お笑い制作集団「シオプロ」の戦い方 【令和テレビ談義】~東京芸人を知る裏方編~<3>

お笑い制作集団「シオプロ」の戦い方 【令和テレビ談義】~東京芸人を知る裏方編~<3>

  • マイナビニュース
  • 更新日:2022/01/15
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●募集してないのに入社希望の手紙が

バナナマン、東京03、オードリーはいかにして現在のポジションを確立したのか 【令和テレビ談義】~東京芸人を知る裏方編~<1>

YouTube・サブスク動画配信サービスの台頭、視聴率指標の多様化、見逃し配信の定着、同時配信の開始、コロナ禍での制作体制――テレビを取り巻く環境が大きく変化する中、最前線にいる業界の“中の人”が語り合う連載【令和テレビ談義】。

第6弾は、バナナマン、東京03、オードリーなどと仕事し、“東京芸人”をよく知る放送作家のオークラ氏、制作会社・シオプロ社長の塩谷泰孝氏が登場。2人とともに『バチくるオードリー』、そして『新しいカギ』を手がけるフジテレビの木月洋介氏をモデレーターに、全3回シリーズのテレビ談義をお届けする。

最終回は、塩谷氏が率いる制作会社・シオプロの謎に迫る。お笑いに特化した集団による“全員野球感”とは。テレビ局で失われつつある技術継承とは。そして、ネット配信の隆盛やコンプライアンス意識が高まる中での戦い方とは――。

○■フリーの“野良ディレクター”が集まってきた

――オークラさんと塩谷さんの出会いは、どこだったのですか?

オークラ:TBSのナイナイさんのお正月特番ですね。ちょうどチュートリアルさんが『M-1』で優勝したとき(2006年)の収録で、そのときの僕は若手作家としてイジられている頃だったので、「使えねえ作家だな」と思ってたかもしれないですけど(笑)。その翌年に『ゴッドタン』(テレビ東京)でレギュラーを一緒にやるようになりました。その後もTBSの『ドリームマッチ』とか特番をよくやって、一時期、年末の時期は毎年塩谷とずっと一緒に過ごしていたイメージがあります。あとはネプチューンさんの番組…

塩谷:『奇跡ゲッター ブットバース!!』(TBS)ですよ。

オークラ:そうそう(笑)

塩谷:だから、なかなか長い付き合いになりますね。

木月:塩谷さんがシオプロを立ち上げたのは、いつ頃ですか?

塩谷:27歳くらいです。『ガチンコ!』(TBS)が終わってすぐくらいの頃ですね。個人会社として立ち上げたから最初は誰もいなくて、『リンカーン』(TBS)や『ゴッドタン』でディレクターをやっていくうちに、だんだん仲間が増えていったんです。

オークラ:『ゴッドタン』には、フリーの“野良ディレクター”がいっぱいいて(笑)、彼らが「ちょっとシオプロってところに集まろうか」って入っていったイメージがありました。

木月:塩谷さんがたまたまその中で一番経営者っぽかったんですか?

オークラ:ちゃんと会社経営をしようとする人がいなかったんですよね。みんなのらりくらり生きているような人たちで、お笑いのディレクターってそういうのにしっかりしてない人が多かった(笑)。野武士みたいな人が多いから、「雇われたら、やりますけど」みたいな感じ。

木月:塩谷さんは違ったんですね。

オークラ:塩谷はしっかりしてましたよ。

塩谷:いやいや、そんなんじゃないんです。25歳くらいから、フリーの立場でやっていることが不安でしょうがなかったんです(笑)。会社を作れば同じお笑い好きの仲間が集まって、自分だけではできない何かをやり遂げれるかもしれないと思って作ったんです。

木月:意外(笑)

オークラ:僕の知ってるお笑いゴリゴリのディレクターの中で、一番不安症のイメージですね。

(一同笑い)
○■仕事より『M-1』決勝観戦を優先するAD

オークラ:でも、「シオプロ」っていうのを認識したのは、『そんなバカなマン』(2015~17年、フジテレビ)くらいですよね。

木月:それくらいでしたよね。「シオプロ」っていう会社があるんだってみんな知ったのは。どれくらいの時期から、人が増えていったんですか?

塩谷:『ゴッドタン』をやってるあたりから、「入れてください」っていっぱい手紙が送られてくるようになったんですよ。どこにも募集かけてないのに、「募集してますか?」って電話の問い合わせもくるようになって。それで、当時ホームページがなかったんで、「とりあえず作るか」みたいな感じになって。

木月:今のかっこいいデザインのやつですか?

塩谷:その前に、目がチカチカするヤバいデザインのやつがあったんです(笑)

オークラ:やっぱり「シオプロ」っていうのがお笑いブランドとして見えたんですよね。『ゴッドタン』って特殊で、武闘派お笑いというより、“文系童貞バラエティ”だから、そういうオタク系のお笑いが好きな人たちが応募してきたんじゃないかな。

塩谷:たしかに(笑)

木月:シオプロ生え抜きの人で活躍されている方もいるんですよね。

塩谷:一番最初に応募してきたのは、美濃部(遥香)Pですね。あの子は全く募集してないときに手紙をくれた子です(笑)

オークラ:「お笑いが好き」と言ってきたADやスタッフで女の子が結構いましたけど、いまだに付き合いがあるのは美濃部くらいですよね。『ゴッドタン』とか『チャンスの時間』とか『バナナサンド』とかやってる。本物ですよね。

塩谷:お笑い濃度の高い番組ばっかりやってます(笑)

木月:やっぱりそういう人が多いんですね。

塩谷:いやあ、みんなめっちゃ詳しいですよ。札幌よしもとの若手芸人さんの名前全部言えたりする子とかいて、たまに怖いときありますから。

(一同笑い)

木月:すごいなあ。そういう人を塩谷さんが引き寄せちゃうんですよね。

オークラ:『バチくるオードリー』のプレビューの日が『M-1』決勝の日で、夕方の6時半にシオプロに行ったら、「M-1がどうしても見たいADが1人帰りました」って言われましたから(笑)

――理解のある会社なんですね(笑)

塩谷:そうですね、そこは(笑)

●罰ゲームの伝統技術を継承「科学実験工場みたい」
木月:シオプロさんがすごいのは“全員野球感”ですよね。

オークラ:今の制作会社には珍しいですよね。

――AD、ディレクター、プロデューサーという別け隔てがないという感じですか?

塩谷:「みんなで協力してやろう」みたいな感じなんです(笑)

木月:全員で前日に小道具とか探してますもんね。

オークラ:最近のバラエティってシミュレーションが不足してる番組が、また増えてきてるんですよ。熱湯風呂をやるのに養生ができてなくて浴槽むき出しで置いてあったりとか、YouTubeでやってるゲームの罰ゲームを見てそのまま持ってきて、誰も実験しなかったとか。最近はだんだん罰ゲームもなくなってきてるからそういうことが起きるんですけど、代々伝わってきた罰ゲームという伝統を、シオプロは受け継いでいて、そこに対する意識が高くなってきてる感じもあります。今、罰ゲームは本当廃れてますからね。業界的に必要とされなくなってるというのがありますけど。

木月:でも、たまに必要になるんですよね。

オークラ:“下町ロケット感”がありますよね。何回もシミュレーションするんで、シオプロって科学実験工場みたいになってるんですよ。

塩谷:普段目にしないような物が、たくさんあるんですよ。そういうのをいろいろ手に入れて実験してますね。壁と床全てがブルーシートで1年中覆われている部屋がありますね(笑)

オークラ:本来そういうのは、フジテレビで受け継がれていたんですよね。前にレジェンドと言われる先輩ディレクターの方に、そういう技術を1回本にまとめたほうがいいんじゃないかって提案したけど、いまだに実現されていません。

塩谷:本当そうですよ。普通のわさびより濃度がヤバくて辛さというより、むせてしまうわさびって、フジテレビさんが開発したものなんですから。

オークラ:『みなさん(とんねるずのみなさんのおかげでした)』ですよね。そういう伝統技術って芸人においてもそうで、『(天才・たけしの)元気が出るテレビ!!』(日本テレビ)で、爆弾につながる導火線を付けられたら芸人は、遠くに逃げるんじゃなくてちゃんと集団の中に逃げないといけないとか(笑)。最近はそういう基本的なスキルをみんな知らなすぎるので。「箱の中身は何だろな」で両サイドからヘビのいる箱に手を突っ込んでも、ヘビが怖がっちゃって下にしか行かない。だから、正しくは下の方から手を入れるとワ―って絡んでくるんですよ。そういう基本的な技術は残していかないといけないですよね。

塩谷:もったいないですもんね。

木月:そういう技術が、局じゃなくて今シオプロさんに残っているという(笑)

オークラ:いわゆるギリシャ文明がヨーロッパで廃れちゃって、イスラムに渡って発達して、ヨーロッパで復興しようとルネッサンスが起きたみたいなことです(笑)。フジテレビが育んだ技術が、今シオプロで発達している。ただ、痛いのがダメという話になってきているから、これからどんどん変わってくるかもしれないですね。

○■「痛み伴う笑いはやめよう」の流れが…

――コンプライアンスの意識が高まる中で、大変な部分はありますか?

塩谷:そこまで言われることはないですけど、やっぱり「痛み伴う笑いはやめよう」とか、そういう話は出てきてますね。全体的にそういう流れになっていくんじゃないですかね。

――そうした制約の中でもシミュレーションを重ねて、ノウハウを引き継いでいくというのが大きな役目になっていくんですね。

塩谷:そうですね。ルールはちゃんと守りますので(笑)

木月:塩谷さんは古い感じじゃなくて、常に最新鋭ですからね。

オークラ:武闘派のディレクターみたいに「こんなんじゃ面白いのできねーよ!」って言うタイプじゃないですからね。

塩谷:決められたルールの中でやって、ダメって言われたら「じゃあやめましょう。違うのやりましょうか」ってなりますから。

――視聴率の指標が変わって、追い風は感じますか?

塩谷:世帯視聴率が指標だったときよりは、面白いことを結構やれる感じでありますよね。

木月:『バチくるオードリー』ができたのも、そのおかげですからね。

塩谷:そうですよね。変に「情報入れろ」とか、言われなくなりましたもんね。

オークラ:テレビって予算が減ってきてるじゃないですか。その中では、やっぱりどっかで常軌を逸したエネルギーがないとなかなかうまく作れないと思うんですよね。今はお金がかけられないから、人海戦術、人の努力でカバーしなきゃいけないんだけど、それもなかなかさせづらい環境にある。そこらへんをうまく打破できれば、もしかしたら新しいすごい番組が生まれるんじゃないかなと思って。

●「自分たちが芸人を笑わせたんだ!」がモチベーションに
――シオプロさんにおいて、番組制作で特に意識してることは何ですか?

塩谷:最終的に視聴者に「面白い」「面白くない」と思われるのはタレントさんなので、番組に出ていただいた方には、損をさせない。そこだけは意識してます。

木月:ちゃんと芸人さんが面白く見えるように作ろうという意識を感じますよね。

オークラ:シオプロの場合って、制作側が仕掛けたものを演者がリアクションとるというパターンも多いじゃないですか。ADたちが一生懸命作ったものを本番に出した瞬間、芸人が笑う。そうすると「自分たちが芸人を笑わせたんだ!」ってなるから、モチベーションとしては大きいんじゃないかなと思います。

木月:それは大きいだろうなあ。自分がADのときもそうでしたもんね。自分の用意した小道具でタモリさんが笑ったらうれしい!ってなりましたから。

オークラ:ADの人って、働き方改革が進んでもいまだに辞める人が多いじゃないですか。それは、肉体的につらい仕事を辞めるというよりは、やりがいのない番組を辞めていくんだなという感じなんですよね。

木月:昨年は160人ぐらい新卒の応募がきたんですよね。

塩谷:このご時世にありがたいです。

木月:濃ゆいお笑いやりたい人がそんなにいっぱい志望してくるって、すごくないですか?

塩谷:でもなぜか、採用した方が卒業できない問題が毎年起こるんです。せっかく内定出したのに、「卒業できませんでした」って。いつももうちょっと採れば良かったなと思います。

木月:お笑い好きなら、シオプロに入ったほうがいいですよね。

塩谷:すぐ芸人さんたちに会えますから(笑)
○■“お笑いの濃い部分をやっている”ブランディング

――シオプロさんでのテレビと配信などの割合は、今どれくらいですか?

塩谷:半々くらいですね。ABEMAを何本かやらせていただいてるのと、フィッシャーズさんのYouTubeのお手伝いみたいなのもしてます。あとスクエニさんのYouTubeとか。ちなみに、CMもやってます。ご依頼お持ちしております。

木月:やっぱりブランディングがしっかりしてるから、そういう依頼がくるんですよね。

オークラ:それが大事だと思いますよね。これからよりそういう時代にはなってくると思いますよ。プラットフォームが増えてるから。そうなったときに「あそこに頼めばああいうものができるんだな」というイメージできることが重要な時代が、確実にやってきている。

塩谷:そうですね。だからテレビだけじゃなくて、いろいろなメディアを試していくのも大事だなと思います。

オークラ:シオプロっていうのは狙ったつもりじゃないのかもしれないけど、お笑いの濃い部分をやってるというのがブランディングされつつあるから、それを求める客からダイレクトに課金できるシステムが作れれば、面白くなっていくと思いますが…。

木月:やっぱり配信系のバラエティですかね?

オークラ:でも配信系のバラエティって、タレントのギャラとかが難しいですよね。逆に芸人なしのバラエティをシオプロが作ったときに、面白いことが起きるんじゃないかなとも思います。

木月:確かに。Netflixとかで海外に売れるバラエティってなかなか難しいですもんね。そういうのをシオプロさんがやってくれるといいですね。

塩谷:ぜひ頑張ってほしいですね。

オークラ:お前がやるんだよ(笑)

木月:このオークラさんと塩谷さんの関係が面白いんだよなあ。なんですか、この癒着関係みたいな(笑)

オークラ:癒着関係はないですよ。俺が利用されてるだけですよ(笑)

木月:でも、オークラさんのことをシオプロの人だと思ってる人、結構いると思いますよ(笑)。一時期シオプロさんのTwitterアイコンにもなっていたし。

オークラ:やっぱり完全に利用されてますね(笑)

次回予告…~テレビ&YouTubeディレクター編~

●オークラ1973年生まれ、群馬県出身。97年にプロダクション人力舎に入って芸人として活動し、その後放送作家に転向。バナナマン、東京03の単独公演の初期から現在まで関わり続け、『トリビアの泉』『はねるのトびら』『そんなバカなマン』『とんぱちオードリー』(フジテレビ)などを担当。現在は『ゴッドタン』(テレビ東京)、『バナナサンド』『週刊さんまとマツコ』(TBSテレビ)、『バチくるオードリー』『関ジャニ∞クロニクル』(フジテレビ)、『バナナマンのバナナムーンGOLD』(TBSラジオ)などを担当する。近年は日曜劇場『ドラゴン桜2』(TBSテレビ)の脚本のほか、乃木坂46のカップスターWeb CMの脚本監督なども手がけ、21年12月に著書『自意識とコメディの日々』を出版した。

●塩谷泰孝1977年生まれ、福島県出身。日大東北高校卒業後、『ガチンコ!』 (TBSテレビ)の番組ADを担当。27歳で制作会社・シオプロを設立し、『リンカーン』『神さまぁ~ず』『ヒムケン先生』『バナナサンド』 『オオカミ少年』(TBSテレビ)、『コレアリ』(日本テレビ)『ゴッドタン』『ウレロ☆シリーズ』(テレビ東京)、『そんなバカなマン』『とんぱちオードリー』『ウンナン出川バカリの超!休み方改革』『バチくるオードリー』(フジテレビ)、『日村がゆく』(ABEMA)などを担当する。

●木月洋介1979年生まれ、神奈川県出身。東京大学卒業後、04年にフジテレビジョン入社。『笑っていいとも!』『ピカルの定理』『ヨルタモリ』『とんぱちオードリー』などを経て、現在は『新しいカギ』『痛快TV スカッとジャパン』『今夜はナゾトレ』『キスマイ超BUSAIKU!?』『ネタパレ』『久保みねヒャダこじらせナイト』『出川と爆問田中と岡村のスモール3』『バチくるオードリー』『人間性暴露ゲーム 輪舞曲~RONDO~』などを担当する。

中島優

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