連載「lit!」第50回:Ado、SUPER BEAVER、sumika......さらなるブレイクスルーの実現を確信させるロックチューン

連載「lit!」第50回:Ado、SUPER BEAVER、sumika......さらなるブレイクスルーの実現を確信させるロックチューン

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  • 更新日:2023/05/26
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Ado『いばら』

週替わり形式で様々なジャンルの作品をレコメンドしていく連載「lit!」。この記事では、ロックを中心に、この春にリリースされた日本の新作を5つ紹介していく。

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まず一つ目の作品としてピックアップしたのが、Vaundyが制作を手掛けたAdoの新曲「いばら」だ。詳しくは後述するが、最強のタッグが再び実現したこの曲が、2023年の日本の音楽シーンにおいて大きな存在感を放ち続けていくことは間違いないと思う。また、現行のフェスシーンを力強く牽引するバンドであるSUPER BEAVER、sumika、緑黄色社会の新作も、それぞれ素晴らしい。そして、すでにさらに新しい世代のアーティストたちが次々と台頭していて、今回はそうしたニューカマーたちの作品の中からNEEの新作をピックアップした。彼らの新作は、今後のさらなるブレイクスルーの実現を確信させてくれるような突出したクオリティを誇る傑作だ。

この記事が、日々目まぐるしいスピードでアップデートされ続ける日本のロックシーンの「今」にキャッチアップするきっかけ、もしくは、理解を深めるうえでのひとつの手掛かりになったら嬉しい。

■Ado「いばら」
Adoが今の日本のミュージックシーンにおいて、「次はどのアーティストから楽曲提供を受けるのか」を最も注目されているシンガーのひとりであるとしたら、Vaundyはシンガーとしての活動に加え、「次はどのアーティストに楽曲提供をするのか」を最も注目されているコンポーザーのひとりであると言えるだろう。それゆえに、昨年の「逆光」に次ぐ形で両者による2度目のタッグが実現すると知った時は、胸の高まりを押さえきれなかった。そして、実際に生み出された「いばら」を聴いて、そのまっさらな響きを放つ歌声とサウンドに驚かされた。“真っ向勝負”というワードこそが、この曲を形容するのに一番ふさわしい言葉かもしれない。今回Vaundyが送り届けたのは、快活にしてシンプルなロックチューン。Adoのディスコグラフィの中でも、特に無防備な佇まいの楽曲とも言える。このトラックこそが、彼女が持って生まれたありのままのエモーションを、かつてないほどに剥き出しにしたような新たな歌声を引き出した。

Adoに対して、孤高で未知数な存在というイメージを持つ人は今もなお多いかもしれないが、この楽曲を介することで、彼女の実存をグッと近くに感じ取ることができるはずだ。Adoの新たな一面を見事に引き出したVaundyのプロデューサー的な観点にはあらためて驚かされるし、何より、彼が仕掛けた真っ向勝負にがっつり挑み、またしても新たな歌で魅せたAdoのポテンシャルも本当にすごい。

■SUPER BEAVER「グラデーション」
今から約2年前にリリースされた「名前を呼ぶよ」は、SUPER BEAVERの信念を凝縮した渾身の一曲であり、その後すぐに彼らにとっての新たな代表曲となった。あの楽曲は、バンドと映画『東京リベンジャーズ』との運命的な邂逅をきっかけとして世に送り出されたものであり、同映画シリーズと2度目のタッグが実現した「グラデーション」には、配信リリース前から大きな期待が寄せられていた。一聴して真っ先に、またしても渾身の楽曲が生み出されたのだと感じられる。映画『東京リベンジャーズ2 血のハロウィン編 -運命-』の主題歌という役割を持ちながら、過度に映画の物語に寄り添いすぎることはなく、今バンドが歌い届けるべきことをストレートに歌にしたら、それがそのまま最高の主題歌となった。

では、今バンドが歌い届けるべきこととは何だったのか。それを、曲中の〈僕ら笑い合いたいだけ〉という一節であると結論づけることもできるが、しかしこの曲において本当に大切なのは、その結論に至るまでのプロセスである。渋谷龍太(Vo)は、喜怒哀楽といった言葉では決して形容できないような、えも言われぬ感情をありのまま肯定しながら、〈曖昧の中から  愛を見つけ出せたなら〉と歌う。この曲においては、ソリッドなバンドサウンドと昂るストリングスの音色が全編にわたってほとばしっているが、その熾烈さの中から温かな優しさをたしかに感じ取ることができる。長い人生を生きるうえでは、時に自分の感情さえもわからなくなってしまうような時もあるだろう。その時、きっとこの曲が、あなたの一番の味方になってくれるはずだ。

■sumika「Starting Over」
ライブにおける声出しの全面解禁を受けて、ここ数カ月におけるひとつの傾向として、観客のシンガロングパートを大胆に組み込んだ楽曲のリリースが増えている。その中でも、特にこの曲は「観客に託す」度合いが突出している。1番のサビ前以降のほとんどの箇所にシンガロングのパートが挿入されていて、しかも2番サビを終えたあとの〈喜びや悲しみや〉以降のパートが特に顕著であるように、観客のシンガロングが楽曲の中核を担う度合いが後半に進むにつれてどんどん高まっていく。観客のことを心の底から信じ抜いていなければ作れない構成の楽曲であり、つまりこの曲は、sumikaがファンのことを何よりも強く信頼している輝かしい証なのだ。この曲は、先日の横浜スタジアム公演のアンコールでライブ初披露された。筆者はその場に立ち会うことはできなかったが、今後、数々のライブやフェスのステージでこの曲が披露されるのが今から楽しみで仕方がない。

そして、数あるリリックの中でも筆者が特に強く心を動かされたのが、先ほども引用した〈喜びや悲しみや/苦しみも全部持って/憧れや羨みも/隠さずに持っていって〉〈諦めのその逆を/血の滲むような強さで/抱きしめて捕まえて/もう二度と離さないで〉という一節だった。大きな悲しみを経て、再び力強く走り出したsumikaが、今この曲を高らかに歌い上げることの意義はあまりにも深い。新たな〈僕らのストーリーを〉描き出した彼らを、全力で応援し続けたい。

■緑黄色社会『pink blue』
新たな代表曲となった「キャラクター」を含む3枚目のアルバム『Actor』がリリースされたのが昨年の1月。それから4人は怒涛の勢いで結成10周年イヤーを駆け抜けながら、9月には初となる日本武道館公演2DAYSを見事に成功させた。また、年末には初出場となった『NHK紅白歌合戦』で「Mela!」を披露し、その存在感をさらに高めてみせた。きっと、こちらの想像を絶するほどに目まぐるしい1年間だったと思う。だからこそ、約1年4カ月というハイペースで4枚目のアルバムがリリースされると知った時には驚いた。そして、収録されている多彩な輝きを帯びた全12曲を聴いて、現状に満足せず、ここからもっとギアを上げて走り続けていくという4人の鮮烈な意志を感じた。まず、すべての楽曲が全方位に向けて鮮やかに開かれていて、長屋晴子(Vo/Gt)の歌声は今まで以上に射程を広げている。それは、もっとたくさんの人へ、もっと遠くへ自分たちの音楽を届けたいという想いの表れでもあるだろう。

また、サウンドデザインの面においても挑戦が数多く見られ、特に「うそつき」が象徴的なように、今作には心の奥底に優しく沁みわたるような清廉な響きを放つ楽曲たちが数多く収録されている。一方、「Starry Drama」をはじめとした、いまだ見ぬポップの地平へ向けて力強く突き抜けていくような楽曲たちは、今まで以上にポップソングとしての強度を増している。圧巻だ。武道館も『紅白』もひとつの通過点にすぎない。4人が掲げ続ける「国民的バンドになりたい」という願いが、いよいよ真の意味で結実する日は近いのだと確信させてくれる、素晴らしいポップアルバムだ。

■NEE『贅沢』
今作については、筆者が担当しているもうひとつの連載「本日、フラゲ日!」(※1)でもレビューを書いたので、本記事と合わせてそちらもチェックしていただけたら嬉しいが、その際に書き切れなかったことが多かったので、あらためてこの連載でもピックアップした。結論から書いてしまえば、今回のNEEの2ndアルバムは、とてつもない覚醒感を放つ傑作であると思う。約2年前、1stアルバム『NEE』を初めて聴いた時も、全編にみなぎる凄まじいエネルギーに圧倒されてしまったし、同時に、このバンドはこれから先ライブを重ねていく中で、さらに化けていくはずであると確信した。実際に彼らは、数多のライブやフェスのステージに立つことでたくましく成長し、現在のロックシーンにおける台風の目とも呼ぶべき存在感を誇るようになった。

先ほど用いた“覚醒感”という表現は、彼らが数々のライブを重ねてロックバンドとして何段階もビルドアップしてきたという意味であるが、決してそれだけではない。既発曲の「本日の正体」、「バケモノの話」をはじめ、堂々たるアンセミックなメロディを誇る曲が増えたし、特に「月曜日の歌」は、すでにライブにおける新たなアンセムと化している。何より、今作のリード曲「生命謳歌」が象徴的なように、くぅ(Gt/Vo)が綴る同じ時代を生きるリスナーへ向けたメッセージは、前作以上に鋭く磨き上げられている。彼らが、今後のロックシーンを力強く牽引していく最重要バンドの一組となっていくことは間違いないだろう。

※1:https://realsound.jp/2023/04/post-1311759.html

(文=松本侃士)

松本侃士

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