「大谷翔平」、じつはメジャーリーグで「もっとも勝負強い打者」だった...!

「大谷翔平」、じつはメジャーリーグで「もっとも勝負強い打者」だった...!

  • 現代ビジネス
  • 更新日:2023/03/19
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WBCが開幕した。大谷翔平やダルビッシュ有といった、メジャーリーグのスター選手も参戦し、日本中がこの祭典に熱狂している。

では、そんな野球に必勝法はあるのだろうか? 統計学的にその答えを追求し、メジャーリーグの「お荷物」を常勝軍団に変身させ、一躍その名を知られた「セイバーメトリクス」。その進化はとどまるところを知らず、野球場で起きているあらゆることを「数字」にするため新しい指標が次々に考案されている。さらにテクノロジーの発達は、選手やボールの動きの精密な計測を可能にし、それらビッグデータの解析によって、野球というスポーツの本質さえ解き明かそうとしている。はたして野球とは、どのような競技なのか?

日本のセイバーメトリクス研究の第一人者がRSAA、wRAA、UZR、UBR、フレーミングなどの新指標を駆使しながら、本当に勝利に結びつくプレーと戦術について考察する。

*本記事は『統計学が見つけた野球の真理 最先端のセイバーメトリクスが明らかにしたもの』(ブルーバックス)から抜粋しています。

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「勝負強さ」をいかに評価するか

「記録よりも記憶に残る選手」と称される選手がいる。一打逆転の場面でヒットを放ち、チームを勝利に導く確率が高い打者であるとか、ノーアウト満塁の場面で登板し、0点で抑える確率が高い投手といった、印象に残りやすいシチュエーションで結果を残すタイプの選手は確かにいるものである。

そういったタイプの選手であるかどうかを指標化しようとする試みは、セイバーメトリクスでも行われている。いわゆる「勝負強さ」と呼ばれるものの数値化である。数値化されれば、その選手に内在する「勝負強さ」が可視化され、打者なら代打で、投手ならリリーフで起用する根拠となる。

これまで、「勝負強さ」の指標については、さまざまな提案がなされてきた。とくに打者の勝負強さの指標は数多くあるが、代表的なものとしては「勝利打点」や「得点圏打率」が挙げられる。

「勝利打点」とは、その試合の最後の勝ち越しとなる得点を得たときに、打者に打点が記録されればその打者に対して記録された指標である。1981年からNPBでは公式記録となったが、その打点が試合における最も効果的な得点であるかどうかが曖昧であるケースが散見された。たとえば、ある打者が先制の1点を内野ゴロによる打点で入れ、そのあとに別の打者が満塁本塁打で4点を追加して、5‐0になったとしよう。その後、相手チームに4点を入れられて、5‐4での勝利となった場合、「勝利打点」は最初に内野ゴロで打点を挙げた打者に記録されることとなる。しかし、その試合を決定づけるプレーをしたのは、満塁本塁打を打った打者なのではないだろうか。

そういった議論などがなされた結果、「勝利打点」は1988年を最後に廃止されている。そもそも打点という記録が、セイバーメトリクスでは個人の記録として重要視されていないのは前述の通りである。

「得点圏打率」とは、ランナーが二塁、もしくは三塁にいる場面においての打率を指す。

公式記録には採用されていないものの、報道や野球中継などで紹介されることの多い指標である。1960年代に活躍した長嶋茂雄(ジャイアンツ)は、通算打率が.305であるのに対し、得点圏打率は.314であったことから「勝負強い打者」といわれているが、実は同時期に同じジャイアンツで活躍した王貞治は、通算打率.301に対し、得点圏打率は.323と、長嶋より高く、打率との差も大きい(『ON記録の世界』宇佐美徹也著 読売新聞社よりデータ引用)。

とはいえ、得点圏打率が高い打者が「チャンスに強い打者」と評されることは多いのだが、はたしてその特性は、その選手に内在するものと言ってよいのだろうか。

例を挙げてみる。2021年シーズンの梅野隆太郎(タイガース)の得点圏打率は.321で、シーズン打率.225に比べて1割近くも高い。そのため実況者が「チャンスに強い梅野」とシーズンを通じて紹介していた。しかし、前年の2020年、梅野の成績は、

打率 .262  得点圏打率 .197

と、得点圏打率が2割を下回っているのだ。

この現象は梅野に限らず、他の選手にも多く見受けられるもので、2020年と2021年の得点圏打率の相関係数を求めると0.33であり、その相関関係は弱いとみなされる。

その大きな要因は、得点圏にランナーをおいての打席数がシーズンを通じて少ないということである。得点圏での打数は、通常の打数の約5分の1から6分の1程度であり、母数が少なければ標本比率が安定しないというのは、統計学の知見からしても当然のことなのである。

勝利確率とWPA

では、セイバーメトリクスでは選手の「勝負強さ」をどのようにして測ろうとしてきたのだろうか。

その一つの考え方に「勝利確率」(Win Expectancy:WE)というものがある。勝利確率とは、イニング、アウトカウント、塁状況からなる各シチュエーションにおいて、当該チームがどのくらいの確率で勝利できるかを示す数値である。古くはリンゼイの論文において、イニング終了時の勝利確率を求める数式が提示されているが、コンピュータの発達、プレイデータの蓄積により、勝利確率を求めるアルゴリズムが構築され、各シチュエーションにおける勝利確率を求めることができるようになった。

ちなみに、得点期待値や得点確率の観点から論じられてきた犠牲バントの効能については、勝利確率の観点からも論じることができる。無死一塁という状況での勝利確率と、バント後の1死二塁という状況での勝利確率を比較すると、どのイニングにおいてもバントによって勝利確率が上昇する場面はないことが判明した。

閑話休題。さて、この勝利確率を用いて、選手のプレーがどれだけ勝利確率を増減させたかによって、選手の貢献度を測ろうとする考え方が提案された。「WPA」(Win Probability Added)である。

WPAとは、

状況変化後のWE-状況変化前のWE

で求められる変化量の累積という意味である。たとえば、

1回裏に先頭打者が一塁に出塁して、次の打者が2ラン本塁打を打ったとすると、

1回裏 同点無死ランナー一塁のWE…0.5849
1回裏 2点リードで無死ランナーなしのWE…0.754

とWEが変化するので、この本塁打は

0.7548-0.5849=0.1699

ほど勝利確率を上昇させたプレーと評価される。

それに対し、8回裏1点ビハインド2死一塁という状況で2ラン本塁打を打つと、

8回裏1点ビハインドで2死一塁のWE…0.1778
8回裏1点リードで2死ランナーなしのWE…0.8006

と、急激に勝利確率を上昇させることができる。その差は、0.6228にもなる。

さらに、8回裏5点リード1死二塁からの2ランを見てみると、

8回裏5点リード1死二塁のWE…0.9983
8回裏7点リード1死ランナーなしのWE…0.9997

となり、勝利確率の上昇は0.0014だけしかない。

同じ2ラン本塁打であっても、状況によってその重要度は変化する。変化量は、緊迫した状況では大きく、ほぼ勝利が決したような状況では小さくなる。勝利確率を大きく上昇させる打者、もしくは相手の勝利確率を大きく減少させる投手を評価するための指標がWPAなのである。

2021年のMLBにおいて、打者・大谷翔平のWPAは5.18である(+WPA 14.15、-WPA-8.97)。じつは、これはMLBの打者の中で最も大きい数値である。つまり、大谷はメジャーで最も勝利確率を上昇させる打撃結果を残した打者といえるのである。

ただし、WPAを用いて選手を比較することにも課題はある。WPAが上昇しやすい状況で打席に立てるかどうかは、選手の意志で選べるわけではない。チームで中軸を任される打者は、それだけWPAを大きく上昇させるシチュエーションに立ちやすい。したがってWPAは個人能力を評価する指標というよりも、いかに試合で活躍したかを測る指標として用いるべきである。

さらに連載記事<「大谷翔平」、なんと「全メジャーリーガー」のなかで、じつは完全に「トップ」の成績を残していた…!>では、大谷翔平の実績を統計学の観点から解説する。

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