【中村憲剛×島田慎二対談 後編】 サッカー界、バスケ界にふたりが危機感を覚えている理由とは?

【中村憲剛×島田慎二対談 後編】 サッカー界、バスケ界にふたりが危機感を覚えている理由とは?

  • よみタイ
  • 更新日:2022/05/14
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【中村憲剛×島田慎二対談 後編】 サッカー界、バスケ界にふたりが危機感を覚えている理由とは?

B.LEAGUE(以下、Bリーグ)の島田慎二チェアマンと中村憲剛さんの対談は後編に突入します。
なぜファンや地域との接点が大事なのか、「愛される存在」になるにはどうすべきなのか、Bリーグはどのような未来地図を描いているのか、そしてナレッジシェア(知識の共有)の必要性など、二人の対談はどんどん深く盛り上がっていきます。

(取材・構成/二宮寿朗 撮影/熊谷 貫 ヘア&メイク/川畑春菜※中村さん分)

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コロナ禍でファンサービスなどファンとの接点がなくなっている危機感

(前編よりつづく)

島田
憲剛さんは現役を離れてからもFRO(フロンターレ・リレーションズ・オーガナイザー)として川崎フロンターレに携わっていらっしゃいます。クラブとしてファンとの接点を非常に大切にされていますよね。

中村
そうですね。ただコロナ禍によってそこがなかなかできなくなっているのを僕は非常に危惧しています。いま、(ファンとの接点を)持たなくても、スタジアムに多くのサポーターの方が来たり、グッズが売れたり、試合にも勝っているとなると、接点の必要性を感じない選手が出てくるのが怖いです。僕の杞憂にすぎなければいいのですけど。

島田
私も千葉ジェッツを離れる直前に、そんな感覚に陥りました。社長就任当初は、人気もなくて財政的にも厳しいクラブだったんですけど、次第に盛り上がっていって毎試合のようにアリーナにお客様がたくさん足を運んでくださるようになりました。それまでは社員みんなでチラシを配ったり、なんとか会場に来てもらう工夫をしていました。しかし、そのような取り組みをしなくてもチケットが売れるようになった。

スポンサー営業もそうです。ちょっと前まで飛び込み営業をしたら「ジェッツってなに?」と言われていたのが、「どうすればジェッツのスポンサーになれますか?」と営業しなくても話が舞い込んでくる。私もそのとき、中村さんと同じで非常に危惧しました。

中村
そのお気持ち、とても理解できます。

島田
営業で言えば、私はクライアントを獲得するのがどれほど大変かわかっているからフォローもしっかりやっていかなきゃいけないことも肌身で知っています。売れるのが当たり前になるのが、一番怖いですよ。

中村
本当にそうですよね。選手も同じだと思うんです。フロンターレはコロナ禍になる前までは、トレーニング後に練習場に来てくれたファン・サポーターの方たち一人ひとりにサインをしたり、写真を撮ったりとファンサービスをする機会がほとんど毎日ありました。つまり、日々自分たちを支えてくれる人たちをちゃんと可視化できていたんです。それがコロナ禍によって行えなくなったことで、選手たちは可視化できなくなってしまった。

コロナ以後に加入してきたいまの若い選手たちが、ファンサービスを通じて地域の方たちとの触れ合いを体感できていないのが僕としてはちょっと怖いんです。もちろん、フロンターレがこれまでやってきたことを知識・情報として持っていても、実際に体感しているかいないかでは大きく違いますから。もちろん、クラブもそこに関しての懸念はあるとは思います。

島田
街やクラブ、ファンが盛り上がるところまでたどり着くのは努力の証だとは思うんです。ただスポーツクラブはある意味、公共財として、その地域にずっと生き続けていかなきゃいけない。ひとつ結果が出たとは言っても、もう1回そこは手綱を締めるというか。100年の長いスパンで見ていけば、きつい時期も絶対にあります。なるべくその浮き沈みを減らしていくには、やっぱり危機感をいかに共有できるかってところじゃないですかね。

中村
島田さんは千葉ジェッツ社長時代に、社長自らがファン、スポンサーとの交流をとても大切にされていたとうかがいました。

島田
チームが強くなって、アリーナもお客さんでいっぱいになって、スポンサーさんも集まってきて。でも、それを当たり前に思ってしまうと、どこか(気持ちが)緩んでしまいます。そうならないように、ファンとコミュニケーションを取る機会だったり、スポンサーと会合を持つ機会だったり、そこは絶対にやるようにしていました。

中村
危機感を持って、緩まないように。つまり、社長自らがファンやサポーターの方たちと接することで、よりリアルな現状を把握していたということですね。

島田
そういうことです。

中村
僕は選手も(交流を)もっとやっていいんじゃないかって思うんです。もちろん自分の愛するクラブのため、ということはあるんですけど、僕自身、ファンや地域の方々と交流を持ってきたことによって、サッカー選手としてピッチの中だけではなく、ピッチ外でも存在意義があることを教えてもらいましたし、多くの方たちと交流を図ることで人間的にも成長させてもらいました。結果的には自分にはね返ってくることを感じています。

島田
憲剛さんはもう川崎市とクラブのシンボリックな存在ですからね。映画(「ONE FOUR KENGO THE MOVIE ~憲剛とフロンターレ 偶然を必然に変えた、18年の物語~」)にもなりましたし。

中村
そう言っていただけるだけで光栄です(照)。

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地域に対する愛とチーム愛が、選手としての成長にもつながった

島田
サッカー、バスケ問わず、憲剛さんみたいな選手が増えてほしいなって思いますよ。私からひとつ聞きたいなって思っていたのが、選手のクラブや地域に対する愛情って、どう醸成されていくものなんですか?

中村
やっぱり地域の人たちと一緒につくってきたからこそ、愛情や想いが深くなっていくのかなと個人的には思います。地域に対する愛、そしてチーム愛。応援してくれるまわりの人たちのために、チームのために頑張ると思えたことが選手としての成長につながりました。今、若い選手はどんどん海外に挑戦しています。もちろん、チャレンジすることは素晴らしいことだと思います。その一方で、フロンターレにいても成長できることはあるんじゃないかと思い、僕は18年間プレーし続けました。もちろん、時代や自分の実力など色々な条件や理由はありましたが、僕の場合はその選択は結果的には良かったと思います。

島田
憲剛さんは海外のクラブからオファーがあっても、フロンターレに残りましたよね。Jリーグの他クラブにも行かなかった。練習参加から拾い上げてくれた恩があるかもしれないけど、その恩だけで18年間一筋ではやれないですよ。「愛」の源に何があるのかは、今回ぜひ教えていただきたいと思ったんです。

中村
シンプルにこのチームが「好き」。これに尽きます。チームメイトや監督をはじめとしたコーチングスタッフ、クラブスタッフや、日々を支えてくれるスタッフのみんな、そして共に戦うサポーターやスポンサーのみなさん。もう家族ですよね。この大好きなフロンターレを自分が強くしたい、タイトルを獲りたいという一心で18年間走ってきました。それと同時にサッカーだけじゃなくて、イベントや地域貢献活動も含めた活動も純粋に楽しかったんです。勝っても負けても、ファン、サポーターや地域の方が感情を共有してくれますから。ようは信頼できる仲間と一緒にやることだから、何をやるにしても楽しかったんです。

島田
すばらしい(笑)。ちょっとプライベートなこともおたずねしていいですか?

中村
え、急に(笑)? どうぞ、どうぞ。

島田
奥さまは中央大学サッカー部時代のマネージャーさんですよね。海外クラブからオファーが来た際とか、やっぱり相談されたのですか?

中村
本当にプライベートな話に(笑)。
いや、妻は「憲剛が決めたことに着いて行くよ」というスタンスですね。行きたかったら行けばいいし、フロンターレに残りたかったら残ればいいという感じです。人の感情って、往々にしてシチュエーションによって左右されるじゃないですか。でも、妻はいつもその左右に振れる僕の感情をちゃんと真ん中に戻してくれるんです。それは今もなんですけど(苦笑)。

島田
奥さまはまるでボランチですね。

中村
まさに。我が家の司令塔は妻です(笑)。

島田
選手がひとつのクラブに、それもトップレベルで18年間在籍するって、バスケの世界からしたらすごいことなんです。バスケはコートに5人しか立てませんし、選手が1~2名、入れ替わるだけで下位チームが優勝争いをすることもあります。つまり、より選手が(クラブを)動く可能性がある競技なんです。選手としてもどれだけ現役を続けられるかという問題もありますし、報酬を含めて現実を考えるのが一般的だと思うんですよね。そういった意味で憲剛さんが今、話をしてくれたことはとても参考になります。地域とのつながりとか、愛とか、うれしいキーワードをいっぱいいただけました(笑)。

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Bリーグが盛り上がりつつある今だからこそ、やるしかない!

中村
僕からもひとつ島田チェアマンに質問させていただいていいですか?

島田
もちろんです。

中村
島田チェアマンは2020年にBリーグの3代目チェアマンに就任されました。リーグの基盤というものもおそらくできてきたんじゃないかと感じています。先程、2026-27シーズンから単年の競技成績による昇降格制度を廃止する話もありましたが、Bリーグや、ひいては日本バスケ界が近い将来、どのようになっていくのがベストか。島田チェアマンのお考えを知りたいのですが。

島田
強化や育成のところだと、まさにサッカーの歴史に置き換えてみると分かりやすいと思うんですよ。ワールドカップ予選でしたが、木村和司さんが国立競技場で韓国を相手に伝説の直接フリーキックを決めたのが1985年ですよね。私が子どものころは日本がワールドカップに出られるなんて考えられなかった。でも1993年にJリーグができて、育成のシステムも確立していったわけじゃないですか。1998年に初めてフランスワールドカップに出場し、2002年の日韓ワールドカップがあって、それを見た子どもたちが感動してサッカーを始めてという流れができた。30年、40年かけて築いてきたものが今につながっています。つまり、我々が今やっていることはきっと、サッカーと同じように20年、30年後につながっていくんだろうな、と。

そのために大事なのは専用のアリーナでBリーグの試合を観て、バスケをやってみたいと思う子どもたちを増やしていく。育成のシステムを確立させて、指導者を養成していく。Bリーグは、ユースの仕組みもサッカーを参考にさせてもらっています。ひいてはそれらのことが日本代表の強化につながっていくと考えています。

中村
20年後、30年後のバスケ界につながる仕組みづくりの一方で、Bリーグを盛り上げていくことが最も大切なことだ、と。

島田
子どもたちが、保護者の方たちがバスケの試合に足を運ぼうと思わなかったら、何も起こらないですからね。だから我々は今、夢のアリーナをフィーチャーしているんです。

中村
川崎ブレイブサンダースの試合に、うちの子どもたちをとどろきアリーナに連れていき観戦させていただいたんですが、演出にもバスケの迫力にも魅了されて、子どもたちが興奮気味に「また行きたい!!」とすぐに言っていました。演出やプレーを間近で見れて僕も興奮しましたし、ワクワクしました。あの雰囲気を体感したら、バスケをやりたい!!っていう子どもたちはこれから増えていくでしょうね。

島田
だからこそ今、アリーナなんです。もうちょっとBリーグが盛り上がってから(新アリーナ建設に)動けばいいんじゃないかという声ももちろんありましたけど、先送りにしたところでそんな状況は生まれません。「プロ野球やサッカーのスタジアムは非日常的な空間でいいよね、でもバスケは頑張っているけどやっぱり体育館だもんね」と思われると、これ以上のブレイクがないままになってしまうと思っています。だから今やるしかないんです。

【※編集部注。2021年に沖縄アリーナが竣工。以降もSAGAアリーナ、OTA ARENA、ららアリーナ 東京ベイ、神戸アリーナ、長崎アリーナ(以上、すべて仮称)など続々と、新アリーナが誕生予定】

中村
やらないより、やる。とてもいい言葉だなと思います。やらなかったら何も起こりません。アリーナができて盛り上がれば地域活性化にもつながると思うんです。コロナによって、「スポーツの価値って何だろう」と、ある意味初めて考えさせられた気がしました。それまでは当たり前のように、人前で練習して試合してだったので、できなくなって初めて真剣に向き合わざるを得なくなりました。そして、これも失って初めて気づきましたが、スポーツやエンタメのない世界はとても味気のないものでした。なんていうのでしょうか……あの時は外出もままならなかったので、大袈裟に言うと砂を噛むような、白黒の世界でした。やっぱり生活を彩りのあるものに、元気にさせていくのがエンタメであり、スポーツであると改めて思ったんです。

島田
本当に。同感です。

各クラブの取り組みや成功事例をシェアしていく重要性

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中村
BリーグはJリーグより歴史こそ浅いかもしれませんが、勢いや盛り上がりを見ても肩を並べてきているような感覚を僕は持っています。島田さんはどう感じていますか?

島田
まだまだマイナーですよ。

中村
そうですか? 僕はそんなことはないと思うんですけど……。

島田
日本で野球やサッカーに追いつこうと思うのであれば、発想を180度変えていくことが必要です。そもそも私は雑草タイプの人間ですから、Bリーグのチェアマンだからこそ引き受けたと思っています。私自身はまだまだバスケは日本ではマイナーだと思っていますし、マイナーだからこそ面白い。新しい付加価値をどうつけていくか、プロモーションはどうするかなど何でもいいんですけど、どうやって対抗していこうか考えていくのが楽しいところなんです。だから、固定観念に縛られることもありません。野球、サッカーという先輩が歩んできた歴史から学んだことを、短いスパンでやれるのが第3勢力の強みです。今は攻めるとき、だとも思っています。

中村
第3勢力ならではの強みというと、たとえば?

島田
そもそも実業団中心のNBLと、いまと比べたら小規模ですがプロでやっていたbjリーグが、一本化することとなりBリーグが誕生しました。千葉ジェッツがbjリーグに所属していたころは、琉球ゴールデンキングスの木村さんや、秋田ノーザンハピネッツの水野さんなど、自ら借金をしてリスクを取っている野武士のような社長が集まるリーグでした。みんな生きていくために必死だからナレッジシェア(知識の共有)なんて当たり前の文化がありました。ただBリーグができ昇降格制が生まれて、コート上は競争、オフコートはナレッジシェアとなると、どうしても難しくなって。

中村
なるほど、そこは繊細なところですね。ただ、それはわかる気がします。

島田
そこで一気にナレッジシェア文化が乏しくなってきたので、これはいけない、と。野球、サッカーや他クラブの経験を短時間で学んで成長スピードを上げてきたようなことが、第3勢力の強みであるはずなのに、手の内をみんなが明かさないとなると良い事例も吸収できませんし、スピード感のない組織になってしまう危機感を持ちました。だからBリーグで「ビジネス・マネジメント・ベース(BMB)」という、参加する各クラブの成功事例やうまくいかなかった事例などを集めてシェアするワークショップのような試みを始めました。昨年からスタートして今、力を入れてやっているところです。

中村
すばらしいですね。これも危機感からなんですね。

島田
はい。ただ、リーグ主導でやるのはスタートで、あとはクラブ同士で持続していくということがゴールです。きっかけづくりはしても、ずっとリーグが与え続けるものではないと基本的には思っていますから。地域を規模も歴史も異なるクラブが生きていくために貪欲に勉強していくのは当たり前。だからその両方の観点を持って、取り組んでいるということです。
憲剛さんの映画は、フロンターレの成長と成功の歩みをつまびらかにする、まさにナレッジシェアの好例だと思っています。

中村
ありがとうございます。僕もフロンターレのことだけじゃなくて、実はサッカー界全体に危機感を覚えています。たとえばワールドカップ予選での日本代表の結果も、同じ畑のサッカー関係者と会えばそういう話になりますけど、そこから一歩外に出た時にこれは思った以上に関心が低いぞ、と思いました。そういう意味では冷静な客観視が大事だなと感じています。島田さんは、野球とサッカーを追いかけてとおっしゃってくださいますが、意外とそうじゃないという危機感が肌感覚としてあるんです。

島田
私もそうですよ。スマホでバスケ関連の検索をするから、どんどんバスケの情報が入ってくる。それを見ていると盛り上がっているんじゃないかと錯覚してしまうんですよね。憲剛さんが言うように、大事なのは自分のいる世界から一歩出て、本当にどれだけ関心を持たれているのか、その感覚を忘れちゃいけないですよね。忘れてしまうと打ち手も変わってしまいますから。

中村
島田さんの話は本当にいろいろと勉強になります。時間が経つのが、あっという間でした。

島田
本当ですね。私も今日初めて憲剛さんとこうして話すことができて、Jリーグの理念そのものを体現している人物なんだなって本当によく分かりました。選手としてだけではなく、クラブの価値を上げていこうと一生懸命にやってこられた。サッカーを愛して、クラブを愛して、地域を愛して。そういった話をぜひBリーグの選手たちにしてもらいたいです。今度は私から声をかけさせてください。

中村
僕なんて、とは思いますけど、チェアマンから直々にそう言われたら、断れないです(笑)。

島田
ぜひ、お願いいたします(笑)。これからもサッカー界のため、日本のスポーツ界のため、頑張ってください。

中村
バスケとサッカーがお互いに刺激しあって、高めあっていけたらなと思います。本日はありがとうございました。

(おわり)

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【ケンゴの一筆御礼】

島田チェアマンはイメージどおりの方でした。確固たるビジョンがあって、実行力があって、そして何よりも熱量をすごく感じました。うねりを起こしていくには、熱量が欠かせません。島田さんというリーダーがいるBリーグは、これからもっとうねりを起こしていくんだろうなと率直に感じました。自分のことを「雑草」と表現されていましたが、僕も大学時代は何者でもない「雑草」でしたから、勝手にシンパシーを感じました。BリーグとJリーグはライバルであり、同志。ぜひ一緒に日本とスポーツ界を盛り上げていければと思っています。また島田さんの熱量に触れたいですし、いい刺激をいただけたらなと思います。島田チェアマンありがとうございました。

この連載は不定期連載です。次回はどんなゲストが登場するか? お楽しみに!
(取材時は感染対策を徹底し、撮影時のみマスクを外しています)

島田チェアマンの新刊、絶賛発売中!

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元千葉ジェッツ社長として、クラブを事業面、強化面ともにリーグトップに成長させた実績を持つ、現B.LEAGUEチェアマンによる「経営者」「ビジネスマン」「ファン」「スポンサー」「地方自治体」……すべての立場に役立つ、わかりやすいスポーツビジネスの教科書決定版。

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