
有村昆
【ニュースシネマパラダイス】
どうも! 有村昆です。三重県の温泉施設で43歳の男が女性用の浴場に侵入したとして逮捕されました。男は調べに対して女性用の浴場に入ったことを認め「心は女なのに、なぜ女子風呂に入ったらいけないのか全く理解できません」と話しているとのことです。
今回の事件は、戸籍上の性別を変更する際に生殖能力をなくす手術を事実上の要件とする性同一性障害特例法は違憲かどうかが争われた家事審判で、10月に最高裁が「違憲」と判断したことも影響していると指摘されています。多様性への理解も必要ですが、悪用する人間もいることも事実。本当に難しい問題です。
映画界でも多様性をテーマにした作品が数多く製作されています。今回は現在公開中で話題を呼んでいる朝井リョウさん原作の「正欲」を紹介します。新垣結衣さん演じる桐生夏月はショッピングモールで販売員として働き、実家暮らしをしています。夏月が独身であることには特殊な事情があります。水に性欲を感じ、人に興味や恋愛感情を持てないんです。同級生たちが結婚し家庭を築くなか、周囲から当たり前の価値観を押し付けられることに生きづらさを感じていました。
ある日、中学の同級生で磯村勇斗さん演じる佐々木佳道と再会します。佳道も夏月と同じく水に性欲を感じ、人に興味がない。誰からも理解されずに孤独を抱えていた夏月と佳道は、理解者が現れたことで自己肯定感を高めていきます。
2人はこの社会で生きていくためには、社会のルールにのっとった方がいいと考え、偽装結婚をします。恋愛感情はないもののお互いを理解し、平穏な生活を営んでいました。しかし、佳道が水愛好家たちと撮影会を行ったことで、ある事件に巻き込まれます。衝撃のラストはぜひ本編でご覧ください。
わかりやすく説明するために夏月と佳道を中心に解説しましたが、映画は複数の登場人物のストーリーが同時進行し、ラストに点と点がつながり線になる構成はお見事です。朝井さんは群像劇を描くのがすごくうまい。それぞれの登場人物の物語が補填し合い、1つでも欠けると物語のパズルが成立しないんですよ。
見る前は水に性欲を感じると言われても「?」だったんですけど、見終わった後は新たな判断を突き付けられたようで深く考えさせられました。これからも多様性への理解と社会のルールの中で難しい判断を迫られることになると思います。本作は、まさに今という時代を切り取った作品です!
有村昆