白川泰平さん【百姓】|働くろう者を訪ねて vol.17

白川泰平さん【百姓】|働くろう者を訪ねて vol.17

  • こここ
  • 更新日:2023/01/27

連載記事

2023.01.25

働くろう者を訪ねて|齋藤陽道

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撮影・執筆:齋藤陽道
インタビュー:もりやままなみ
編集:中田一会(こここ編集部)

手話を第一言語とする「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第17回は山口県長門市で、自然資源から多様な仕事を生み出す「百姓」として働く、白川泰平(しらかわたいへい)さんを訪ねました。

白川泰平さん【百姓】

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―お名前、年齢、ご職業は?

白川泰平、28歳。百姓で、主な仕事は豚を放牧させながら育てることです。

―出身地はどこですか。

東京都出身。いろんなひとと繋がるのが好きで、自分の生きる力をしっかり身につけたいと思い、今ここ、山口県にやってきました。

―今まで通っていた学校はどこですか。

中学2年生の途中まで地元の学校に通っていました。東京都立中央ろう学校に入り、高校卒業後は筑波大学 生物資源学類に進学しました。農業、環境問題に対して、経済、化学、生物などの幅広い学問から研究し学べるところです。

―こどものときの夢は何でしたか。

たくさんあったけど……どこから話せば…難しいな…。建築家、薬剤師かな。近くにロールモデルがいて、それでやってみたいと思うきっかけができました。建築家は父。薬剤師は早瀬久美さん(※注)。芯があり、誇りを持っている姿を見て、魅力的に感じました。

※注 早瀬久美さん:聴覚障害のある薬剤師。薬剤師国家試験に合格しながらも聴覚障害者ゆえに免許が得られず、全国220万人の署名活動によって2001年7月に法改正が行われ、資格を取得。昭和大学病院で活躍している。この早瀬さんの実体験は全日本ろうあ連盟創立60周年を記念した映画『ゆずり葉』でも描かれた。

―これまでの職歴、経歴は?

新卒で福岡県のIT関連会社に入り、1年半ぐらい働いていました。それから山口県の「百姓庵」に就職し、3年目になります。

―「百姓庵」ってどんな会社ですか?

塩作りを中心に、レストラン、キッチンカー運営、農耕、あとは……今、私がやっている養豚などを生業としています。ちょっとめずらしいタイプの会社で、社員それぞれが自分で仕事を考え、見つけ、複数の仕事をやっていくんです。

ーどうやって「百姓庵」を見つけましたか?

「日本仕事百貨」というウェブサイトで見つけました。会社のコンセプトや、なぜその事業をはじめようとした背景などが魅力的に書かれているんです。自然豊かな油谷島、向津具半島を守っていこうという情熱が伝わってきて、かっこいいなと思いました。もともと私は村をつくる、というテーマに関心があって……。自分の力を磨きたいという主な理由で「百姓庵」にエントリーしました。

ー村をつくる、とは?

まだざっくりとしたイメージしかないんですが、その地に合った百姓の仕事をして、それぞれの家族が暮らせて、次の代まで継続することができるコミュニティの場を作りたいと考えているんです。ここにいると、村の在り方が具体的にみえてきます。

―IT企業から百姓に転身したきっかけは?

ITの世界は、道具を使って世の中を良くしていこうという働きがあります。それはそれで良いことなのですが、そのまえにちゃんとした人間としての生きる力がないと、周りの人を幸せにすることはできない。土、自然に関わる百姓ならその力を鍛えられると気づいたんです。ここで自分を磨き、それからいろんなことに挑戦してみたいと思っています。

ー養豚家ではなく、「百姓」ということばを使っているのはなぜでしょうか。

豚だけではなく、自然の中でいろんな仕事を楽しみたいという思いがあるからです。いろんな仕事ができる現代版の「百姓」になれるように日々頑張っていきたいと思っています。今では豚を育て、農業もやり、製塩やレストランにも関わっています。

ー豚を育てよう、という提案は白川さんが?

もともと会社として養豚をやろうとしていて、人を募集していたところを、自分が手を挙げて会社と協力しながらやることになりました。豚は解剖学的にも医学的にも人間に近い動物です。臓器や細胞組織が似ていて、豚肉を食べると元気になるというのは、このことからきています。豚のことを知れば知るほど、自分の身体のこともわかってくるんです。

ほとんどの養豚は利益優先で生後5〜6ヶ月で出荷され、精肉されます。でもうちでは脂も旨味ものっている、本当においしい時期に出荷します。生後一年半後以降から二年くらいのタイミングですね。そのぶんコストもかかるので、うちのベーコンやソーセージは他のところよりも高価ですが、自信持って提供しています。

まだ始めたばかりなので試行錯誤しながらですが、それぞれの豚には個性があり、月齢、季節によっても変動するので、美味しくいただける時期を見極めていく必要があります。コストや利益だけではなく、その豚の命を本当に大切に活かしたいんです。

―5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

自分の地盤をつくるという目的で、引き続き今の生業をしっかりやり、豚を育てているかな。いずれはチーズ作り、キャンプ場など人と食に深く関わる仕事にも、携われたらいいなと思っています。家族も持った上で、自分の仕事をしっかりと広められるぐらいの自信も持っていきたい。皆が集まりたい、と思ってくれるような場を作りたいです。

―好きなたべものは何ですか?

豚肉はもちろん、生ハムとサラミが好きです。チーズも好きですね。

まだ熟成は難易度が高くできていませんが、うちの塩と豚を掛け合わせたものを熟成したらとんでもなく美味しく仕上がるのではないかとワクワクしています。これから本格的な生ハムを作る予定なので、できたらお知らせします。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

最高においしい食材をいろいろ自分で育てられる、つくれる。その手応えを感じたときが幸せ。

でも、一番は自分の身近で大切にしたいひとが、私の育てたもの、つくったものを食べてくれたときに、「ああ、幸せだなあ」ってなります。

動画インタビュー(手話)

Information

百姓庵

白川泰平さんが勤める「百姓庵」の情報は公式サイトからご覧いただけます。またインタビュー中にでてきた「日本仕事百貨」の記事はこちら

Profile

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齋藤陽道

写真家

1983年、東京都生まれ。写真家。都立石神井ろう学校卒業。2020年から熊本県在住。陽ノ道として障害者プロレス団体「ドッグレッグス」所属。2010年、写真新世紀優秀賞(佐内正史選)。2013年、ワタリウム美術館にて新鋭写真家として異例の大型個展を開催。2014年、日本写真協会新人賞受賞。
写真集に『感動』、続編の『感動、』(赤々舎)、『宝箱』(ぴあ)。著書に『写訳春と修羅』『それでも それでも それでも』(ナナロク社)、『異なり記念日』(医学書院・シリーズケアをひらく、第73回毎日出版文化賞企画部門受賞)、『声めぐり』(晶文社)がある。

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生湯葉シホ

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