【舛添直言】首相も都知事も思い知れ、危機管理と思いつきは違う

【舛添直言】首相も都知事も思い知れ、危機管理と思いつきは違う

  • JBpress
  • 更新日:2021/05/01
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小池百合子東京都知事(写真:ZUMA Press/アフロ)

(舛添 要一:国際政治学者)

新型コロナウイルスの猛威が続いている。各地で連日「過去最多」の感染者数が報告され、医療崩壊が現実のものとなっている。しかし、都民に向かって「stay home」を連呼する小池百合子都知事のように、政府や自治体の無為無策が続いている。

外出自粛という要請は1年前から全く変わっておらず、この1年間積み重ねてきた知識や経験が全く活かされていない。「思いつき」としか考えられない禁酒令や午後8時以降の「灯火管制」などが加わったくらいで、この新政策もほとんど効果を持たないだろう。

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「看護師の五輪派遣要請」に医療側は激怒

緊急事態宣言の効果が出るのは、2週間後、つまり宣言が解除される5月11日以降になる。感染が十分に収まらないまま解除に踏み切れば、また感染が再拡大する。大阪の爆発的感染は、2回目の緊急事態宣言解除のタイミング・ミスを実証している。

5月11日に解除というスケジュールも、トーマス・バッハIOC会長が来日する5月17日より前にという魂胆からであり、それは国民が既に見抜いている。

4月28日には、IOC、IPC、東京都、国、組織委員会の5者によるオンライン会議が開かれたが、国民は冷ややかな目でこの会議を眺めたのではあるまいか。結局、観客数は6月に決めることになった。これまでも決定を延ばしに延ばしてきたが、それは全てがコロナ感染状況とワクチン接種の進行状態に左右されるからである。

無観客になれば900億円のチケット収入が吹き飛ぶ。その穴埋めは税金である。組織委は、日本看護協会に対して看護師500人の派遣を要請したが、コロナ治療で医療資源が逼迫している今、この非常識な要請には当の看護師をはじめ多くの人が批判の声を上げている。ただ、無観客となれば、動員する医師や看護師の数は減らすことはできる。

さらには、感染防止策をまとめたプレーブックの改訂版では、選手の検査体勢の強化などが決められたが、PCR検査もワクチン接種もままならない国民からは、アスリートのみを優先するのかという不満の声が聞こえてくる。

5月17日に来日するバッハ会長は、聖火リレーの行われている広島を訪問するという。感染拡大で公道での聖火リレーを取りやめる自治体が出ている中で、このパフォーマンスは顰蹙を買うであろう。それよりも、大阪や東京で医療が逼迫している現状をつぶさに見たほうがよい。

世論は「五輪は中止、または延期」が大半

感染急拡大に対して、3カ月後に迫った東京五輪を中止ないし延期せよという国民の比率が高まっている。4月9〜12日に行われた時事通信社の世論調査によると、中止が39.7%、開催が28.9%、再延期が25.7%であった。中止と再延期を合計すると65.4%である。国民世論に関するかぎり、東京五輪への盛り上がりはない。

コロナ対策が1年前から全く進歩していない状況で、今や頼みの綱はワクチン接種である。河野太郎ワクチン担当大臣はテレビ番組に出演しまくって、予定通り上手く行くような幻想を振りまいているが、順調に進んでいるとは思えない。

そもそも供給量が限られている。また、電話やインターネットで早い者勝ちに受付をして回線がパンクするなど、現場では様々な混乱が続いている。高齢者にスマホを操作しろというだけでも無理なのである。

「有事の宰相」ではなく「平時の宰相」を選んでしまった日本の悲劇

また、離島や僻地では村の全住民に既に接種が終わっている。ところが、人口密集地域の東京や大阪では遅れに遅れている。今はコロナと戦っている戦時中である。しかし、政府の行っていることは、平時の作業である。

敵が来襲して空爆を行うときには、大都市や工業地帯を狙う。過疎の村や離島などは攻撃対象にしない。対空ミサイルは人口密集地域や戦略拠点に置くべきである。ところが、民主主義の平等神話の下で、そのまともな戦略が展開されていない。だから、コロナ対策で中国のような専制国家に負けるのである。

菅義偉首相の対応を見ていると、彼は「平時の宰相」であって、「有事の宰相」としてはふさわしくないことが分かる。自分の意に沿わない官僚を更迭するのは得意だが、官僚を将棋の駒のように動かして一大戦略を完遂することができない。そもそも戦略を持っているかどうかさえ疑いたくなる。

厚労官僚を動かすことのできない加藤勝信厚労大臣(当時)にしびれを切らしたのか、安倍晋三前首相は西村康稔経済再生大臣を特措法の担当にした。菅首相は田村憲久厚労大臣に加えて河野太郎行革担当大臣をワクチン担当に任命した。だが、感染症対策の基本は、厚労大臣に権限を集中させることだ。感染症法体系の組み立てもそうなっている。3人もの大臣がコロナ対策に当たっている例など、他国ではあまり聞いたことがない。実際、大臣が3人いて対策が3倍進んでいるかというと、全く逆である。

危機管理の対極にある「思いつき」にすぐに飛びつく首相と都知事

菅首相も、今やワクチンのみが頼みの綱であることに気づいたようである。感染状況が悪化すると、内閣支持率も下がる。そして、ワクチン接種が進まないと、また下がる。

そこで、訪米したときに、ファイザーのCEOと面談して、迅速な供給追加を約束させるシーンをテレビで流すことによって支持率を上昇させようとしたのである。ところが、その会談という目論見は相手の拒否によって実現せず、具体的な供給スケジュールも出せないような状況である。

そこで思いついたのが、自衛隊を動員しての大規模ワクチン接種会場の設営と運営である。5月24日までに、東京で1万人規模の会場を設け、24時間体制で首都圏の人が接種できるようにするという。また、関西でも、大阪などで同様な会場を設置するらしい。

この方式にはプラスもあればマイナスもあるが、細かく検討した上で発表したものではなく、思いついたら(あるいは誰かの提案があったら)、すぐに打ち出すといった手法である。とにかく、なんであれ支持率回復につながるとあれば、躊躇せずに言い出す。

しかし、十分な検討もしていないので、これから考えられうる問題点を一つ一つ解決しながら準備を進めると、必ず困難な問題に突き当たり、結局会場の設営に遅れをとってしまう。

先の小池都知事の灯火管制と同じで、「思いつき」は危機管理とは全く違うことを理解すべきである。もっと言えば、思いつきは危機管理とは対極にあるものであり、問題の解決につながらないことが多い。

それは戦争の歴史を振り返ってみれば、すぐに分かることである。たとえば、第二次世界大戦の初戦において、破竹の勢いで周辺諸国を席巻したヒトラーのドイツ軍は綿密な侵攻作戦を立て、最新兵器の増産を図っていた。ところが、後から参戦したムッソリーニのイタリア軍は、軍備も整わないまま、思いつきによる攻撃が多かった。そして、後者は前者の足を引っ張ることになったのである。

この有様で感染力増した変異ウイルスに勝てるのか

世界に目を転じれば、コロナ対策の成功と失敗の明暗が分かれている。

成功例を挙げると、水際対策と「検査と隔離」を徹底して感染を減少、収束させているのは、中国、台湾、ベトナム、ニュージーランドなどである。

そして、迅速なワクチン接種で、感染収束に向かっているのが、イスラエル、イギリス、アメリカである。4月30日現在で、1回でも接種した人の割合は、イスラエルが62.38%、イギリスが50.22%、アメリカが42.67%、チリが42.03%、カナダが31.17% ドイツが25.74%、スペインが24.09%、イタリアが22.10%、フランスが21.43%、インドが8.88%、韓国が5.48%、そして日本は僅か1.80%である。まさに、韓国以下である。

失敗例の最たる国がインドである。ワクチン大国であり、日本以上に接種が進んでいるが、一日の感染者が38万人、死者が3000人超という惨状である。モディ首相のリーダーシップが欠如し、必要な対策がとられていない。また、公衆衛生インフラの未整備も大きな原因である。さらには、ヒンズー教の宗教儀式であるガンジス川での密集沐浴も一つの原因であろう。

そして、インド型の二重変異株が影響しているのではないかという意見もある。感染力が強く、ワクチンが効きにくいという。日本でも、すでに21例が確認されている。

インド型に限らず、イギリス型、南アフリカ型、ブラジル型など感染力の強い変異ウイルスが次々と誕生している。ウイルスも生き残るために、感染力を強化している。

パフォーマンスはもう十分

4月28日の福岡県のコロナ感染者は440人と過去最多となった。変異株が大きな原因である。変異株が陽性者に占める割合は、4月初めは1割だったのが、4月中旬には5割になった。感染者は4月14日に156人と2カ月半ぶりに150人を超えている。そして、19日からの1週間で変異株が8割となったのである。わずか2週間で3倍である。

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『東京終了―現職都知事に消された政策ぜんぶ書く』(舛添要一著、ワニブックスPLUS新書)

病床使用率もほぼ50%で、ステージ4に相当する。この福岡の例は、変異株の怖さをデータで示している。大阪が同じ状況であり、4月29日の東京の感染者が1027人と大阪の後を追っている。

しかし、変異株の検査も不十分であり、その対応をしないで、小池都知事は大阪の重症者を東京で受け入れるなどと絵空事を言っている。自分の家が炎上し始めているのに、大阪から患者を迎えるどころではないだろう。これもまた、彼女の「思いつき」に よるパフォーマンスである。

「思いつき」と危機管理の区別がつかないリーダーに率いられる国や自治体では、コロナによる犠牲者は増えるばかりである。

舛添 要一

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