論拠が薄い「ヨーロッパ的な自由競争」原理導入【改革へと動き出したJリーグ】(4)

論拠が薄い「ヨーロッパ的な自由競争」原理導入【改革へと動き出したJリーグ】(4)

  • サッカー批評Web
  • 更新日:2023/01/26
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Jリーグの進むべき道は、もっと活発に議論されていいはずだ 撮影:中地拓也

2023年シーズン、Jリーグは改革へと動き出す。各クラブ、さらには日本サッカーの将来を大きく左右し得る変化がもたらされるのだ。だが、その明確な理由や是非については、まだ議論になっていない。Jリーグの進むべき道について、サッカージャーナリスト・後藤健生が考察する。

■正反対な米欧の考え方

サッカーの世界は基本的には「弱肉強食」の競争社会である。強いチームは収益が増える。そして、その資金を使ってますます強くなる……。逆に、強化やクラブ経営に失敗すれば下部リーグに降格し、最終的にはクラブが消滅してしまうこともある。

それが、サッカーの世界の考え方なのだ。

一方、アメリカ(合衆国)のプロ・スポーツの考え方はまったくそれとは逆だ。

各クラブの実力を接近させて「共存共栄」を図ることによって、リーグ全体を繁栄させるという考え方である。

アメリカのプロ・スポーツは、サッカーのMLSも含めてウェーバー方式の「ドラフト制」(新人選手の指名精度)を実施している。つまり、最下位チームから順に新人選手を指名して独占交渉権を獲得するのだ。弱いチームから順に有望な新人選手と契約できるようにすることによって戦力を均等化するのだ。

もちろん、アメリカのメジャースポーツの場合でもチームによっての戦力差は大きい。だが、“理念”としてはなるべく戦力を均等化させようというのだ。そのための方策が「ドラフト制」であり、また年俸の上限を決める「サラリーキャップ制」なのだ。

■スポーツ界と社会生活のねじれ現象

ヨーロッパ諸国とアメリカの、この考え方の違いは考えてみると非常に興味深いものだ。

なぜなら、ヨーロッパ諸国は(国によってもちろん違いは大きいが)、基本的には社会民主主義的な社会を目指している。高額の所得税を課して福祉政策を推し進めることによって“富の再配分”を目指す社会である。「大きな政府」による「高負担・高福祉」の社会だ。

一方、アメリカは「自由競争」の社会だ。連邦政府は「小さい」政府が望ましいと、アメリカ国民は考えている。バラク・オバマ元大統領が推し進めた「国民皆保険」制度ですら、「社会主義的だ」と強く批判されたほどだし、国民は銃を持って武装する権利を持っている。

だが、スポーツ界の考え方はそれぞれの社会とは正反対であり、ヨーロッパのサッカーは「自由競争」。アメリカのプロ・スポーツ界は「共存共栄」を目指しているのだ。

ヨーロッパのサッカー・リーグでは経営や強化に失敗したクラブは降格して、最終的には消滅することすらあるが、アメリカのチームはどんなに弱体化してもリーグにとどまっていることができる。

■尽くされていない議論

30年前に発足した当時、日本でプロサッカーリーグが成功するかどうかが危ぶまれていた。そんな状況だったので、Jリーグはヨーロッパのような「自由競争」原理を導入しなかった。クラブの呼称やユニフォームの色までリーグ主導で決定して、「共存共栄」を目指す“護送船団方式”が採用された。実際、Jリーグの規約はヨーロッパのサッカー・リーグだけではなく、アメリカのプロ・スポーツも参考にして作られた。

それから30年。Jリーグは、ようやくよりヨーロッパ的な「自由競争」原理の導入に踏み切ろうとしているのである。

だが、この「結果配分」中心へのシフトの問題についても世間の関心は低いようで、反対論はあまり聞こえてこない。

しかし、議論すべき論点はいくらでもあるはずだ。

「ビッグクラブ」方式は日本に相応しいのか? 「結果配分」に切りかえれば、本当にJリーグの強豪クラブは「ビッグクラブ」化できるのか? 弱小クラブへの影響はどうなるのか? 「自由競争」が理想だとしても、時期尚早なのではないのか? 「ヨーロッパのサッカー界がそうだから」というのでは、あまりに論拠が薄い。

Jリーグにとって、それが正しい道なのか否か、本当なら大いに議論すべき問題だと思うのだが……。

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後藤健生

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