国内最大級の巨大ファンド
「eMAXIS Slim米国株式(S&P500)」の勢いが止まりません。当初設定額はわずか100万円と極めて小規模のスタートでしたが、資金流入が続き、2023年5月には純資産総額が2兆円を突破しました。設定から実に200万倍に増加したことになります。同年2月には、ETFを除く全ての公募投資信託で最大の純資産総額を持つ銘柄となりました。
【eMAXIS Slim米国株式(S&P500)】

出所:三菱UFJ国際投信 ファンド情報より著者作成
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)に資金が集まる理由はなんでしょうか。同銘柄の魅力から探ってみましょう。
業界最低水準の信託報酬が投資家を呼び込む
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)が資金を集める理由は、その信託報酬の低さにあるでしょう。
信託報酬とは投資信託の運用コストで、運用資産から毎日差し引かれます。これが低いほど投資家に利益が残りやすいため、基本的に信託報酬は低いほど有利といえます。
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は、これまで信託報酬を相次いで引き下げてきました。現在は0.09372%となっており、これは信託報酬が一定以下に限られる「つみたてNISA」対象銘柄の中でも最低水準です。例えば内外または海外に投資するつみたてNISA対象のインデックスファンドで、信託報酬が0.1%以下の銘柄は全体のおよそ1割しかありません。
【信託報酬引き下げの経緯(税込み)】
・2019年6月:0.1728%→0.162%
・2019年11月:0.162%→0.0968%
・2023年4月:0.0968%→0.09372%
出所:三菱UFJ国際投信
【つみたてNISA対象の内外・海外型インデックスファンドの信託報酬(2023年4月時点)】

出所:金融庁 つみたてNISA対象商品の分類(2023年4月27日時点)より著者作成
大きな実績リターンも魅力
相場に恵まれたことも、eMAXIS Slim米国株式(S&P500)が資金を集めた理由でしょう。
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)はアメリカの株価指数「S&P500」を参照するインデックスファンドであり、その運用成績はS&P500にかかっています。近年のアメリカ株式市場は良好で、同ファンドの設定来リターンも96%と大きな利益を残しました(2023年4月末時点)。
特に2022年は、本家のS&P500を上回るパフォーマンスを獲得しています。これは円安が顕著に進んだためです。アメリカで金利上昇が強く意識されたことから、株式市場は軟調な推移となりましたが、米ドルは日本円に対して大きく値上がりしました。このため、円で換算されるeMAXIS Slim米国株式(S&P500)は、ドル建てのS&P500よりも小さな値下がりにとどまっています。
【ドル建てS&P500との比較(2021年末=100)】

出所:三菱UFJ国際投信、S&P・ダウ・ジョーンズ・インデックスより著者作成
実はリスクが高い? eMAXIS Slim米国株式の落とし穴
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)は信託報酬が低く実績リターンも十分で、また純資産総額の大きさを踏まえれば知名度も大きいでしょう。これらの要因から、今後も多くの人が投資すると考えられます。
ただしeMAXIS Slim米国株式(S&P500)は単一国、単一資産に投資する銘柄であり、「地域の分散」や「資産の分散」は図られていません。「銘柄の分散」はなされていますが、リスクは比較的高めの銘柄といえます。
【組入上位10銘柄(2023年4月末時点)】
※1.グーグルの運営会社
※2.旧フェイスブック
eMAXIS Slim米国株式(S&P500)への投資を否定するものではありませんが、過去の値動きなどをチェックし、リスクを理解した上で投資するようお勧めします。
【eMAXIS Slim米国株式(S&P500)の概要】
※三菱UFJ国際投信は2023年10月に「三菱UFJアセットマネジメント」へ変更予定
執筆/若山卓也(わかやまFPサービス)
証券会社で個人向け営業を経験し、その後ファイナンシャルプランナーとして独立。金融商品仲介業(IFA)および保険募集人に登録し、金融商品の販売も行う。2017年から金融系ライターとして活動。AFP、証券外務員一種、プライベートバンキング・コーディネーター。
Finasee編集部
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