
16日、尹錫悦(ユン・ソンヨル)大統領が韓国大統領としては12年ぶりに訪日し、岸田文雄首相との日韓首脳会談に臨んだ。
文在寅(ムン・ジェイン)政権の5年間で史上最悪と言われるまでに冷え込んでいた日韓関係がようやく動き出した「歴史的イベント」という肯定的な評価もあるが、韓国国内では野党や市民団体、そして一部の国民から「国を売り払った」という強い反発が起きている。この雰囲気を表すかのように、尹錫悦大統領訪日に関する韓国メディアの報道も相当批判的だ。

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左派系は「惨憺たる外交失敗」と総評
代表的な進歩系メディアである『ハンギョレ』と『京郷新聞』は、今回の訪日について多くの紙面を割いて尹政権への批判的な報道を続けた。
日韓首脳会談の翌日の17日、『ハンギョレ』の1面トップ記事のヘッドラインは<岸田氏、強制動員謝罪どころか‘慰安婦合意’履行も要求>だった。
同紙はまた、両首脳の共同記者会見の内容を伝えるストレート記事では、
「岸田首相は直接的な謝罪は示さず、むしろ2015年12月の韓日‘慰安婦合意’の履行を促したという」
「(韓国)大統領府の関係者は事実かどうかを問う記者団の質問に対し、”今日の議論テーマは未来志向的に韓日関係を発展させる案に大部分集中した”とし、即答を避けた」
という内容を前面に掲げ、会談の成果については裏面に配置した。
2面では<「日本の一号営業マン(尹氏)」、「宿題検査後オムライス」…との批判の堰><「第3者賠償拒否」の強制動員被害者、三菱の国内資産に対する取り立て訴訟>等の記事で市民団体の反応を報じる一方、<尹大統領に対する日本の‘手厚い歓待’を浮き彫り…。“夫婦だけの晩餐”は珍しい>という記事では、尹政権が韓国内の強い反発を意識して日本政府から歓待を受ける姿を浮き彫りにしていると批判するなど、計20本余りの関連記事でうっぷんをぶちまけた。
同紙では土曜日の18日にも首脳会談への非難が続いたが、社説を通じて、今回の対日外交を「惨憺たる外交失敗」と総評し、「(元徴用工判決解決案を)韓日関係改善の決断として包装するな」と警告した。
ハンギョレと性向が似ている『京郷新聞』もまた、尹大統領の対日外交を強く非難した。
日韓首脳会談を伝えるヘッドラインは<韓日首脳‘未来’へ…歴史はついに葬られた>(17日)、<貧しい経済成果…。‘こぶ(損害)’だけをつけて帰った外交>(18日)で、やはり批判的な論調が目立つ。社説ではさらに露骨な批判が続いた。
同紙は18日の社説でも、次のように尹大統領を責め立てた。
「尹大統領は日本の植民地支配当時、不法強制動員に免罪符を与えながらも誠意ある呼応を引き出すことができなかった。両国が成果として発表した措置も大きな意味を付与することは難しい」
「尹大統領の今回の訪日がもたらした最も痛ましい結果は、韓国内世論の分裂だ。その責任は(国民を)十分に説得できないまま『白旗投降』式で締めくくった尹大統領にある」
(京郷新聞18日社説<加害者に「免罪符」を与えた尹大統領、外交惨事にどう責任を負うつもりか>より)

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右派系も「心からの謝罪は必須条件だ」
一方、保守紙の論調はかなり前向きだが、日本側の反応に対しては批判的だった。
『朝鮮日報』は17日付の社説で、シャトル外交の再開、半導体素材の輸出規制の解除、GSOMIA復元などの会談成果を評価し、「今後、両国首脳外交が復活し、信頼が築ければ、今回解決できなかった懸案も解決できるだろう」という期待を伝えた。ただし、日本側の態度に対する遺憾の意も忘れなかった。
「徴用工問題と関連して日本側の進展した立場が出てこなかったのは残念な部分だ。岸田首相は共同記者会見で、『1998年10月に発表された韓日共同宣言を含め、歴史認識に関する歴代内閣の立場を全体的に継承する』と述べた。
韓国政府の徴用解決策発表直後の発言通りだ。1998年の共同宣言に盛り込まれた『反省と謝罪』の内容も言及せず、韓国の徴用被害者(元徴用工)に対する慰労の表明もなかった。尹大統領の決断に対する日本の呼応を求める韓国国民の期待に及ばなかった」
(朝鮮日報17日社説<韓大統領12年ぶりの訪日と日本の留保的態度>より)
『中央日報』の社説も似たような論調だった。今回の首脳会談の成果を評価し、そのために尹大統領が韓国内で数多くの政治的被害を受けたが、核心的な懸案である徴用判決問題に対する日本政府の前向きでない態度に遺憾の意を示した。
「やっと実現した今回の会談の成否は、尹大統領の決断に岸田首相が今後どれだけ呼応するかにかかっている。徴用被害者の恨みを晴らすため、心からの謝罪と徴用責任企業の基金参加などは必須条件だ。
尹大統領が先制的譲歩で背負った政治的負担を岸田首相が最大限分担してこそ、せっかく迎えた韓日関係正常化の機会を生かすことができる。日本政府と国民の大乗的決断を期待する」
(中央日報17日社説<未来に共に進む出発点となった韓日首脳会談>より)

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保守紙の中で最も強力に日本を批判したのは『東亜日報』だった。同紙は17日と18日の社説で、日本の態度を連日非難した。
「日本の態度は失望せざるをえない。日本は許される機会を再び逃した。歴史問題の葛藤はひとまずやめておいたというが、解決されたわけではない。縫合した傷は大きなしこりとして残るだろうし、歴史はいつでも日本の恥を追及するだろう。
今後、韓日が進むべき道は遠い。これまでの関係がそうだったように、将来も順調でないだろう」
(東亜日報17日社説<韓日がやっと振出しに戻ってきた、今後の道のりは遠い>より)
「韓日首脳会談で岸田首相が独島(竹島)問題を取り上げたという日本側の報道は見逃せない事案だ。韓日間の懸案をひとまず後にして、関係正常化のために苦労してやっと用意された席で妥協不可能な領土問題を持ち出すということ自体、容認できず、想像もできない。にもかかわらず日本のマスコミは堂々と、岸田首相が独島問題を直接取り上げたかように報じた。日本政府が意図的に誤報を誘導したり放置したと疑わざるを得ない。
韓国政府としては「低姿勢屈辱外交」という非難も甘受して日帝強制動員被害賠償金の第3者返済という譲歩案を出し、それに呼応して岸田総理が少なくとも「反省と謝罪」の意を表明することを期待した。
しかし、日本側が言うべきことは言わず、言ってもいないことは言ったかように歪曲する態度は見過ごせない。国内世論だけを見つめるこのような態度こそ、関係改善の真正性さえ疑わせる。日本にしっかり問い詰め、二度とこのようなことがないようにしなければならないだろう」
(東亜日報の18日社説<首脳会談直後、日本の‘独島メディアプレー’… これは何という無礼なのか>より)
総選挙で大きな負担になる可能性
尹錫悦韓国政府は野党と市民団体の激しい反発を押し切って、韓国裁判所が決定した元徴用工賠償金を韓国企業が代わりに支払うという「第3者返済案」を提示し、日本との首脳会談にこぎつけた。
政府はこれを「歴史的な決断」「大乗的決断」と広報しているが、目下のところ、尹政権寄りの保守系メディアでさえ日本の態度に対する不満を表明している。
日韓関係改善のための「意味ある一歩」が、来年の総選挙を控えた尹錫悦政権と与党「国民の力」に大きな負担となって戻ってくる可能性も否定できない。
