マクドナルドは満席だが会話はない ロシア軍のミサイル攻撃を受けたキーウの街を歩いた【現地ルポ】

マクドナルドは満席だが会話はない ロシア軍のミサイル攻撃を受けたキーウの街を歩いた【現地ルポ】

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  • 更新日:2022/11/25
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ミサイル攻撃の現場(ウクライナ国防省のツイッターより)

ロシアが11月23日、ウクライナ全土に70発のミサイルを発射、攻撃した。首都キーウなど各地で住宅や火力発電所などが攻撃され、電気・水道が止まった。被害の大きい首都の街中を歩くと、市民の心の傷が見えてきた。(岡野直=キーウ)

【写真】酷い。思わず顔をそむけたくなる攻撃の現場23日昼すぎ、滞在先のホテルで、突然トイレの水が流れなくなり、使用済みのトイレットペーパーが残ってしまった。水道も止まり、手が洗えない。ノートパソコンを開き、キーウ市長のクリチコ氏のSNSを見ると、市民への呼びかけが出てきた。

「ミサイル攻撃により首都全域で断水中。復旧に全力をあげているが、念のため、水を備蓄してください」

ホテル近くの雑貨店に行き、水5リットル入りのペットボトルを2本買った。中年の男性店主に「ミサイルはどこに落ちたんですか。断水はいつまで続くのでしょう」と尋ねると、「戦時下だよ。そんなこと分かりません」とぶっきらぼうに答えた。パニック買いは起きなかった。どこのスーパーでもいつでも水が買えたからだ。国の西側から運ばれた水が多く、ウクライナの流通網は攻撃の後も生きている。

クリチコ市長(51)は身長2メートル、元ボクシングの世界ヘビー級王者。そのSNSは、ジャブのような短い、具体的な文章で、発信によって市民に安心感を与えている。

「地下鉄は混んでいるかもしれませんが、防空壕としては良い。避難しよう」とのSNS投稿を読み、私はホテル近くの地下鉄駅へと向かった。キーウの地下鉄は深い。長さ約100メートルのエスカレーターを降りきるとプラットフホームに。核戦争のときも使え、冷戦時代、地下壕として設計された。しかし、この日、避難する人はおらず、通常通り、乗客が乗り降りしていた。「ビー、ビー、ビー」という空襲警報はほぼ毎日なる。地下へ隠れる決まりだが、守らない市民が多い。ミサイル攻撃への一種の「慣れ」が生まれている。

しかし、地下鉄車内は異様な緊張感に包まれていた。キーウ中心部のボグザルナ駅へ向かうと、乗客は男女みな眉間にしわを寄せ、沈鬱な顔つき。口を開く人は誰もいなかった。

駅前のマクドナルドに入った。満席だったが、会話する人はいない。不機嫌にスマホを見つめる人々。ストレスは、ミサイル攻撃だけではない。彼らの友人、親類が日々、前線で戦死している。その戦いがいつ終わるのかも分からない。クリチコ市長によると、この日のミサイル攻撃により首都で、17歳の女の子を含む3人が死亡、11人がけがをした。

加えて、「年内にロシア軍が再び、首都キーウを攻撃する可能性が高い」という情報が当地の軍関係者の間で流れている。北の隣国ベラルーシで、ロシア軍が部隊を再編成しているとされるためだ。「北からの脅威」がキーウ市民の懸念材料となっている。

ただし、どの国の軍隊も「最悪のシナリオ」を想定したうえで、装備の購入や訓練をする。キーウ再攻撃の情報も軍が内部で作る「シナリオ」の一つであり、実現可能性はよく分からない。だが、相手はプーチン大統領。その行動は予測不可能だ。そこに市民のストレスの根源がある。

翌24日朝、通勤時間帯にキーウの地下鉄に乗ってみた。右隣のウクライナの中年女性が微笑みを浮かべていた。「東京の朝の地下鉄も同じくらい混んでいます」と話しかけてみた。白い歯を見せて笑った。女性乗客同士で談笑する人もいた。24時間後、水道が復旧した。この日、午後には市内のあちこちで談笑する市民の姿が再び見られた。まる1日たち、少なくとも見た目は、街が元の姿を取り戻したかのようだった。

ロシアが狙うミサイルの「威嚇効果」はどれほどのものなのか。

首都の数カ所で、通りがかりのキーウ市民の男女10人に(1)ミサイル攻撃をどう感じるか(2)ウクライナ人の士気は攻撃で落ちないか(3)停戦のための外交交渉に移るべきだと考えるか、をインタビューしてみた。

60代の男性 「もちろん、怒っている。ロシア人と戦わないといけない」

30代の女性 「ミサイルが落ちるたび、ショックは受ける。でも、ウクライナがロシアと戦わなければならないという気持ちは変わらない。これだけのウクライナ人が死んで、『クリミア半島はロシアのものになりました』ですみますか。ロシアとの外交交渉はありえません」

20代の女性 「電気が止まり、気持ちはミサイルが落ちるたびに落ち込みます。かりに外交交渉で合意してロシア軍が戦いをやめたとしても、半年後に再びウクライナに侵攻してくるでしょう。交渉には反対です」

70代の男性 「自分は怖くない。死ぬときは死ぬし、死なないときは死なない。神のみぞ知るだ。ロシアとは400年戦ってきたんだ。ミサイルを撃たれたら、士気は高まるに決まっている。交渉は相手があるので、分からない」

ロシアが怖くなったとか、戦争をやめるべきだとかいう人はいなかった一方、ショックを受けたという人は半数だった。

このミニ調査の以前にも、数十人のキーウ市民に同じ質問をした。ほぼ全員が、ミサイル攻撃に激しい怒りをあらわにした。タクシー運転手のオレクさんは(47)は「2月に本格侵攻が始まったころは、悪いのはプーチン一人で、ロシアの大衆は騙されているのだと思っていた。部分的動員に応じるロシア人たちが現れ、ミサイルのみさかいない攻撃が始まり、ロシア人全員に責任がある、と今は思っています」と話した。

ウクライナの都市部では、ミサイルでできた穴は、当局がすぐ工事してふさいでいる。水道の復旧も早かった。ロシアが、ウクライナ都市部の市民を殺すことで、その士気を下げようと思っているのなら、見当違いだ。

とはいえ、25日現在、キーウ市内の多くの地区で停電が続く。商店の半数はシャッターを降ろし、私が知り合いに連絡しようとしても、WiFiがつながらない。市民生活の多くがストップしている。

「来週もロシアのミサイル攻撃があると思うよ」。タクシーに乗ったら、元軍人だという運転手が言った。軍事筋からの情報だろうか。再び、水道が出なくなり、停電が広がるのかもしれない。弱いものいじめ、としか言いようのない、理不尽なロシアの攻撃である。

ロシアによるウクライナへの大規模なミサイル攻撃は、10月10日と11月15日にもあった。前者では120人以上が死傷した。

「ミサイルは児童公園に落ちました。周りに軍事施設は何もありません」。その10月に攻撃されたキーウ中心部の公園をウクライナ人女性、ワレンチナさん(28)が11月中旬、甥を連れて散歩していた。彼女の知り合いの女性が1人、ここで亡くなったという。「時間は午前8時過ぎでした。少し遅かったら、遊びに来た多くの児童が死んでいたことでしょう」

民間人や民間施設を狙った攻撃は戦時であっても国際法で禁止されている。ミサイルを撃ったロシア人たちは、将来、国際刑事裁判所で裁かれる可能性もある。

岡野直/1985年、朝日新聞社入社。プーシキン・ロシア語大学(モスクワ)に留学後、社会部で基地問題や自衛隊・米軍を取材。シンガポール特派員として東南アジアを担当した。2021年からフリーに。関心はロシア、観光、文学。全国通訳案内士(ロシア語)。共著に『自衛隊知られざる変容』(朝日新聞社)

岡野直

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