東大サッカー部と欧州プロクラブの提携 弁護士志望の3年生新米コーチはオーストリア短期留学で何を学んだのか

東大サッカー部と欧州プロクラブの提携 弁護士志望の3年生新米コーチはオーストリア短期留学で何を学んだのか

  • FOOTBALL ZONE
  • 更新日:2022/05/14
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21年8月、オーストリア2部のFCヴァッカー・インスブルックとパートナーシップを締結した東京大学運動会ア式蹴球部【写真:岡本康太郎】

オーストリア2部インスブルックで分析力に長けた東大生たちが相手をスカウティング

東京大学運動会ア式蹴球部(体育会サッカー部)の3年生、岡本康太郎は入部から2年間テクニカルスタッフとしてチームの分析を担ってきたが、今年度からトップチームのコーチに就任した。今年3月には“提携先”のオーストリア2部FCヴァッカー・インスブルックへ短期留学を果たした。将来は弁護士志望だという新米コーチはオーストリアで何を学び、何をア式蹴球部にもたらすだろうか――。(取材・文=石川遼)

◇   ◇   ◇

ア式蹴球部は昨年8月、オーストリア2部のFCヴァッカー・インスブルックとパートナーシップを締結。インスブルックU-23チームを率いるモラス雅輝氏が“国内最大規模(20人の専門分析官)”のア式蹴球部テクニカルユニットの存在に注目したことがきっかけとなって実現したものだった。分析力に長けた東大生たちはモラス氏の率いるインスブルックU-23チームで対戦相手の分析やスカウティングを行ってきた。

昨年10月にモラス氏がインスブルックのトップチーム暫定監督に就任した際には、指揮を執った6試合で試合のリアルタイム分析と対戦相手のスカウティングも担当した。日本時間の深夜に現地の試合映像を見ながら部員同士でZoomをつなぎ、映像を使ってハーフタイムにチームへ改善点をフィードバック。試合後にはトップチームの次の対戦相手の映像を編集し、ドイツ語で字幕を付け、LINEを使って動画を送った。

日本とオーストリア。コロナ禍ということもあり、遠く離れた場所からリモートでの交流が続いていたが、今年3月にスタッフの中でインスブルックとの提携を中心で担っていた岡本がオーストリアへと渡った。岡本はインスブルックに約3週間滞在し、モラス氏のU-23チームに帯同。分析を手伝いながら、U-12、U-15、U-18、女子、トップチームとさまざまなカテゴリの練習を見学した。充実した時間は嵐のように過ぎていったという。

テクニカルからコーチへ、心に刻むナーゲルスマンの言葉

岡本はテクニカルスタッフとしてア式蹴球部に入部し、2年間は分析を担当。今年度からトップチームのコーチに着任した。ア式蹴球部ではトップチームのコーチはOBの大学院生が務めるのが慣例となっているが、今年は人手不足だったこともあり、テクニカルとして林陵平監督からの信頼が厚かった岡本に白羽の矢が立ったという。

テクニカルスタッフからコーチへの転向について岡本は「まだまだですが、やりがいは感じています」という一方で、「前監督の山口遼さん(現Y.S.C.C.セカンド監督)はまさにカリスマ性があるタイプでしたし、去年までヘッドコーチをしていた吉本(理)さんは選手からの信頼がとても厚かったです。今の監督の陵平さんは元プロで経験豊富、すごく威厳もあります。でも僕はまだ3年生だし、別に元プロでもなんでもなく戦術のことをちょっと知っているだけ」と、実績がないなかで指導する立場への葛藤も口にしている。

しかし、インスブルックでモラス氏の指導に間近に触れた経験は指導者としてのスタンスに早速影響を及ぼしているようだ。前任者と同じ土俵に乗るのではなく、「自分はありのままで、良い部分をみんなに認めてもらえるような形を目指せばいいのかなと思っています」と前向きに言葉を紡いだ。

「最近は自分の中で、特に選手との接し方の部分を意識して変えてみています。インスブルックで実際にモラスさんが指導している姿を見ていると、選手とのコミュニケーションの取り方やチーム全体のマネジメントの部分がすごく参考になりました。僕は元々テクニカルスタッフとして入ったのもあって知識が戦術に偏っているし、選手のモチベートの部分は絶対的に欠けていると認識していました。モラスさんは本当に選手1人1人と向き合って接していました。バイエルン・ミュンヘンの(ユリアン・)ナーゲルスマンが『監督の仕事は戦術が3割、マネジメントが7割』という話をしていましたが、まさにそのことだなと実感しています。

僕は今、ア式のトップの中でもセカンドチームの選手たちを見ています。試合にスタメンで出られるわけではないけど、Bチームに落ちるほどではない“中間のポジション”にいる選手たち。彼らはプレーのこと、自分の立ち位置のことでいろいろと葛藤する部分が多いですし、そういう選手たちをどのようにモチベートし、前を向いてもらうべきか考えながら実践している最中です」

インスブルックで「トランジションの重要性に気付かされた」

マネジメントだけでなく、サッカーの面においても受けた刺激は大きかった。東大ア式蹴球部は伝統的に最終ラインからボールをしっかりとつないでいくポゼッションサッカーを志向する一方、モラス氏が率いるインスブルックのU-23チームはRBライプツィヒ(ドイツ)やレッドブル・ザルツブルク(オーストリア)などレッドブル・グループの代名詞とも言える“縦に速い”スタイル。岡本はそのスタイルの違い以上に、練習段階での意識の違いを感じ取ったという。

「ア式ではポゼッションの練習でもボールタッチに制限を設けたり、グリッドを必要以上に狭くし過ぎることはしません。でも、モラスさんはあまり普通のロンドはやらないですし、ひたすらに狭いエリアでインテンシティーを高くする練習が多かったのが印象的です。日本だとあまりないかもしれないですが、ほぼすべての練習にトランジションが入っている。どちらが正解ということではなく、それぞれの良さがあると思うんですけど、いろいろな考え方があることを知れたことは大きかったと思います。

モラスさんに、インスブルックの選手たちは自分たちの試合映像を見返すのかを聞いたら、それはやはり人それぞれだと言っていました。向こうの選手たちは細かい立ち位置だったり戦術の細部にまでこだわっている印象はあまりなかったのですが、特に守備面におけるボールに対する意識や、奪いにいく守備の部分はとてもしっかりしていると感じました」

インスブルックで「トランジションの重要性に気付かされた」という岡本は「実際に基準となるものを見れたのは大きかったです。実際にそのサッカーを実践するにあたってどういう練習が必要なのか、どのような原則があるのか、どういった声がけをするのか、そういった部分で頭がすごく整理されました」と現地に行ったからこそ得られたものは大きいと強調する。帰国後、いいトランジションの場面を集めた動画集をア式蹴球部の選手に見せるなどインスブルックでの成果を早速“布教”しているという。

「ちょっと洗脳されちゃいましたね(笑)。でも、陵平さんも切り替えの部分は本当に大事にしていますし、欧州のトップレベルを見ていてもスタイルとして確実に両立しなければならないものではあるはずなので、上手い形でミックスしていければいいなと思います」

ア式蹴球部は昨シーズン、東京都大学サッカーリーグ1部で最下位に終わり、今季から2部リーグで1部再昇格を目指して戦っている。インスブルックのエッセンスが加わった東大生軍団はどのような変化を遂げていくのか。今後に注目だ。(石川 遼 / Ryo Ishikawa)

石川 遼

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