仕方なくNHKへ? 下重暁子「どこからも女の求人がなくて...」

仕方なくNHKへ? 下重暁子「どこからも女の求人がなくて...」

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  • 更新日:2021/02/21
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下重暁子 (撮影/写真部・小黒冴夏)

家族や老いをテーマにした数々の著書で注目を集める作家の下重暁子さん。早稲田大学卒業後、NHKでアナウンサーになった経歴の持ち主です。女性の就職が難しかった時代のことを作家・林真理子さんとの対談で話してくれました。

【下重暁子さんと林真理子さんのツーショット写真はこちら】

*  *  *

下重:私、子どものとき病気だったのよね。結核ですから、死に至る感染症ですよ。ちょうど戦争が終わるときでしたから、奈良県の信貴山という山、大阪との県境なんだけど、その山のてっぺんにある老舗旅館の離れに、小学校の2年と3年の2年間、縁故疎開してたんです。隔離ですね。

林:寝たきりですか。

下重:散歩ぐらいはしてました。隣の部屋に父の絵とか本が山ほど疎開してあったので、その部屋に行って絵を見たり、本を持ってきて眺めて過ごしてたの。

林:どんな本ですか。

下重:大人の本ですよ。夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、ほかに宮沢賢治、小川未明……。子どものころから本は大好きでした。

林:だったら、NHKじゃなくて出版社に行くという道もあったんじゃないですか。

下重:もちろん。だから当然、出版社を目指したんだけど、試験を受けるチャンスすら与えられなかった。女はお断り。公募ではね。

林:新聞社もですか。

下重:新聞社も。私は、自分で自分を食べさせるのが義務で、そうじゃなきゃ自由は獲得できないと思ってる人間だから、どうしても就職しなきゃいけない。だから毎朝、大学の就職課に行って見てましたけど、どこからも女の求人がなくて、ある日見つけたのがアナウンサーだったわけ。それで民放も片っぱしから受けました。そしたらNHKがいちばん早く決まったんです。アナウンサーは言葉を使うでしょ。その意味では編集者とか記者に近いと自分なりに思ったんでしょうね。

林:ご本を読むと、NHKに入っても、早く物書きに転身したいという気持ちだったそうですね。

下重:ずっとそう思ってました。アナウンサーっていう職業、私はあんまり好きじゃなかったの。早く自己表現が一人でできるようになりたくて、どこかで区切りをつけなきゃいけないと思ってたら、9年目が終わったところで民放が私を買いに来てくれたので、それでやめたんです。

林:NHKをやめてフリーになって、民放の情報番組のMCをなさったんですね。

下重:あのころ、民放は歴史が浅く、NHKのアナウンサーが重用されて、民放が買いに来たのよ。情報番組の司会者とかを。女では野際陽子さんが1号で、私が2号なんです。

林:女子アナウンサーの先駆者ですよね。

下重:そうしながら少しずつ書くほうを増やしていって、やっとこさ70歳近くなってどうにかベストセラーが出て、人さまにも「あの人はものを書く人なんだ」とわかっていただけたんです。

林:同人誌仲間の黒田夏子さんが芥川賞をおとりになったときに、下重さんすごく喜んでましたね。

下重:すっごくうれしかった。

林:作家って嫉妬深いから、仲間が自分より先に芥川賞をとったら、「チッ」て私なんかは思うのに、こんなに仲間の活躍を喜ぶなんて、なんて大らかな方なんだろうと思いました。

下重:黒田さんだからよ。黒田さんは早稲田大学の同級生で、一緒に同人誌をやってたんです。私は「詩を書くね」とか言いながらなんにもやらないで、人の批評ばっかりしてたんだけど、黒田さんは長い長い難しい小説をそのころから書いてたんです。

林:芥川賞の作品もすごく難しかった。

下重:彼女は料亭の事務とかをしながら、どこにも発表しない文章をひたすら書き続けてたんです。私にはそれを送ってくれてたんですけど、長い長い小説で、読むのが大変なの。それをず~っと続けて75歳で芥川賞をとったわけでしょ。私にはできない。それだけ一筋というのはほんとに尊敬します。

(構成/本誌・松岡かすみ 編集協力/一木俊雄)

下重暁子(しもじゅう・あきこ)/1936年、栃木県生まれ。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。アナウンサーとして活躍後フリーとなり、民放キャスターを経て文筆活動に入る。公益財団法人JKA(旧・日本自転車振興会)会長などを歴任。現在、日本ペンクラブ副会長、日本旅行作家協会会長。著書に『家族という病』(幻冬舎新書)、『人間の品性』(新潮新書)、『鋼の女 最後の瞽女(ごぜ)・小林ハル』(集英社文庫)など多数。近著に『明日死んでもいいための44のレッスン』(幻冬舎新書)。

>>【後編/下重暁子「『死ぬときは死ぬがよろし』って最高じゃないですか」】へ続く

※週刊朝日  2021年2月26日号より抜粋

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