ランドローバー「常識を壊す」挑戦 なぜ999段の石段を駆け上ったのか

ランドローバー「常識を壊す」挑戦 なぜ999段の石段を駆け上ったのか

  • Forbes JAPAN
  • 更新日:2021/05/06
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世の中には「信者」を抱えるブランドが数多く存在する。いわゆる「カルトブランド」である。顧客はブランドの挑戦、つまりチャレンジする姿勢に共感し、信者となる。誰でも実現可能なプロジェクトではチャレンジとは呼べない。

なかでも、カルト的人気を誇るブランド「ランドローバー」のチャレンジは、常識を壊すものであった──。

ホフマン社長が語った「ブランディングを超えて」

「信者」の獲得を目指すカルトブランディングのカンファレンス「ザ・ギャザリング」が4月19~21日、バーチャルイベントとして開催された。筆者は昨年、カナダで開催された同カンファレンスに足を運んでいる。今年はバーチャルイベントということで、熊本のオフィスからオンライン参加した。

カンファレンスでは毎年、注目に値するカルトブランドを表彰している。今年はカーブランド「ランドローバー」、「ネットフリックス」、「カワサキ」、ビールブランド「バドワイザー」、ECプラットフォーム「ショッピファイ」などが受賞した。

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2021年に表彰されたブランドの一部

例年、受賞ブランドの担当者は、カンファレンスでプレゼンすることになっている。ランドローバーについては、ジャガー・ランドローバー・カナダのウォルフガング・ホフマン社長が登壇。「ブランディングを超えて」と題しプレゼンした。

99のヘアピンカーブと999段の石段への挑戦

プレゼンでホフマン社長は、度々「チャレンジ」という単語を口にした。ランドローバーが大切にする姿勢である。一例として、ある動画が流された。

場所は中国・湖南省の天門山。頂上へとつながる999段の石段を前に、ランドローバーの車「レンジローバースポーツ」が停車している。ハンドルを握るのはル・マン24時間耐久レースを制したレーシングドライバー、ホーピン・タン。

次の瞬間、アクセルを踏み込むと、車は斜度45度の急な石段を一気に駆け上った。山を包む濃い霧が、チャレンジの困難さを連想させる。しかし車が止まることはない。車はフォグランプを点灯させたままゴールに勢いよく入った。車から降りたホーピン・タンは、左の拳を何度も振り喜びを表現する。緊張から解き放たれた瞬間である。日本時間の早朝、リアルタイムでプレゼンを聴講した筆者は、動画に釘付けとなった。

ユーチューブで動画を探してみた。すると、動画には天門山の99のヘアピンカーブを走る、前半部分もあることが分かった。13年間このヘアピンカーブを走っているというバスドライバーの男性が、「40キロ以下でしか走らない」と口にする。カーブを通る際、「乗客は悲鳴を上げる」とも。ホーピン・タンは、そのヘアピンカーブを猛スピードで走り抜けた。ヘアピンと石段を走破するプロジェクト名は「ドラゴンチャレンジ」。ヘアピンが白い竜に見えることから名づけられたようだ。

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ヘアピンカーブが白い竜に見える(YouTubeより)

チームは入念に準備した。車が本当に石段を登れるのか、テストを繰り返した。結果、無事クリアした。なんという緊張感。なんという無謀なチャレンジ。しかし、車の性能を伝える上で、これ以上の見せ方はないとも感じた。筆者も思わず感情移入した。動画の再生回数は400万回を超えている。

カルトブランディングに直結するチャレンジ

ランドローバーは、これまでにいくつものプロジェクトのチャレンジしてきた。「インフェルノダウンヒルチャレンジ」では、世界で最も難易度が高いとされるダウンヒルレース「インフェルノ」のコースを、レンジローバースポーツで走破した。高低差2170メートル、最大斜度75度、全長14.9kmのコースは、走破というより”滑降”という表現の方がふさわしい。英国のレーシングドライバー、ベン・コリンズは、チャレンジ成功後に安堵した表情を見せ、ゆっくりと車を降りた。その様子からは、真剣なチャレンジであることが伝わってきた。

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インフェルノダウンヒルチャレンジの様子(YouTubeより)

英国のコベントリー環状道路では2018年10月、自動運転で周回する実験に取り組んでいる。ランドローバーの資料によると、「英国で最も困難な道路レイアウト」だというが、史上初の自動運転による環状道路の周回を達成した。

最高時速40kmで、車線変更や合流、交差点での退出といった動作を実現。「将来の自動運転車を開発する上で役立つ」としている。また、ランドローバーは今後5年間で6台の電気自動車を開発する予定だともいう。意欲的な挑戦である。

拙著『カルトブランディング 顧客を熱狂させる技法』(祥伝社新書)の中で触れたが、カルトブランディングには以下のキーワードがある。

イデオロギー/異端児/敵/リーダーシップ/象徴/愛/コミュニティー/緊張感/聖地/常識を壊す/ストーリー/ライフスタイル/体験/文化(カルチャー)/不変/共創

ランドローバーのチャレンジからは、異端児/リーダーシップ/緊張感/常識を壊す/ストーリー/共創、を感じる。チャレンジという行為自体が、いくつものカルトブランディングの要素を内包しているのである。

2020年のカンファレンスで表彰された米国のミニカーブランド「ホットウィール」も、チャレンジを大切にしている。

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世界で一番売れているおもちゃ「ホットウィール」(ザ・ギャザリングのスライドより)

ホットウィールは、米国のミニカーブランドである。1968年に販売を開始。これまでに製造した数は80億個を突破している。今では日本国内の玩具店でも、当たり前のように目にする。

失敗を成功の機会にする「グロースマインドセット」

ホットウィールが支持を集める理由の一つに、チャレンジという姿勢がある。同ブランドのチャレンジの中心に位置する考え方が「グロースマインドセット」(=Growth Mindset、成長型マインドセット)である。

「フィクストマインドセット」(=Fixed mindset、固定型マインドセット)とよく対比して使われるグロースマインドセット。その最大のポイントは、失敗を自分たちの成功の機会と捉えることにある。一方、フィクストマインドセットは、失敗を自分たちの能力の限界と捉える。ホットウィールは好んで新しいことに取り組むグロースマインドセットによって、様々なイベントや企画を打ち出し続けている。

チャレンジは、ホットウィール創業のストーリーに由来するものだ。ホットウィールを製造するマテル社の創業者は、ルースとエリオット・ハンドラーの2人。ルースは世界的に知られる人形「バービー」を製造していた。一方のエリオットは、少年向けのよりよいおもちゃを作りたいという夢を持っていた。ある日、彼はついにチャレンジを始める。ロケット科学者とカーエンジニアの助けを得て、おもちゃのデザインに着手したのだ。

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2020年に開かれたザ・ギャザリングでプレゼンするホットウィールの担当者(筆者撮影)

そして、子どもたちの創造力を刺激する次なる商品「ホットウィール」が誕生した。そこから50年以上もの間、ホットウィールはパフォーマンスとデザインについて「チャレンジ」という姿勢を貫き続けている。

創業のストーリーと、ブランドのアイデンティティーや文化がつながっていることほど強いものはない。結果、顧客のエンゲージメントを高めるとともに、強固なブランドを生む。

先行き不透明な時代に、ブランドの前向きなチャレンジは歓迎される。チャレンジが困難であればあるほど、また意義深いものであればあるほど、オーディエンスは信者へと近づくのである。

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