「完全に別人格ですからね」菅首相発言は本当か......“違法接待”長男のこれまでを検証する

「完全に別人格ですからね」菅首相発言は本当か......“違法接待”長男のこれまでを検証する

  • 文春オンライン
  • 更新日:2021/02/21

「私、完全に別人格ですからね」。コロナ禍の中、夜な夜な総務省幹部を呼び出しては違法接待に手を染めていた長男について、国会でこう弁明した菅首相。だが、さらに取材を進めると、仕事を与え、人脈を用意し、車を貸す過保護な「父子密着」の様が浮かび上がった。

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珍しく感情を露わに弁明した菅首相

「(長男は)今もう40(歳)ぐらいですよ。私は普段ほとんど会ってないですよ。私の長男と結びつけるちゅうのは、いくらなんでもおかしいんじゃないでしょうか。私、完全に別人格ですからね、もう」

2月4日の衆院予算委員会。野党議員の追及を受けた菅義偉首相(72)は、顔を強張らせると、珍しく答弁ペーパーから目を上げ、感情を露わにした。

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菅首相

事の発端は「週刊文春」が「菅首相長男 高級官僚を違法接待」と題して報じた2月18日号の記事だった。

菅氏の長男が「携帯値下げ」のキーマンを接待

昨年10月から12月にかけ、総務省の許認可を受けて衛星放送を運営する東北新社の部長職にある菅氏の長男・正剛氏が、総務省ナンバー2で菅政権の看板政策「携帯値下げ」のキーマンである谷脇康彦総務審議官らを高級料亭で接待していたと報じたのだ。

他に接待を受けていたのは、総務審議官(国際担当)の吉田眞人氏。衛星放送の許認可にかかわる情報流通行政局のトップ、秋本芳徳局長。その部下の湯本博信同局官房審議官。彼らは高額な飲食代をおごってもらったほか(湯本氏のみは自分の分は支払ったと「週刊文春」に主張)、タクシーチケット、さらに高級食パンやチョコレートなどを手土産として受け取っていた。国家公務員倫理法に違反する疑いが濃厚で、総務省はすでに調査を開始。武田良太総務相も国会で「国民の疑念を招いたことをお詫びしたい。徹底的に調査する」と答弁せざるを得なくなった。その結果次第では、減給や戒告など何らかの懲戒処分が決まると見られている。(注・その後、武田総務相は19日に、秋本氏と湯本氏を20日付で官房付に異動させる人事を発表した)

菅首相は終始他人事「私自身は全く承知しておりません」

この大激震の引き金を引いたのは長男であり、「父の威光」なくしては成しえなかったはずの違法接待だ。にもかかわらず、予算委における菅氏の答弁は冒頭の通り、終始他人事だった。

「(写真の人物は)マスクで目隠しもあるので確定的に(長男だと)申し上げるのは難しい」

「(接待については)私自身は全く承知しておりませんので。(接待したのが)誰であっても、総務省との間でどのような会食があったか事実を確認して、ルールに基づいて対応すべき」

2月8日の予算委員会では秋本氏、湯本氏らがさらに厳しい追及を受け、何度も「調査中」でかわすと野党が「国会軽視だ」と退席。1時間余の中断を経て、ようやく「1年に1回程度」と定期的に長男側と会食していた事実を認めたのだ。

“総理の息子”の頼みだから

経済官庁の幹部は、次のように吐き捨てる。

「接待を受けた官僚の1人で予算委員会に招かれた秋本芳徳情報流通行政局長は『東北新社が利害関係だと思わなかった』などと答弁していますが、霞が関であの言葉を信じる者はいませんよ。許認可先に料亭に呼ばれたら普通は危なくて絶対に行きません。バレたら処分されるわけですから。“総理の息子”の頼みだから断れなかったのが真相ですが、さすがに国会でそうは言えない」

あくまで菅首相は「別人格」だと言い張るが、共同通信の世論調査ではこうした説明に「納得できる」が30%、「納得できない」が62%に達した。そもそも「別人格」との言葉は本当なのか。長男は「自助」で東北新社の部長となり、総務省からの許認可にかかわる子会社の取締役になり、総務省の幹部と毎年、酒を酌み交わすようになったのか。今一度検証しよう。

「バンドを辞めてプラプラしていたから」大臣秘書官に抜擢

地元横浜で生まれた正剛氏は明治学院大に進学後、「世界民族音楽研究会」に所属。音楽ユニット「キマグレン」の元メンバーと共に、「COTE-DOR」というバンドを組んで活躍。卒業後、同級生が社会人となる中、一向に定職に就かない長男の行く末を菅氏は非常に心配していたという。そして、06年に総務大臣として初入閣を果たすと、社会人経験のない25歳の長男を大臣秘書官に抜擢。後に菅氏は雑誌の取材に「バンドを辞めてプラプラしていたから」と語っている。

「大臣秘書官の給与は特別職給与法により、個々の秘書官の能力と経歴に基づいて決定されます。一番下の1号俸は06年当時、月額25万9100円。さらに期末勤勉手当(ボーナス)、地域手当、住居手当、通勤手当なども付きます。毎月の地域手当は東京の場合、俸給の20%が加算されることになります」(内閣人事局の担当者)

ざっと計算すれば、ボーナスを含めて400万円ほどが支払われたことになる。

正剛氏を知る地元の知人が苦笑交じりにいう。

「正剛はその後、秘書官を辞めてからは仕事がなくて、ある日突然『バーを経営する』と言い出したことがあった。そんな姿を見かねた空手部出身の父から鉄拳制裁を食らい、『直立不動でそれを受けたんだ』と話していました。父の叱責に嫌気がさしたのか、正剛は一度家を飛び出した。でも、街中のそこかしこに父親のポスターが貼ってあるのが目につき、父の威光に観念して家に戻ったそうです」

8000万円を下らないタワマン購入

バルコニーから横浜港が一望できる36階建てのタワーマンションの上層階を正剛氏が購入したのは、大臣秘書官を辞めた半年後の08年1月のこと。80平米超の3LDKで、販売価格は8000万円を下らない新築の高級物件だ。だが登記簿を確認すると、ローンはわずか2000万円。6000万円前後の頭金を自己資金として捻出していることになる。当時、正剛氏は独身で妻やその親族の援助はありえない。誰が6000万円を用意したのだろう。今住んでいるのは、4年前にこの物件を売り払って移った億ションだが、ここもローンは1800万円に過ぎない。

08年に正剛氏は菅氏の後援者である植村伴次郎氏が創業した東北新社に入社。「総務省担当」を担うようになった。そして入社3年後の11年、大学時代に同じサークルに所属していた女性と結婚。同年2月、結婚式に華を添えたのは、菅氏と縁が深いあの大物議員だった。

「安倍晋三さんです。安倍さんは『キマグレン』の元メンバーと写真を撮ったりして上機嫌。旦那さんは元バンドマンらしく、彼らと生演奏を披露していました」(正剛氏夫婦の知人)

「服装は質素にするように」……菅夫人からの注意

夫婦が娘をもうけると、菅氏は初孫を大いに可愛がった。教育熱心な菅氏の妻・真理子夫人は、正剛氏ら3兄弟が卒業した私立の小学校へ孫娘を入れるよう望んだという。

「でも、夫婦が選んだのは公立小学校。反対したのは正剛さんです。家族会議で『俺は私立小学校に通ったせいで、地元に友達が出来なくて嫌だった。学校の先生からは“お前の親は政治家だそうだな”と全員の前で言われて腹が立った』と話したそうです」(同前)

菅氏と真理子夫人の言動からは“たたき上げの政治家”のイメージを守ろうとする姿が透けて見える。

「奥さんはお義母さんから『ブランド物のカバンを持たないように。服装は質素にするように』と何度も注意を受けていました。また、娘さんの七五三の記念写真も、流行のスタジオではなく、昔からの菅氏の支援者が経営する写真屋さんで撮ることになっちゃった、と話していました」(地元関係者)

一方でこんな余禄を得ていた、との証言もある。

「当時、夫婦は車を所有せず、両親が持つ国産のセダンを自由に使っていました。夫婦は(菅氏と)目と鼻の先で暮らしていて、両親のマンションに車を頻繁に取りに行っては乗っていました。その頃、お父さんは多忙な官房長官。地元に帰ることは一切なく、奥さんは『どうせ乗らないんだしね』と言っていましたね」

夫婦の上の娘は小学生、下は就学前の可愛い盛り。だが安倍政権の官房長官として多忙を極めていた菅氏は、正剛氏の自宅に立ち寄ることが叶わない。

そこで夫婦は孫娘を連れて東京プリンスホテルやホテルニューオータニなどに度々出向いた。そこで仕入れたのが、昨年11月2日、衆院予算委員会で菅氏が口にした意外な言葉だ。

「『全集中の呼吸』で答弁する」

人気漫画「鬼滅の刃」の主人公が必殺技を繰り出す際の決め台詞を引用し、

「菅氏は『孫が好きなんだよ。ウケたね』とご満悦だった」(政治部記者)

菅氏と東北新社との“深い関係”

常日頃「趣味は孫」と公言してはばからない菅氏だが、永田町に一歩足を踏み入れると柔和な表情は一変する。菅氏が総務省という“天領”を持ち、総務大臣以上に人事権を恣(ほしいまま)にする一方で、父から授かった総務省人脈で出世を遂げてきたのが正剛氏ではなかったか。本社の部長と、総務省が認定する衛星基幹放送事業者「株式会社 囲碁将棋チャンネル」(東北新社の子会社)の取締役を30代から兼務している。

菅氏と東北新社の深い関係を象徴する出来事があったのは、10年8月6日。ホテルオークラ東京で盛大なパーティが催された。

「囲碁・将棋チャンネルの開局20周年パーティが催され、菅氏が主賓の1人として招かれていました。実は、菅氏は12年に官房長官になってからも、人目を忍んで東北新社を訪れ、創業者の植村伴次郎さんの長男で当時の社長・徹さん(昨年逝去)に会っていました」(東北新社関係者)

同郷に生まれ、裸一貫で身を起こした植村伴次郎氏について、菅氏は「凄い人なんだよ。一代で築いてさぁ」と、しばしばその「自助」に対し、尊崇の念を口にしていたという。

「自助」「既得権益の打破」との矛盾

目指すべき社会像の筆頭に「自助」を謳い、「既得権益の打破」が政治信条の菅氏。だが、政治力を駆使して無職の長男を公金で雇い、多数の総務官僚との接点を持たせた。現に総務省の吉田氏と湯本氏は、正剛氏との最初の接点は総務大臣秘書官時代、と「週刊文春」に書面で回答している。その後、よりによって総務省の許認可先への就職を許した。そして違法接待が起きた。

谷脇氏ら総務省幹部は今後どうなるのか。

「懲戒処分を受ければ少なくとも1年間は昇格が不可能となります。この9月に61歳になる谷脇氏はすでに次官級なので、定年の62歳まで間はありますが、いずれにせよ懲戒処分を受ければ次官昇格の目はなくなる。無理やり『利害関係者だとの認識はなかったので厳重注意とする』などと軽い処分で済ませれば、『官邸の守護神』と言われた黒川弘務検事長の定年延長の時のように『贔屓の引き倒し』に見られかねない。今夏の事務次官就任が確定的だった谷脇氏以下、総務省人事は大幅な変更を余儀なくされました」(総務省関係者)

菅氏の権力を背景にした長男の違法接待によって、官僚だけが処分を受け、行政に影響が出る。それでも、菅首相は「別人格」と頬かむりを続けるのか。

(「週刊文春」編集部/週刊文春 2021年2月18日号)

「週刊文春」編集部

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