早期治療が平穏への近道 夫婦喧嘩や産後うつ、PMS・PMDDのせいかも?

早期治療が平穏への近道 夫婦喧嘩や産後うつ、PMS・PMDDのせいかも?

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  • 更新日:2021/06/14
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写真はイメージです(Getty Images)

突然イライラしたり、不意に涙が出てきたり、生理前は自分が制御不能になる――。月経前の心身の不調を医学的には「月経前症候群:PMS(Premenstrual Syndrome )」や「月経前不快気分障害:PMDD(premenstrual dysphoric disorder)」という。日常生活にも支障をきたすこともあるが周囲の理解を得られないことも多い。出産前後に初めて症状が出てくる人もおり、夫婦関係や親子関係に影響を及ぼす可能性が指摘されている。

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「臭い! 食事をする前に足を洗ってきて!」

関東在住のAさん(40代 既婚)は、6年ほど前、仕事から帰宅した夫の足の臭いが気になり、何度も注意した。すると夫はクローゼットの引き出しを蹴とばし、引き出しはバラバラに。それを見たAさんはカッとなり、作ったばかりの熱々の鍋をシンクに投げつける。土鍋が割れ、具材が飛び散った。

その大きな音で、おんぶで眠っていた1歳前の娘は火がついたように泣き出し、3歳の息子も泣きそうになりながら、「パパのためにもう一度お鍋を作って!」と訴えた。

しばらくしてAさんは子どもたちを寝かしつけ、少し気持ちが落ち着いてきたため、残りの具材と別の鍋で再び料理を作り、就寝。

翌朝、Aさんは澄み切った青空のように爽快な気持ちで目覚めた。月経が始まったのだ。

「生理前に夫とケンカになることはしょっちゅうです。きっかけはいつも些細なこと。夫は相当なことがないと物に当たったりしない人ですが、私は生理前になると、ストレス耐性がいつもよりかなり低くなるため、突然キレて物に当たります。そのため、わが家には至るところに、『反抗期の男子でもいるの?』というくらい、ボコボコと穴が開いているんです……」

Aさんは高校生のころから月経痛に悩まされてきた。しばらくは市販の鎮痛剤でやり過ごしてきたが、だんだん服用回数が増えてきたことから、25歳のころに婦人科にかかり、ピルを飲むようになっていた。

その後結婚して、長男を出産。そして2人目の長女出産後から、Aさんは月経前になると急激に体調が悪化するように。情緒不安定、集中力減退、睡眠過多・不眠、偏食・過食、限界感、自己喪失感から希死念慮が出現。頭痛や肩こり、便秘や下痢、めまいや腰痛などもあり、Aさんは婦人科や心療内科だけでなく、保健所や区役所など、さまざまな機関に自分の体調や子育ての悩みを相談し、助けを求めた。当時、3歳になる息子はイヤイヤ期真っ盛り。夫の帰りはいつも夜中で、妊娠中からずっと家事・育児に1人で追われてきた。

「長女出産後から、私はずっと心が張り裂けそうでした。夫は仕事で大変でしたし、どうせ話してもわかってもらえないと感じていました」

やがてAさんは「死のう」と思い、準備を始めたが、ある晩突然気がつく。「こんなに愛おしいわが子たちとの心中を考えるほど、私は毎日頑張ってきたんだ」「この子たちの成長を見続けていたい。死んだらダメだ」と。Aさんは1人で大号泣した。

「今振り返ると、あのころの私は産後うつだったのだと思います。今はもう、死ぬ準備はしていませんが、やっぱり生理前になると、ひどいときはベランダから下を覗き込んだり、駅のホームから線路を見つめたりしています……」

■産後うつ、虐待、夫婦喧嘩とPMS・PMDD

私はこれまで取材や、自助グループ「月経前の悩みに寄り添う会」の活動などで、PMS・PMDDに悩み苦しむ女性やそのパートナーに話を聞いてきた。その中で、産後うつや虐待、育児放棄や夫婦喧嘩、離婚などの家庭問題とPMS・PMDDには、深い関係があるのではないかと考えるようなった。なぜなら家庭問題を抱える女性も、普段は明るく穏やかで、理知的な人ばかりだったからだ。

しかし、産後うつとPMS・PMDDは別の疾患(症状)。別の疾患(症状)であるため、医学的にみて両者に因果関係があるかどうかは、慎重に議論しなければならない。

関西在住の産婦人科医 Haru医師は「直接的な原因とするのは時期尚早」と、冷静に説明する。

「PMSやPMDDの定義は、月経前3~10日の間に続く精神的あるいは身体的症状であり、月経開始とともに軽快もしくは消失するものを言います。文献にもよりますが、多ければ約80%の女性がPMSやPMDDの症状を有すると報告されています。一方、産後うつは産後に発症するうつ症状ですが、これは周期的に起こる症状ではなく、産後月経がない人でも起こるため、PMSやPMDDには含まれません。児放棄や虐待も、月経前だけに行われるものは少ないと思いますので、PMSやPMDDが直接の原因とはなりにくいと私は考えます」(Haru医師)

現時点では十分なデータや医学的な裏付けがあるわけではないが、直接原因ではなくとも、状況を悪化させる遠因になることは考えられるという。

「月経前にイライラしたり落ち込んだりするPMDDの症状の時に、パートナーとの関係が悪くなり、それが積み重なって交際関係の解消や、離婚の原因になることはあるかもしれません。正確なデータがないので絶対とは言えませんが、少なからず離婚の原因は隠れていると思います。同じようにPMSやPMDDの症状が出ている時に、親子関係が崩れ始めることもあるとは思います」(同)

子どもが産まれてから夫婦関係が悪化する現象は、産後クライシスと呼ばれる。それはさまざまな要因が重なって関係がもつれていった結果だが、その要因の中の一つに、母親に慣れない育児の負担がかかること、それに生理前の不調の不調が重なったことも考えられる。

心療内科クリニック「SAHANA Retreat Spa & Clinic」(東京都)院長の内田さやか医師は現状を説明する。

「産後うつによる母親の自殺や親子心中といった報道等をきっかけに、一般にも『産後うつ』という言葉が浸透し、出産前後のメンタルヘルスに関する取り組みの重要性がく知られるようになってきているように思います。しかし、そこにPMSは関連するのか、育児や夫婦関係にどう影響するかなどはまだ問題意識に至っていない部分もあると思います」

重要なのが、出産前後でPMS・PMDDの有無や程度は変わりうるという点だ。PMS・PMDDは、環境変化や精神的負荷の増加で発症・重症化する可能性が高いと言われている。

「ある研究によると、分娩1年後のPMDDの有病率は7.3%、中等度・重度のPMSの有病率は8.1%であり、そのPMDDの多くは、出産後に初めて生じた例であったとのことでした(注1)。背景には、出産後のホルモン変動がPMDDの発現に寄与していることが示唆されています」(内田医師)

つまり、妊娠前にPMS・PMDDでなかった人でも、出産後にPMS・PMDDを発症しうるということだ。出産後は生理的な変化が訪れるだけでなく、社会的な役割が変化する時期でもある。

「出産後は、慣れない育児が始まるうえ、『母親』という新たな社会的役割を担う大きな変化のとき。ただでさえ悩みも多く、不眠になりやすい時期に、妊娠前には経験していなかった月経前の不調や抑うつに遭遇するお母さんたちの辛さを、周囲の人は想像してみてあげてほしいと思います」(同)

実際、PMDDと産後うつの関連を示唆するデータもある。

「PMDDと産後うつ病は別の疾患ですが、PMDDでは有意にうつ病の併存率が高く、産後うつ病との関連も多く報告されています。『EPDS(ジンバラ産後うつ病質問票:産後うつのスクリーニング)のスコアは、出産後のPMSやPMDDの発生を予測するのか?』という研究(注2)もあり、その結果、EPDSが出産後のPMDDや重度のPMS の発生を予測する可能性があると結論づけています」(同)

EPDSのスコアで産後うつが早期発見でき、悲しい事件を防げるのなら、素晴らしいことだ。さらに内田医師は続ける。

「また、別の研究によると、月経困難症の傾向がある人は、月経期において、『子どもへの対応能力が低下する』『夫のサポートが十分でないと認識する』『生活に対する満足感が低い』という傾向がみられています(注3)。そのことから、虐待や夫婦喧嘩に発展することは十分に考えられます」

月経困難症とは、一般的には「月経痛」「生理痛」と呼ばれる症状だ。症状が重いと、痛みのために数日間寝込む人や、嘔吐を繰り返す人もいる。とても家事・育児どころではないだろう。

「『月経のつらさは慢するしかない!』と思わずに、生活に支障があれば、鎮痛薬や低容量ピルの使用をぜひ検討してみてください。そして、自分や家族、友人が『育児で追い詰められている』『虐待しているかもしれない』と感じた際には、189(児童相談所の虐待対応ダイアル)に相談し、自分や子どもを傷つける前にヘルプを求めてほしいと思います」(同)

■PMS・PMDDは「敏感な人がなりやすい?」

さらに私は、PMDDの女性は、HSPの傾向があると感じている。HSP(Highly Sensitive Person)は、「気質」を指す心理学の言葉で、生まれつき「非常に感受性が強く、敏感な気質の人」という意味だ。

「PMDDの発症に関しては、不調過敏などの性格特徴、家族との対人問題、ストレス対処行動としての飲酒との関連が認められている(注4)ことから、『もともとの女性の性格やストレスとの付き合い方』『もともとの夫婦関係』が、月経前の不調に影響を及ぼすことが考えられます」(内田医師)

不調過敏は、「自分の身体の不調にも敏感」ということ。PMDDの人は、自分の身体の小さな不調が、そうでない人より大きく感じてしまうのかもしれない。

「自分には『神経質すぎるところはないかな?』『夫婦で認め合い、支え合えているかな?』と、自分と家族を振り返ってみることが、自分の人生の充実や安定に繋がる鍵と言えそうです」(内田医師)

心当たりのある人は、できるだけ早く治療につながることが、自分だけではなく、家族や友人など、大切な人たちを守る近道だ。(旦木瑞穂)

<参考文献>

注1:Tadaharu Okano (2017). A prospective study of the pathogenesis of Premenstrual Mood Disorder

注2:Erina Takayama (2020). Relationship between a high Edinburgh Postnatal Depression Scale score and premenstrual syndrome: A prospective, observational study. Taiwan J Obstet Gynecol. 2020 May;59(3):356-360.

注3:島田 真理恵 (2009). 乳幼児を育児中の女性の月経随伴症状と子どもへの対応に関する検討, 日本助産学会誌, 23(1), 37-47.

注4:横瀬 宏美 (2005). 若年女性における 月経前不快気分障害の有病率と関連要因

旦木瑞穂

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