実は中国でワクチン接種する人急増の台湾、「中国嫌い」は本当か

実は中国でワクチン接種する人急増の台湾、「中国嫌い」は本当か

  • JBpress
  • 更新日:2021/06/11
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台湾の蔡英文総統(写真:AP/アフロ)

台湾の蔡英文政権は、中国の習近平政権と激しく対立していて、中国からのワクチン提供の申し出を断固として断り、日本とアメリカからの提供を熱烈歓迎した――そんなニュースが、日本では流布している。今週末に開かれる英国G7でも、中国の脅威に苦しむ台湾をいかに防衛するかを議論する予定だ。

だが、台湾は中国に対して、本当にそれほど強く反発し合っているのだろうか? 台湾人は、中国製ワクチンをそんなに嫌っているのだろうか?

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台湾人は本当に「中国嫌い」なのか?

台湾の有力ネットメディア「ETtoday」(6月7日付)は、「多くの人が大陸へ行ってワクチンを打っている」と題した記事を掲載した。その冒頭部分を訳出してみよう。

<台湾のコロナ禍が深刻で、最近の空港は、台湾を離れようとする大量の人で溢れている。その多くは、アメリカへ行ってワクチンを打とうという人だが、その中に少なからず、中国大陸へ行ってワクチンを打とうという人々がいる。台湾商会の徐正文会長が明かすには、周囲の多くの台商(中国大陸でビジネスする台湾人)たちは皆、中国大陸へ行ってワクチンを打っているという。何しろ距離が近いし、ワクチンを打つプロセスも容易である。予約の登記だけすれば、無料で打てる。

もともと台湾のコロナ対策は優れていて、多くの台商は中国大陸へ行くと長期間隔離されるので、台湾に残った。しかしいまや、台湾のワクチンは足りず、アメリカへ行くには遠すぎるので、近い中国大陸を選んで渡り、ワクチン接種を済ませるのだ。「中国大陸は台湾同胞、台商、台湾幹部に対して友好的で、登記さえすれば無料で打てる」(徐会長)

徐会長が言うには、いまや多くの台商が上海やアモイに行ってワクチン接種を行っている。北京は隔離措置が比較的厳格で、上海は隔離が終わればすぐに予約でき、緑(安全)の健康コードをくれるので、とても楽だという(以下、記事は長く続くが省略)>

この記事には、台湾最大の玄関口である桃園国際空港で、搭乗口に殺到する台湾人の様子を移した写真も添えられている。

この記事が語っている内容が事実なら、蔡英文政権が、「中国のワクチンなんか不要だ、中国はワクチンを政治利用しようとしている!」といきり立っていたことが、いささか滑稽に見えてくる。少なくとも、2360万人の台湾人の一部は、中国大陸に向けて殺到しているのだから。

貿易で極端な中国依存、なのに「対中ファイティングポーズ」をさかんに宣伝

もう一つ、興味深いデータを示そう。蔡英文政権が6月8日に発表した5月の台湾の貿易統計である。それによると、5月の台湾から中国大陸(香港を含む)へ向けた輸出は、156億9000万ドルに達し、前年同期比で29.5%増である。かつ台湾の5月の輸出全体の41.9%も占めているのだ。

一方、輸入でも、5月の中国大陸(香港を含む)からの輸入は、73億6000万ドルで、前年同期比33.4%増である。台湾全体の輸入の23.6%を占めている。そして、中国大陸との間の貿易黒字は、83億3000万ドルに達する。

台湾の世界全体との貿易額も増えていて、5月の輸出総額は、前年同期比38.6%増の374億1000万ドル、輸入総額は前年同期比40.9%増の312億5000万ドルである。

この台湾の貿易統計から読み取れることは、世界がコロナ禍になっても台湾が貿易を伸ばせているのは、ひとえに中国のおかげであり、台湾経済はますます中国に依存するようになってきているということだ。特に、輸出全体の4割以上が中国大陸向けというのは、尋常でない依存ぶりだ。もしも中国大陸との貿易がなかったら、とたんに輸入超過に陥ってしまう。

こうした現実は、蔡英文政権は積極的にアピールしない。中国に対する「ファイティング・ポーズ」だけがクローズアップされる。

似たような事例は、この春にも起こった。3月に中国が、台湾産パイナップルを突然、輸入禁止にした時、蔡英文政権が日本に対してSOSを求めた一件だ。この時は、4月28日に安倍晋三前首相も、ツイッターに、「今日のデザートはパイナップル。とっても美味しそう」とのコメントを、5個の台湾産パイナップルを掲げた写真とともに投稿した。するとすぐに蔡英文総統が、「是非とも #台湾パイナップル をご堪能ください!五個で足りなければ、気軽にお知らせください。いつでもお送りします!」とリツイートしてきた。

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中国の「輸入禁止」を受け、台湾産パイナップルの購買支援を呼びかけるため蔡英文総統(写真:ZUMA Press/アフロ)

パイナップルの支援は求めるが福島県などの農産品禁輸はいつまでも解かず

日本の多くのメディアも、「日本が困った台湾を救う目線」で報道していたが、『日本経済新聞』(3月18日付)は、中村裕台北特派員が「台湾のしたたかさ 中国パイナップル輸入禁止を逆手に」と題した冷静な記事を掲載した。全文は以下の通りだ。

<中国が3月から台湾産パイナップルの輸入を全面的に停止したことに台湾が強く反発している。害虫を理由にした中国に対し、「言いがかりで、政治的圧力だ」と主張。「中国には屈しない」と、一気に買い支えのムードを作りあげた。日本など海外にも支援の輪が広がり、友好ムードも醸成されたが、台湾の一連の動きには違和感も覚える。

中国当局が2月26日、台湾産パイナップルの輸入停止を発表すると、蔡英文総統の動きは早かった。すぐに台湾南部の産地に乗り込み、畑の中でパイナップルを持ち上げ「農家の皆さん安心してください。政府が支えます」とパフォーマンスを繰り返した。「中国にいじめられ、それに負けない台湾」。その分かりやすい構図は大衆の心をつかんだ。日本でも大手が大量購入の動きをみせ、既に昨年の中国向け輸出を上回る購入予約が決まったという。

「日本のみなさん、ありがとうございます!」。蔡総統のツイッターには日本語でこう書き込まれ、日台友好の証しだと関係者も胸を張った。だがこうした世論や風潮は、印象操作も手伝って作られた感も拭えない。

台湾の農業委員会(農水省)によると、昨年の台湾のパイナップル生産量は40万トン強。大半の9割は台湾で消費された。残りの1割だけが輸出され、そのうちの9割を中国が占めたという話だ。額にして50億円強にすぎないが、「輸出の9割が中国向け」ばかりが強調された結果、大ごとだと誤解した人が少なくない。

だが事実は違う。昨年、台湾からの中国向け輸出は総額で過去最高の1514億ドル(約16兆5千億円)。中国依存が鮮明で、そのうちパイナップルの割合はわずか0.03%だ。それでも蔡総統はじめ政権幹部が台湾の窮地のごとく宣伝する背景には、南部の農家に政権与党・民進党支持者が多いことと無縁ではない。

中国が「台湾こそ政治利用している」というのもそのためだ。さらに台湾は、パイナップルは今や日台友好の証しだとも強調する。だがその裏では、東日本大震災からの10年間、福島県をはじめ茨城県など周辺5県の農産品を「核食」と呼び続け、輸入を全面禁止にしてきた。世界でも台湾と中国だけの措置だが、こうした問題には台湾は沈黙する。

「核食」問題に触れれば、市民の反感を買い、蔡総統も政権運営が危ういと思うためだ。12日の国会でもパイナップルへの対応で追い風に乗る政権側は「(5県産の輸入解禁の)議論は全くしていない」と、野党側からの質問を一蹴した。

決して美しい話で終わらないパイナップル問題。少し冷静な視点も必要だ>

以上である。私は昨年1月の台湾総統選挙で、1週間近く台北の蔡英文民進党を取材したが、彼らはわれわれ日本人が考えているよりも、はるかにしたたかな存在である。日本に対して何をすればどんな反応が返ってくるかを、冷静沈着に分析しながら行動している。

前出の日経新聞の中村特派員が指摘するように、「日台友好」を推し進めるのだったら、なぜ日本の5県(福島・茨城・栃木・群馬・千葉)産の農産品の輸入を解禁しないのか。台湾の法的には、昨年11月に「解禁不可の期間」は終わっているのだ。

台湾も主張している「尖閣」の領有権

また、この先心配なのは、日本と台湾が、中国からの尖閣防衛で連携しようという動きが、日本国内で高まっていくことだ。尖閣防衛に関する日台連携は不可能である。なぜなら台湾(中華民国)も、「釣魚台(尖閣諸島)はわが国の不可分の領土」と主張しているからだ。台湾がこの主張を放棄してくれるなら話は別だが、そうでない限り、尖閣防衛に関しては、「日本にとって台湾も、中国と同様の敵」なのである。

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『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』(近藤大介著、講談社現代新書)

現在、蔡英文政権は「釣魚台問題」に関しては、ひたすら沈黙している。「主張を隠している」と言ってもよい。その方が日本を振り向かせられるという、したたかな計算によるものだ。

日本が台湾と連携して、中国の脅威に対抗していこうという流れは、十分に理解できる。だが重ねて言うが、台湾は普通の日本人が考えているよりも、はるかにしたたかな存在だということを理解してつき合うべきである。新著『ファクトで読む米中新冷戦とアフター・コロナ』で詳述したが、「日本が兄で台湾が弟」などと勘違いしてつき合っていると、いつのまにか日本の国益を損ねていることになるだろう。

近藤 大介

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