「もっと一般向け商品を」元テレビマンの3代目がスマホ冷却ケースを開発

「もっと一般向け商品を」元テレビマンの3代目がスマホ冷却ケースを開発

  • ツギノジダイ
  • 更新日:2020/09/17
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自身が開発したスマホ冷却用ケースを手にするサンハヤト取締役の佐々竜太郎さん。サンハヤトは1962年に祖父の前田清近氏が創業し、日本初の接点復活剤を発売するなど、電子基板関連の商品の製造販売を行っています。佐々さんは創業者の孫で、3代目として事業を継ぐための準備を進めています。

「継がない」と宣言してテレビマンに

スマホ冷却ケースを開発したのは、東京の電子部品関連メーカー「サンハヤト」取締役の佐々竜太郎さん(43)です。佐々さんは現社長の憲夫さんの長男ですが、「元々、機械には興味が無かった」と振り返ります。スポーツを伝える仕事に興味を持ち、就職留年までして、日本テレビに入社します。その時、父には「俺はこの道を進むから、サンハヤトは継がない」と宣言しました。

日本テレビでは一貫して、制作畑を歩みました。「はじめてのおつかい」「ZIP」「高校生クイズ」など、看板番組の制作を手がけ、スポーツ放送にも関わりました。ディレクターとして、充実した日々を送り、結婚して2人の子どもにも恵まれました。「自分で一から番組を企画してヒットさせたい」。そんな40代の目標も描いていました。

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日本テレビのディレクターとして活躍していた頃の佐々竜太郎さん(佐々さん提供)

しかし、2016年の大みそか、転機は突然訪れました。母親が急死したのです。

母が急死・・・悩み抜いて家業に

「母は僕に、ことあるごとに『会社のことを知りなさい。おじいちゃんと話してみなさい』と言い続けていました。今思えば、母は僕に継いでほしいと願っていたのかもしれません。僕は忙しさにかまけて邪険にし続けていたのですが、亡くなって初めて、母の思いに気づきました」

葬儀が落ち着いた後、父と初めてじっくり会社の話をしました。「僕が会社を手伝ったらうれしい?」という尋ね方をしたら、父からは「ぜひ手伝ってほしい」と言われ、心が動きました。家業に戻れば、年収は大幅に下がります。幼い娘2人を抱え、家のローンも抱えていました。悩みに悩んだ末、家業に入ることを決意しました。

「それまでワークファーストで生きてきましたが、ファミリーファーストに生き方を変えてみようと思いました。僕にとってファミリーという言葉は、家族だけで無く家業のことも含みます。僕が何不自由なく暮らせたのも、父が引き継いで会社を守ってくれたおかげです。今こそ恩を返すときだと思ったのです」

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サンハヤトの強みでもある電子基板の関連商品

テレビ局の経験が異業種でも役立つ

2018年春、約20年のテレビマン人生に終止符を打ち、家業に入りました。サンハヤトで扱っているのはほとんどが、一般にはなじみの薄い商材です。「営業に配属されましたが、お客さんから電話で製品名を告げられても、何を指しているのかが分かりません。分厚い製品一覧の冊子をページがちぎれるくらい読み込みました。自分でノートを作って製品分類やお客様からの問い合わせ内容などをまとめました」

事業内容は全く知らないまま入社しましたが、テレビマンとしての経験が役に立ったといいます。「制作現場では、今日はスポーツ、明日は北朝鮮情勢というように、突然知らないジャンルを扱うのは日常茶飯事でした。短期集中で調べたら大体のことには対応できたので、勉強すれば覚えられると思っていました。僕は番組を作る職人だったので、家業のものづくりへの興味もわきました」

サンハヤトの業績は、2000年をピークに右肩下がりでした。しかし、減りながらもコンスタントに注文は入るので、「新しいことに踏み出しにくい雰囲気だった」と言います。「テレビ番組は究極の消費者向け商品でした。サンハヤトも専門的で役にたつものがたくさんあるから、もっと一般の人に向けて商品を作れないかと思っていました」

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新製品の開発に取り組むサンハヤトの社員(佐々さん提供)

自社の素材をスマホケースに

佐々さんは、営業の仕事をしながら、新製品の企画を毎月、提案し続けていました。そんな時、同社が熱伝導シートやヒートシンクというアルミシートを組み合わせ、電子基板の熱を逃がす技術とノウハウを持っていることを知りました。この素材を、スマートフォンのケースに応用できないかとひらめいたのです。

「テレビ局時代に撮影でドローンを使っていたとき、炎天下でモニターとして使っていたスマホが熱くなって操作できなくなってしまったことがありました。その時の経験とサンハヤトの技術が結びついたのです」

企画書を出したとき、「うちは一般消費者向けの商品はやらない」と社内で反対されました。そこで自ら試作を繰り返しました。量産体制を作るため、電話をかけてOEMメーカーを探しました。

熱伝導シートとヒートシンクを組み合わせたスマホ冷却ケースができました。データを取ったところ、ケースの装着前と比べて、スマホの熱が5度以上も下がることを実証しました。ケースの使用で、スマホの故障につながる過熱を抑える仕組みです。

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佐々さんが試作を重ねた冷却ケース

Makuakeでケースがヒット

スマホ冷却ケースは2019年の初めに販売を始め、顧客からのフィードバックを生かしながら、耐久性の強化など改良を重ねていきました。

ケースがヒットしたのは2019年夏、ウェブサービス「Makuake」での販売を始めてからでした。1個10800円という高めの価格設定でしたが、製品の特徴やストーリーを細かく書き込んだところ、メディアに取り上げられ、300万円を売り上げました。他の販路と合わせると、計500万円の売り上げとなりました。

2020年も改良したケースをMakuakeで販売。生産量を増やすことで値段を6480円に値下げして、好評を博しています。

佐々さんは「接点復活剤」という、電子基板の接触不良を解消する工業用の化学製品にも目をつけました。元々は事業者向けでしたが、スマホのコネクターに塗ることで接触の不良改善にも使える家庭用商品に改良し、大手量販店でも扱ってもらえるようになりました。

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スマホのコネクターの接触不良を直す接点復活剤の開発にも取り組みました

「いい物を色々な人に買ってもらいたいという思いは、買い手が事業者でも消費者でも、変わらないのではないでしょうか。僕はエンジニアでもないし、基盤を開発できるわけでもありません。自社の強みをどうやって横展開できるかを考えるのが、常に考えなければいけないのです」

イギリス留学を決意した理由

昨年、佐々さんが手がけた商品の売り上げは1千万円になりました。「実績を示したことで、最初は僕のことをいぶかしがって見ていた社内の目線も変わりました」と言いますが、満足はしていません。「1千万円という数字は、会社の総売り上げ6億円の1.7%です。将来的には会社の構造的な変化が必要で、経営者としてもっと学ぶべきことがあると痛感しました」

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サンハヤトで検品を行う社員

現在、取締役の佐々さんは2021年から、イギリス・ロンドンにある「ロンドンビジネススクール」に1年間の予定で留学を決めました。準備のため、今秋には会社を休職して渡航します。2019年に受験を決意してから、毎日4~5時間は勉強して、合格を勝ち取りました。

「経営の基礎はもちろんですが、海外での製品展開も見据えて、スクールに集まる各国の大企業のエリートと友人になり、いざというときに情報提供を受け、人を紹介してもらえる関係を築きたいと思っています」

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佐々さんは3代目として大きな未来を描いています

ゼロから立ち上げる意識で

佐々さんは帰国後の事業承継に向けて、父と話し合うなど準備を進めています。社長就任後のプランとして、「年商100億円」という高い目標を掲げます。

「中小企業の数は減っても、吸収されるのではなく吸収する側に立ちたいと思っています。今までのやり方を改善するだけでなく、ゼロから事業を立ち上げる意識も必要です。常に成長できる会社を目指していきたいです」

祖父が立ち上げ、父が守ってきた家業を大きく伸ばすという志を胸に、まもなく海を渡ります。

広部憲太郎

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