自民こそ既得権益集団だ。学術会議バッシングに勤しむ政治屋の面々

自民こそ既得権益集団だ。学術会議バッシングに勤しむ政治屋の面々

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  • 更新日:2020/11/20
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日本学術会議の任命拒否問題についてその説明責任を果たさぬどころか、同会議について既得権集団とまで言い出した菅首相。国民の生活よりも党内出世を優先するかのような自民の議員たちもこぞって同じような声を上げ、首相への擦り寄りに余念がありません。この「惨状」に疑問を呈するのは、元全国紙社会部記者の新 恭さん。新さんはメルマガ『国家権力&メディア一刀両断』で、そもそも現在の会員選考方法は二度の法改正を経たものであるという事実を紹介した上で、未だ任命拒否理由を説明せず、学術会議の組織的問題にすり替えている菅官邸こそがブラックボックス化した組織ではないかと強く批判しています。

日本学術会議は既得権集団なのか

しつこいようだが、日本学術会議の会員候補への任命拒否は、総理大臣による違法行為である。「人事については差し控える」の一点張りで、任命しない理由をいっさい説明しないのは、問答無用の強権発動であり、少なくとも民主主義国家を標榜する以上、許されない。

話は以上で尽きるのだ。学術会議のあり方、体質、会員選出方法など、設立当初から議論されてきたテーマは、ひとまず横へ置いておかねば話がズレてしまう。

にもかかわらず、やれ左翼イデオロギーの巣窟だの、軍事研究への反対は学問の自由の侵害だのと、一面的な見方による学術会議バッシングが世にはびこっている。

菅首相に至っては、「既得権集団」と決めつけるのだが、何が既得権なのかははっきり言わない。学術会議会員というステータスをもってそう言うのなら、国会議員という地位を代々受け継いでいる議員の多い自民党などは、真っ先に切り込まねばならない「既得権集団」であろう。

実際はそんなことではなく、安倍政権の官房長官であったころから、タカ派的政策に批判的な学者を目の敵にしていて、今回、そのケのある6人を見せしめとして血祭りにあげただけなのだ。それをごまかし、正当化するための「既得権集団」論が自民党内では幅を利かしているようである。

11月2日の衆院予算委員会における、菅首相と大塚拓議員(自民党)のやりとりは、その一端を見せつけた。

まず大塚議員は人文・社会科学系の学者をターゲットと定めた。

「学術会議(会員210人)は第一部(人文・社会科学)、第二部(生命科学)、第三部(理学・工学)、各部70人づつに分かれているが、第三部に対応する研究者数が全研究者(約89万人)の7割も占めているのに、第一部に対応する研究者は1割に過ぎない。計算すると、人文・社会科学の人たちは理学・工学の人たちより6倍、会員になりやすい」

そして、さらに狙いを絞りこむ。主張の概略はこうだ。

「うち法学・政治カテゴリーの会員は21人(研究者総数8,177人)なのに、電気・電子工学は4人(同15万3,900人)で、100倍違う。偏っている。既得権化している。ブラックボックスになっている。選考プロセスに問題がある」

法学・政治は389人の研究者に対し会員一人。電気・電子工学はそれより100倍多い3万8,475人に対し会員一人というわけである。

この論法でいくと、法学・政治分野の会員はほとんどいらないということになる。なにしろ、圧倒的に理系の研究者が多いのだ。国会議員の選挙のごとく「一票の格差」論めいたものを当てはめるとなれば、学術会議に人文・社会科学系の会員が極端に減り、それこそ偏ってしまうだろう。ちなみに、歴代会長はほとんど理系の学者がつとめていて、どうみても法・政治学分野の意見が強く反映されてきたとは思えない。

さて、ざっと以上のように議論を進めてきた大塚議員は、菅首相に、こう水を向けた。

「選考方法を厳しく見直さないと、身内のお手盛り、既得権集団がポストをたらいまわしにしているという批判は免れない。こういう中で初めて先例によらず推薦者全員を任命しない決断をされた。やれば既得権集団から強い反発が出てくることはあらかじめ予想されたこと。難しい判断、どのような思いで決断されましたか」

菅首相はしたり顔でこう答えた。

「私自身も官房長官当時から、この選考方法に懸念を持っていた。…会員約200人、連携会員約2,000人とつながりを持たなければ全国で90万人の方が会員になれないような仕組みになっている。ある意味では閉鎖的で既得権益のようになっているのではないか。正直言ってかなり悩んだが、推薦された方をそのまま任命する前例を踏襲するのは今回はやめるべきだと判断した」

なにか、よほど日本学術会議がブラックな集団であるかのごとき言いまわしだ。

この質疑で、はっきりしたのは、菅首相がいかに今回の任命拒否についてじっくり考えを巡らせていたかということである。「正直言ってかなり悩んだ」という言葉がそれをあらわしている。

11月5日の参院予算委員会では、二之湯智議員(自民)にこう答弁した。

「以前は学術会議が会員候補者名簿を提出する前に、さまざまな意見交換がおこなわれるなかで、内閣府の事務局と会議の会長との間で一定の調整が行われていた。一方、今回の任命に当たってはそうした調整が働かず、結果として学術会議から推薦された者のなかで、任命に至らなかった者が生じた」

2017年の会員半数改選にあたり、当時の大西隆会長を呼んで、杉田官房副長官らが説明を聞いたこと。今年、すなわち20年の改選では、当時の山極会長にいっさい声をかけなかったことを指しているのだ。なぜ山極会長に説明を求めなかったかは謎だが、「前例を踏襲するのは今回はやめるべきだと判断した」という、菅首相の答弁からみて、いちどは任命拒否という行為そのものをやってみたかったのかもしれない。

さて、ブラックボックスだの既得権集団だのと罵倒された日本学術会議では、梶田会長が記者会見し、若手の研究者が会員になっていないとか、会員の出身大学が旧帝大に偏っているという菅首相の指摘に反論した。

「若い研究者に学術会議に参加して活動をお願いすることが本当に望ましいことなのかはきちんと考える必要がある。…若い研究者は専門分野の研究に専念するもの」「大学には規模や性格の違いがあるため、偏りが出るのは自然だ」

もっともな考えだが、この反論はいささか紳士的すぎる。外された会員候補6人を任命するよう、要望書を菅首相に手渡しているのに、ナシのつぶてだ。どうしても任命しないというなら、その理由の説明を再度、強く求めるべきである。

だいたい、今の会員選考方法にしても、学術会議が勝手に決めたものではない。政府の思し召しで、二度の法改正を経ているのだ。

戦前への反省から学術会議が平和を希求するのはあたりまえのこと。だから1954年に原子力研究の是非をめぐって激論を交わしたさい、原子力平和利用三原則をつくって国に要求した。その後も、長きにわたり科学的知見からの政策提案を行った。

ところが、1980年代半ばになって、日本学術会議の活動が偏向しているとして、政府から圧力がかかりはじめた。ターゲットにされたのは会員選考制度だ。

一度目の法改正では、それまでの選挙制をやめ、各学会の推薦によって会員を選ぶことになった。しかし、この変更によって、会員が選出母体の学会の代表として振る舞う傾向がみられるようになったため、2005年に再び法改正で会員選考制度が変わった。現行のコ・オプテーションである。

現役の会員(210人)と連携会員(約2,000人)が、会員候補者と連携会員候補者を合わせて5名まで推薦するという制度だ。身近な人は推薦しないなどのルールがあるようだが、大西隆元会長はこれを手放しで肯定はしていない。

「現役会員が次期会員、連携会員を選考すれば、同質的な集団が再生産されていくという傾向が生ずるのは否めない」と自著で述べ、広く各学会から情報を得て選考に生かしていく必要性を説いている。

ことほどさように、会員選考は難しい。現行制度に問題があるのは大西元会長のみならず、会員、連携会員、OBの誰しもが感じているだろう。しかし、ニ度の法改正によって、ここに落ち着いている。そのルールが生きている間は従うしかない。各会員ができるだけ広い視野で人選するよう自覚するほかないのだ。

法に基づいて推薦した改選候補105人のうち6人を除外したことが、違法ではないか、会議の独立性を損なうのではないか、理由を説明すべきではないかと菅首相は問われているのである。

それを理解しようとしない、いやあえて無視して、学術会議の組織的問題にすり替えているのは、むしろ、菅政権の抱えている深刻な体質といえるのではないのだろうか。菅官邸にこそ、ブラックボックスの名を献上したい。

image by:首相官邸

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新恭(あらたきょう)『国家権力&メディア一刀両断』

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