「40代後半女性」が仕事を辞めようと思う瞬間

「40代後半女性」が仕事を辞めようと思う瞬間

  • 東洋経済オンライン
  • 更新日:2023/03/19
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40代後半で長年勤めた会社を退社することで見えてきた「生き方」(撮影:梅谷 秀司)

50歳の節目に、TBSを退社したフリーアナウンサーの堀井美香さん。その退社にいたるまでの心境をつづったエッセイ『一旦、退社。~50歳からの独立日記』が、同年代の女性の共感を呼び話題となっている。一方、「日経xwoman」元編集長の羽生祥子さんも、45歳で日経BPを辞め、著作家・メディアプロデューサーとして新たな一歩を踏み出した。

くしくも同じ年代、同じタイミングで長年勤めた会社を飛び出し、沖に出た“退社同期”の2人による対談の後編。話題は「退社論」を超え、40代後半の女性ならではの仕事との向き合い方や、人生終盤を迎えての「生き方」まで及んだ。

フリーになって一度「壊れた」

――独立してから、仕事を引き受ける際のポリシーや指針は持っていますか?

堀井:そういうのが最初はなくて。声かけてもらうのがありがたいから、やったことのない仕事でもとりあえず「はい、わかりました!」って(笑)。もう土日もいとわずに。

羽生:私もそうでした。忙しいから断るなんて100万年早いわ! 睡眠なんて後でとるから! って思っていましたから(笑)。1日に最大で4講演入れたこともあります。

堀井:1日4講演! すごいですね。

羽生:綾小路きみまろさんとか、若い頃の天童よしみさんとか、1日に何公演もしている人は軽く乗り越えているんだろうな、って想像しながら……。

堀井:きみまろさんをベンチマーク(笑)。

羽生:そう、今までとぜんぜん違う人をベンチマークして(笑)。でも結局、一度壊れちゃいました。

堀井:壊れるとどうなるんですか?

羽生:地元を歩いているときにママ友とすれ違ったらしいんだけど、気づかなくて。後からLINEで、「祥子さん、さっき目から水が出てたよ」って(笑)。

堀井:知らないうちに涙が……。

羽生:それを機に、あぁ、仕事を調整しなきゃ、って反省しました。

40代後半ならではの悩みと仕事との向き合い方

堀井:私の場合は、フリーになりたての忙しい時期がちょうど更年期と重なって、何もやる気が起きない。一度ソファに突っ伏しちゃうと動けなくなっちゃう。すべてのことが悲しくなってきて「私なんて……」みたいなモードになっちゃって。

羽生:起業と更年期のダブルは、すごく大変そう……。

堀井:でも、矛盾しているかもしれませんが、仕事があることで逆に救われたところがあるんです。朝8時に収録がある。ツラいけど、行かないと怒られるから、とりあえず頑張って家を出る。現場に行ってみると、仕事のスイッチが入って気分が上がったり、演者さんやスタッフと笑ったり。本当に仕事があってよかったです。

羽生:それって「50歳退社」のノウハウですよね。世の中の同年代の女性は「親」「子ども」「自分」の3枚のカードを手に持ちながら、どうやって“人生のジャングルジム”を乗り切っていこうか考えていますよね。それだけでも大変なのに、そこに体のホルモンバランスの変化と、仕事の波が一度に押し寄せてきたらどうしよう、って悩んでいる方は多いと思うんです。

――確かに、女性の40代後半は、キャリア、体調、家族といろいろと揺れ動く年代ですよね。それって「退社」という決断に影響するものですか?

羽生:美香さんは「50」って数字、意識していましたか?

堀井:私の場合は、単純にキリがよかったというだけで(笑)。

羽生:軽やかですね(笑)。

堀井:でも、仕事もなんとなくやり尽くして、子どもも巣立っていった、というタイミングではありましたね。

羽生:それで思い出したのですが、以前に「日経xwoman ARIA」という女性管理職向けのウェブメディアを創刊しました。「ARIA(アリア)」とは、音楽用語で「独唱」。オペラなどで歌手が舞台の真ん中に立って、スポットライトを浴びて独唱する、あのイメージです。

40代後半の年代って、私たちのようにこれまで会社のため、夫のため、子どものため、と「誰かのため」に頑張ってきた人が多い。でも「人生100年時代」と考えると、まだ人生の中間地点。だから、そろそろ「誰かのため」でなく「自分のため」に、舞台の中央に立って高らかに自分の歌を唄ってもいいんだよ――その思いを「アリア」というネーミングに込めたんです。

堀井:すごい! めちゃくちゃ共感。

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一時期は何もやる気が起こらなかったという堀井さん(撮影:梅谷 秀司)

40代後半は、人生時計の「11時半」

羽生:私も40代後半のドンピシャの当事者なので、自分にもそう言い聞かせているところはあります。

大学のキャリア講座で講師をしているのですが、学生に「人生時計」の話をしています。1日24時間を100年とすると、1時間は約4年。学生にこれからのキャリアを考えるきっかけづくりとして「自分の年齢を4で割ると、人生時計の自分の時刻がわかるよ」と話しています。

で、ふと私の「人生時計」、いま何時だろう? と思って計算してみたら……まだ11時半なんですよ! 驚くことに(笑)。

堀井:まだ午前中!

羽生:そろそろ15時のおやつも食べ終わって、家に帰ってのんびりしようかな、みたいな気分でいたのに。ちょっと神様、ここから長すぎます! って(笑)。

でも、ものは考えようで、午後の時間がまるまる残っているのなら、これまで経験のないことにいくらでも挑戦できる。四国にお遍路に行ってもいいし、パッと国際線のチケットをとって海外に行ってもいい。そういう行きたい方向に帆を向けるには、正午を迎えようという今の年代はちょうどいいタイミングなのかもしれません。

堀井:「人生時計」には諸説あって、あるラジオ番組に出演したタレントの方は、年齢を「3」で割っていました。50歳を3で割ると17時くらいだから、夕方のニュース観ながらそろそろ晩酌タイム(笑)。でも、祥子さんの「4で割る」説なら、午後からもうひと頑張りできるじゃん! ってポジティブに思えますよね。

――40代後半というのは、50代以降の生き方を考えるタイミングでもあるんですね。

堀井:そうですね。ただ、若い頃のように未来に向かって可能性を広げるというよりも、これまで培ってきた経験やスキル、人脈を使って、ゴールに向かってどうやってきれいに着地していくか。そのために今のこの時間をどう使っていくか。そんな「収束」のほうに入っていくイメージですね。

羽生:まさにそうですね。私はよく「人生の終盤戦を『編集』しよう」と言っています。50代から先の終盤戦は、持てるスキルや人脈、時間を活用して、仕事やキャリアを、もっというと人生そのものを、「編集」していくタイミングでもあると思うんです。

堀井:突然レールが途絶えて「たそがれ」てしまわないように、ですね。

「ねばならない」から解き放たれる

――人生の終盤戦を「編集」するために、40代までの貴重な“午前中”の準備期間をどのように過ごすのが望ましいですか?

羽生:20代、30代の頃は、仕事にしても家庭にしても「have to(ねばならない)」が大半を占めているので、その「have to」に邁進する時期だと思います。でも、40代後半に差しかかるとキャリアも身につき、子育てからも卒業する。そうなったら「have to」から離れて、「人生時計」の午後はやりたいことをやれる方向に全力疾走する。それが、望ましい心の準備なのかなと思います。

堀井:私も、これまでは会社から与えられた「have to」を精一杯やることの繰り返しでしたね。学校の小テストを毎日解いているような。でも、その小テストをコツコツ積み重ねていった結果が、キャリアやスキルとして身についていたって感じです。フタを開けてみたらジャジャジャジャーン! って(笑)。

羽生:小テスト、大事ですよね。

堀井:だから、若いうちは焦ってすぐに成果を求めたり、大きなことを企てようとせずに、目の前の小テストを一生懸命積み重ねていくイメージでいいのかなと。

――人生の「前半戦」で培ってきたキャリアやスキルを生かして、「終盤戦」は自分のために全力疾走しよう、と。

羽生:でも「自分のために」と言っておきながら、この歳になると不思議と「人のため、世の中のためにできることはないか?」って気持ちになりますよね。

堀井:そうなんですよ。「街をきれいにしよう」とか「子どもたちのために何かしてあげよう」という。あれ、何なんだろう?

羽生:近所に小さな稲荷神社があるんですけど、最近私、気がつくと自転車をキュッと停めて「一刻も早く戦争が終わりますように」などと手を合わせているんですよ。あと、地元の掲示板に「地域のビオトープのパンフレットの編集メンバー募集」のポスターを見かけて「楽しそう! 時給1000円くらいだけどこの町のみんなと編集してみたいな」とか。

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「自分のため」ではなく、「人のため」に生きようと思うようになってきたと語る羽生さん(撮影:梅谷 秀司)

50歳にもなると得手、不得手も明確になる

堀井:他人のために、自分の余っている力や時間を使いたい、みたいな気持ちになりますよね。50年も生きていると、これが得意でこれが苦手、というのが明確だから、その意味ではムダなく、迷惑をかけずに社会に貢献できるのもあるかもしれませんね。

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羽生:私も自分を外側から観察している感覚はあります。「こういうところはお力になれそうだな」みたいな。

堀井:以前に視覚障害の方を誘導するボランティアに応募しようとしたら、娘に「ママ、迷惑かけるだけだからやめて!」って止められたんです。「絶対に道に迷ったり、モノを落としたりするから。だったら絶対音訳のほうがいいよ」って(笑)。あれは適切なアドバイスでした。

人生の終盤戦での社会貢献は、未経験のまま土足でズカズカ入るのでなく、「ここなら力が注げるな」という領域を見極めてスマートにやれるといいですね。やりたいですね。

(構成:堀尾 大悟)

(堀井 美香,羽生 祥子)

堀井 美香,羽生 祥子

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