海外での臓器移植の無許可あっせん事件で、警視庁がNPO法人「難病患者支援の会」(東京)理事長の菊池仁達(ひろみち)容疑者(62)(臓器移植法違反容疑で再逮捕)と患者らの会話を録音した音声記録を押収していたことがわかった。ベラルーシでの移植が生体移植ではなく、あっせん許可が必要な死体移植であることなどが語られており、警視庁は違法性を裏付ける内容とみている。

菊池仁達容疑者
■計10時間の記録
音声はNPO関係者や患者が2021年12月以降に録音し、警視庁は関係者から提供を受けて押収した。読売新聞は同一とみられる音声(動画を含む)を入手しており、三十数件・計約10時間に及ぶ記録からは、NPOによる臓器あっせんの実態が浮かぶ。
<(あなたは)サラリーマンだから、僕らも心が痛いので、前から言っていた金額でやっていきます>
菊池容疑者は昨年2月、以前から腎臓移植の相談に訪れていた50歳代男性にそう述べ、ベラルーシでの移植費用として「1850万円」を提示した。さらに、ほかにも患者1人の移植を予定していると説明し、こう続けた。
<新規の人には2300万円と言っている。聞かれたら(話を)合わせといて。もう1人は地主さんなのよ。お金持ってるから>
菊池容疑者は、ベラルーシでの移植が死者からの臓器提供と明かしていた。
<ドナーにならないという拒否カードを書いて申請しない限り、原則死んだら(臓器を)取れる>
<腎臓は心停止して4時間以内に取ればいい。交通事故であろうが、水死であろうが>
男性が帰国後の医療への不安を明かすと、菊池容疑者はこう語った。
<熱が出たとか、おしっこの色が変だとか、そういうときはすぐに病院に連絡するか、僕に電話して。基本的なことは僕は勉強しているから>
男性はNPOに約1850万円を支払い、昨年7月にベラルーシで腎臓移植を受けた。警視庁は録音の内容も踏まえ、男性に死者からの臓器を無許可であっせんした容疑で先月末に菊池容疑者を再逮捕した。
■口が裂けても…
「ベラルーシ移植」以外についても、生々しいやりとりが記録されている。
NPOは21年12月、キルギスの病院に日本人患者4人を案内した。うち1人が生体腎移植を受けたが一時重篤となり、残り3人の手術は行われなかった。この際、菊池容疑者は3人のうち1人に、別の国での移植を提案した。
<口が裂けても生きている人から(臓器を)もらったとは言ってほしくないんですよ。貧乏な人から買ったんじゃないかとか言われますから>
<ベラルーシは死体ですよ。カザフスタンとタジキスタンは生体。生体だけど、書類は死体。そうしないとマスコミやら色々な所から攻撃されるから>
患者はこうした発言に不信感を抱き、海外移植をとりやめていた。
■ドナーに金銭
昨年5月には、フィリピンでの腎臓移植について、菊池容疑者がNPO関係者にこう語った。
<ドナーに給料みたいなのをあげないとダメでしょ。例えば1日20ドル。あと食事代10ドルで、30ドルは毎日渡してください>
患者から受け取る費用の「取り分」についても触れていた。
<だいたいドナーが1万5000ドルでしょ。あと○○(人名)の分でしょ>
この移植は実現しなかったとみられるが、警視庁はドナーに支払われる腎臓の対価が1万5000ドル(約200万円)であることを菊池容疑者が認識していたとみている。
■ブローカー
音声記録には、NPOに病院やドナーを紹介していたトルコ人男性(58)の発言も残されていた。
<ドナーはどこから連れて来ても問題ない。彼らが親族だと示す書類があればいい>
男性は昨年5月、スリランカでの移植について菊池容疑者にそう語った。親族間の生体移植を装うため、偽造書類を使うことを示唆している。
男性は臓器売買に関与した疑いで17年にウクライナ当局に逮捕されていた。警視庁は、違法な「臓器ビジネス」を手がけるブローカーとみている。