロナ禍のキャンプ取材で「得たもの」と「失ったもの」

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/02/22

良く言えば「健康的」悪く言えば「空虚」だろう。どうやらプロ野球記者になって12年目の“2月”はそんな1カ月になりそうだ。コロナ禍で迎えた21年のキャンプ。昨年の今頃は「中国で新しい風邪が流行っている」ぐらいに、どこか他人事だったウイルスが1年経って球界の“お正月”にも容赦なく影響を及ぼした。

数え切れないほどの選手と言葉を交わしていた日常も遠い昔

阪神タイガースのキャンプ地である沖縄・宜野座もご多分に漏れず……。例年、空席を見つけることが困難だったメイン球場のスタンドには当然ながら誰もいない。ブルペンに目を移してもそうだ。藤浪晋太郎が“ラスト1球”とコールして投じた豪球がミットに収まると巻き起こっていたギャラリーからの拍手も今年は1度もない。無観客を実感する場面は、閑散とした球場内外のいろんな所に転がっている。

僕たち記者もなかなか身動きが取れない。感染防止のルールが徹底され、ぶら下がりでの取材は禁止。選手が帰りのバスやタクシーに乗り込む動線に隣接する赤いコーンで囲まれた「ミックスゾーン」が唯一、許された会話の場になるが、ここも1社1人の制限付き。お目当ての選手が帰るタイミングを見計らって先輩、後輩とバトンタッチするのが流れ。今まで、1日に数え切れないほどの選手と言葉を交わしていた日常も遠い昔。挨拶することさえできず1日が終わってしまうことも珍しくなくなってしまった。そこで、僕はレンズを覗くことにした。

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記者が撮影した藤浪投手。レンズ越しには自然な表情が広がる ©チャリコ遠藤

大学時代に興味本位で購入して以来、ずっと活躍の場を与えられなかった一眼レフカメラをスーツケースにしのばせてきた。球場に足を運べないファンの人たちに向けてツイッター、インスタグラムで配信する写真をひたすら撮りまくっている。“あいさつ代わり”にシャッターを押すと、声は届かない距離でもカメラに気づいた選手がサービスショットをくれたりする。小さな喜びだ。一方で虎の“笑わない男”岩崎優には「写真載せたら絶縁。モザイクならいいです」と厳しい“岩崎ルール”を定められてしまったが……。コロナ禍で見つけた新しいコミュニケーションの手段になっている。

キャンプ取材の本番と言えば、夜だった。タイミングが合えば会食に行き、今取り組んでいることや今年に懸ける思い、時には悩みも聞いたり。貴重な時間を割いてもらった場で手にしたエピソードが数ヶ月後、シーズン中に活躍した際の1面原稿で日の目を見る。これが、スポーツ紙記者の醍醐味でもあった。思い返せば初めて食事に行った選手と打ち解けたのも、1ヶ月後に結婚することを聞いたのも沖縄だった。記者も選手と同じでこの1カ月が大事だったと、あらためて実感する。

「球場に観に来られないファンの方に少しでも楽しんでもらえたら」

チームの休日に合わせて担当記者はPCR検査を義務づけられており、外食も厳禁。毎日、夜8時には借りているマンションに戻り自炊をスタート。これが冒頭の「健康的」の意味だ。白菜、にんじん、キノコ……野菜を切って電気鍋に放り込み、ピンク色の豚肉をくぐらせれば立派なあぐー豚しゃぶしゃぶの完成。「ざまみのシークヮーサーぽんず」のオプションを付ければグレードアップも可能。毎日、スーパーに通うから、あぐー豚の相場にだけは詳しくなった。食後は韓国・梨泰院にある“タンバム”という店でマイケル・ジョーダン率いるシカゴ・ブルズの黄金期に酔いしれる。ネットフリックスの偉大さを噛みしめる夜はあっという間に過ぎていく。

苦しい取材環境を強いられる中でも、球団の協力もあって、1クールに1人のペースで選手への単独インタビューや評論家との対談が可能。こちらも感染防止の観点から写真撮影も含めて取材時間は15分と決められている。話が弾まなかったら……という恐怖と緊張感をいつも以上に味わうのは、今年だけにして欲しいと願う……。先日、ある選手をインタビューした際に「写真はパッと撮るから時間たっぷり使ってくれていいよ」との先輩カメラマンの心遣いも身に染みた。今年の2月は決して悪いことばかりではない。

制限や制約があるからこそ、輝くものもあると思っている。ツイッター、インスタグラムへ投稿する選手の写真に対してはいつも以上に反応が多いし、観戦できず枯渇している情報を求めて紙面を購入してくれる人も増えた気がする。キャンプ直前に満を持してインスタグラムのアカウントを開設した藤浪がこんなことを言っていた。

「こんな時なんで、球場に観に来られないファンの方に少しでも楽しんでもらえたらと思って」

近年苦しむ若き豪腕がファンと距離を縮めたのもコロナ禍が生んだ“副産物”だろう。幸いにも、記者に欠かせぬペンもノートもパソコンもコロナに脅かされることはない。そこにカメラも加えて……。限られた人しか入れない現場から情報発信、記事執筆をするのは、ある意味「使命」なのかもしれない。豚肉の色が変わるのを待ちながら、今、そんなことを考えている。

チャリコ遠藤(スポーツニッポン)

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(チャリコ遠藤)

チャリコ遠藤

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