痛くても我慢が美徳...不妊治療をしたトップアスリートが痛感した身体ケアの大切さ【大山加奈さん】

痛くても我慢が美徳...不妊治療をしたトップアスリートが痛感した身体ケアの大切さ【大山加奈さん】

  • mi-mollet(ミモレ)
  • 更新日:2021/09/16

この春に立ち上げられた、女性アスリートの生理問題を考える『1252プロジェクト』。
その一環としてスタートしたYouTube番組『TALK UP!1252』は、プロジェクトの発起人である元競泳日本代表の伊藤華英さんをホストに、毎回さまざまなゲストとスポーツ界の現状や課題について語り合います。

今回は、元バレーボール日本代表としてアテネオリンピックにも出場された大山加奈さんがゲスト。
現役時代から引退後までの様々なご苦労を振り返りながら、団体競技の中で痛みやつらさを表現することの難しさや、思春期の身体の不調が未来におよぼす影響などについてお話ししてくれました。

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レギュラーの座は譲れない! だから弱音は吐けなかった

伊藤さん(以下、敬称略):今日は、団体競技における生理問題を中心にお話をお伺いしたいと思います。大山さんは、現役時代に何か困っていたことはありましたか?

大山さん(以下、敬称略):私の場合は、幸い生理に関しては、周期も正しく生理痛もほぼなくて、特に悩まされることはありませんでした。
ただ、子どもの頃からずっと腰の怪我に苦しめられていて。本当は痛いししんどかったけど、チームの中では誰にも言えませんでした。

伊藤:アスリートの世界で、痛みやつらさを口に出すことは難しいですね。腰はどのような症状だったんですか?

大山:脊柱管狭窄(せきちゅうかんちゅうさく)症といって、本来は高齢の方に見られる症状を20歳の頃から発症していました。
もともと小学生の頃から腰痛がひどく、だましだましやってきたのですが、アテネオリンピックに出た20歳くらいから歩けなくなるほど悪化してしまいました。

でも、その間、痛みについてチームメイトに明かしたことはありません。弱音を吐いたら甘えと思われそうでしたし、監督に知られたら、きっとメンバー選考に影響が出てしまう。
バレーボールは、代表合宿に20〜30人が集められ、最終的には12人に絞られます。チームメイトは、仲間でありライバル。
監督に「コイツならやれる!」と思ってもらう必要があるので、「痛い」「つらい」と弱音を吐く自分は見せられないのです。

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写真:アフロ

伊藤:「痛い」と言うことが、「弱い」とみなされてしまうんですね。

大山:アテネオリンピックが終わり、腰のためには手術すべきでしたが、手術をすると選手生命を絶たれる可能性もあると言われて、長期療養しリハビリする方法を選びました。
でも、常に復帰に向けた焦りがあり、少し改善されるとすぐに復帰してまた壊す、ということの繰り返し。
結局、北京オリンピックの年には手術を避けられなくなり、病床からオリンピックを鑑賞するという非常に悔しい結果となってしまいました。

伊藤:手術後は無事に復帰できたんですか?

大山:一度は、痛みがなくなったんです。
そこで「ようやく新しい人生が始まる!」と気分が高揚したのも束の間、再度痛くなってしまって……。
ガクッときて心の不調に陥ってしまい、そのまま引退会見もせずフェードアウトするように引退することに。26歳になったばかりの頃でした。

結婚を機に婦人科を受診し 初めて意識した身体のこと

伊藤:引退後、生理は順調でしたか?

大山:それが、毎月決まった周期で来ていたのですっかり問題はないと思い込んでいたのですが、結婚し、妊娠のことを考えて初めて訪れた婦人科で、予想外の診断をされてしまったんです。

伊藤:婦人科は、その時が初めての受診ですか?

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大山:はい、31歳でしたが、それまで一度も受診したことがありませんでした。とにかく生理が定期的に来ていたから必要性を感じなくて。

ですが、婦人科の先生に「周期的に来てはいるけど、排卵していないかもね」と言われて、びっくり。
生理があれば、当然排卵しているものだと思っていました。

子どもが欲しいと思った時、腰の怪我のこともあるし、普段から35度、34度とかなり低体温だったこともあり、念のためチェックしに行った感覚でしたが、まさか排卵していない可能性があったとは……。

その時に初めて、現役時代ももっと身体を大切にしておけばよかったと後悔しました。10代の頃から、きちんと婦人科のかかりつけ医を見つけて受診しておけばよかったと痛感したんです。

伊藤:10代で「婦人科に行ってみよう」とは、なかなかならないですよね。
私の場合は、たまたま日本代表の競泳チームに婦人科の先生がいらしたから、ピルの相談もできたけど、そういうきっかけでも無ければ、婦人科に行くこと自体、思いつかなかったと思う。

そもそも、産婦人科は妊娠した人が行く所という認識だったので、自分もそう思われそうで嫌だなというのもありました。
今の10代の子たちもきっとそんなハードルの高さを感じているでしょうね。でも、だからこそ、本人たちだけでなく周囲の大人たちも、産婦人科の役割をきちんと知っておくことが大事ですよね。

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大山:私の場合は、そこから婦人科で治療を始め、まずは排卵日を調べるタイミング法からスタート。
すんなりとは妊娠できず、その後、人工授精、体外受精とステップアップしていったのですが、2回目でようやく妊娠することができました。

不妊治療を始めてから4〜5年が経っていました。その間は、心も身体も消耗し、経済的にも大きな負担が。本当につらい数年間を過ごしてあらためて感じたのは、若い頃、目先の勝利だけでなく、引退後も続く長い人生に目を向けていればよかったという反省でした。

「勝利至上主義」「我慢は美徳」 間違った風潮は大人から正して

伊藤:現役時代と引退後では、自分の身体への考え方は変わりましたか?

大山:そうですね、だいぶ変わりました。現役時代は、日本一になることしか頭にありませんでした。

特に、春高バレー(全日本バレーボール高等学校選手権大会)への思い入れは強くて、大会直前に他の選手と衝突して肩が上がらなくなった時も、鍼灸に通いながらなんとか試合に出続けたことも。
あの頃は本当に「肩が壊れても構わないから私にトスを上げて!」という気持ちだったんです。
その先に待っているオリンピックさえ二の次に感じられるくらい、春高バレーで優勝することが最優先事項でした。その結果、今でも肩が痛むのですが。

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伊藤:私の認識としては、日本人には「我慢は美徳」という考えがありますね。選手自身もそうですが、応援してくださるみなさんからも、そんな視線を感じることがあります。

たとえば、「怪我を乗り越えて勝利を手にする」といったエピソードがメディアから引っ張りだこになったり。

大山:実は、乗り越えられていなかったりしますけどね(笑)。
仮に、怪我を押して試合に出場し、いい成績を収めた選手がいたとしても、その人ができたからとみんなもできるわけではないし、トップがそうでも、その下のカテゴリーに同じことを求めるべきではないと思います。

伊藤:子どもの頃にどんな風に競技と向き合ったかという経験も、その後の競技人生を大きく左右する要素ですね。

大山:それは大いにあります。
私は、小学校で入ったチームが全国優勝に燃えていて、最初からそういう環境に身を置いてしまったので、それが当然と思い込んでしまいました。

伊藤:ただ、やはり子どもは目の前の環境に精一杯になりやすいから、20代、30代の未来までなかなか想像できないですね。
だからこそ、本来は、子どもたちが自分の身体を大事にしたり、痛みを素直に表現できる環境を整えることは、周囲の大人の役割だと思うのです。

大山:本当にそうですね。
子どもは、勝つことだけに集中してもいいと思うけど、問題は、監督やコーチと言った周囲の大人までが「勝利至上主義」になってしまうこと。
もっと、子どもたちの人生を預かっているくらいの覚悟と責任を持つべきです。

スポーツは、本来、人生を豊かにするためのツール。
私自身は、とにかく勝つことだけを目的としてプレイしてきてしまって、引退後にさまざまな苦労をすることになってしまいました。
若い選手たちには同じ苦労を背負って欲しくありません。

もちろん、勝利は多くの喜びを運んできてくれますが、もっと大事なことがあるはず。
私も、後に続くみなさんに「スポーツを通じて、自分はどんな人間になりたいか」ということを考えて頂けるように、今後もサポートしていくつもりです。

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大山加奈/元バレーボール女子日本代表 小学校2年生からバレーボールを始め、小中高全ての年代で全国制覇を経験。高校卒業後は東レ・アローズ女子バレーボール部に入部した。高校在学中の2001年、日本代表に初選出され、オリンピック・世界選手権・ワールドカップと三大大会すべての試合に出場。力強いスパイクを武器に「パワフルカナ」の愛称で親しまれ、日本を代表するプレーヤーとして活躍した。2010年6月に現役を引退し、現在は全国での講演活動やバレーボール教室、解説、メディア出演など多方面で活躍しながら、スポーツ界やバレーボール界の発展に力を注ぐ。

文/村上治子
構成/片岡千晶(編集部)

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伊藤 華英

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