
低温低湿な環境では、新型コロナウイルスは様々なモノの表面で長期間感染力を維持する。中でもトイレは感染の危険度MAXだ(撮影/写真部・小黒冴夏)
低温低湿な環境では、新型コロナウイルスは様々なモノの表面で長期間感染力を維持するという。中でもトイレは感染の危険度MAXだ。AERA 2021年3月1日号では、専門家による新型コロナ感染予防の最新知見を取材した。
【図を見る】ガラス表面に付着した新型コロナウイルスは低温・低湿な状況で感染力が持続する
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「新型コロナウイルスについては、この1年で分子構造、免疫特性から臨床症状まで非常に詳しくわかり、多くの点で『既知のウイルス』になっている。医療崩壊を招いているのは行政のミスなどによる人災です」
大阪市立大学名誉教授で分子病態学が専門の井上正康さん(75)はこう言い切る。
■トイレでの感染が危険
井上さんは国内外の大学で活性酸素や感染防御学を長年研究し、最近は難病治療法として期待がかかる腸内菌移植の研究に取り組んできた。しかし、新型コロナの感染受容体が腸管に最も多く、便が重要な感染源となりうることが明らかになったため、専門の腸内菌移植医療にブレーキがかかった。
そのため、井上さんは日々新型コロナに関する最新医学論文に目を通し、臨床情報の分析を続け、昨年10月に『本当はこわくない新型コロナウイルス』(方丈社)を出版した。
井上さんが、ウイルス感染の「現場」として最も注意するべきだと指摘するのは、意外にもトイレと、モノの表面だ。
コロナウイルスの受容体であるACE2(アンギオテンシン変換酵素)は腸管に最も多く、肺の5倍以上、食道や舌の10倍以上に及ぶという。ウイルスは便と共に排出されるため、トイレが感染の現場になる可能性が高い。そのため家庭ではトイレのこまめな清掃と洗浄を心がけ、家以外でもトイレを使ったら丁寧に手洗いすることが重要だ。
トイレが感染の現場になりやすいもう一つの理由が、新型コロナを含むRNAウイルスが、低温・低湿な状況では物質の表面で長時間にわたり感染力を維持しやすいという特性だ。
低温低湿の環境では、ドアノブや手すり、金属やガラスの表面などでは2週間近く安定であり、紙の表面(紙幣や段ボール)やマスクにも残存しやすい事がわかっている。
「新型コロナの特徴は、モノを介して時間差攻撃的に感染することです」(井上さん)
これまでの感染予防は人との接触に注意が向きがちだったが、実は「人→モノ→人」という感染経路にも、最大限の注意を払う必要がある。特に腸から大量のウイルスが排出されている可能性があるトイレや下水が最も危険というわけだ。
ただ、どんなに気を付けても、外出中に何も触らないのは至難の業だ。だからこそ、帰宅直後の手洗いとうがいを徹底したい。鼻粘膜のウイルスを除去するために、生理食塩水を常備して帰宅時にスポイトなどで鼻腔内を洗う「鼻洗浄」も極めて有効な対策だという。
「お茶は古くから抗菌作用が知られていますが、最新の分子科学的研究で、お茶のポリフェ
ノールがコロナウイルスのスパイクたんぱくに強く結合して感染を予防する可能性が報告されています。お茶でうがいをするのもおすすめです」(同)
新型コロナを含むRNAウイルスは、前出のとおり低温低湿で生き延びやすく、逆に高温多湿では分解しやすい弱点を持つ。そのため、冬場に過度に換気をして、低温低湿な状態を作ることは感染防止には逆効果となる。
「室内はきちんと暖房をして、やかんや加湿器で十分な湿度を保ったほうがウイルスが分解しやすくなります」(同)
私たちは換気が行き届いてひんやりと乾いた空気に安心を感じてしまいがちだが、カビなどと異なりRNAウイルスは暖かくもわっとした部屋のほうが苦手なのだ。(編集部・大平誠)
※AERA 2021年3月1日号より抜粋
大平誠